36 王立学校祭 その3_10
* *
「うぅ~ん。あれじゃダメかなぁ。上兄様(キャスパー殿下のこと)は武術マニアだからさ、……とっくにセイントーク流合気術の型、全てマスターされているのよね」
「「「えっ!?」」」
ハルコンは、シルファー先輩の言葉に、思わず背中がゾクリとした。
それは、傍にいたミラやステラ殿下も同様だったようで、……。
どうやら、私達はキャスパー殿下の才能を見誤っていたようだと、ハルコンは今更ながらに後悔した。
数分の後、殿下は平然としているというのに、特設の壇上の者は皆、大きく肩で息を繰り返していた。
マルコム兄達はイメルダの競技者達が瞬殺されたのを見て、用心深く攻撃を試みていたのだが、……。
でも、キャスパー殿下の方が、更に一枚上手だった。
兄達の攻撃は、どんなに気張ったところで、髪の厚み程の差でかわされ続けてしまう。
「クソッ!?」
「届かないっ!?」
「どうなってんだ、これっ!?」
必死の形相で迫ってはみたものの、殿下は壇上を舞うようにしなやかに体を捌いていく。
「「「「「「「「「「ワアアアァァァーーッッ!」」」」」」」」」」
演武が始まってからかなり経過していたにも拘らず、その姿は相変わらず美しい。観客席から、再び拍手と歓声が沸き起こった。
壇上は、相も変わらずキャスパー殿下の一人舞台だ。殿下は時おりこちらをご覧になると、笑顔を浮かべながら「ほらっ、早くっ! キミもお出でよ!」と、引き続き誘ってこられるのだ。
「さすがは上兄様。身のこなしも素晴らしく、妹の私でもドキドキしてしまいますわ。ねぇーっ、ステラ殿下っ!」
「はっ、はいっ。私もそう思いますわ」
シルファー先輩に話を振られてしまい、咄嗟に返すステラ殿下。おそらく、兄思いの先輩を気遣って、無難に返事をされたのだろうと、ハルコンは思った。
すると、隣りに立つミラが、ハルコンの軽装服のシャツの裾をくいっ、くいっと引っ張ってくる。
「ねぇ~っ、ホンとどうすんの、ハルコン?」
先程よりも心配そうなミラの表情。ハルコンも、思わず口の中が苦くなった。
壇上の殿下は、「トン」、「トン」と小気味よく対戦する演者達の額に人差し指を伸ばしてゆき、……。
その次の瞬間には、イメルダのサークルメンバー達と同様、兄達も膝元から崩れ落ちていった。
すると、壇上の最後の一人が倒れ伏すのを見て、キャスパー殿下は満面に笑顔を浮かべると、両手を勝ち誇るかのように天に掲げなさった。
「「「「「「「「「「ワアアアァァァーーッッ!」」」」」」」」」」
その姿は次期国王の器として誠に美しく、観客席からあらん限りの拍手と歓声が沸き起こった。
壇上に立つ者は、今度こそキャスパー殿下お一人のみ。
歓声冷めやらぬ中、殿下はこちらを改めてお向きになると、……。
「もうキミだけだよ、ハルコン!」と、明るい声で促してこられたのだ。




