36 王立学校祭 その3_09
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いや、……でも、私が出ていってはダメだろ、……。
私の立場は、あくまでセイントーク流合気術の「始祖」ということであり、たとえ兄達のサークルにピンチがあっても、軽々と手を下してはならない立場だからね。
だから、キャスパー殿下のお申し出には、丁重にお断りをしないといけないかなぁと、ハルコンは思った。
「ハルコンッ! オマエは出るなっ! ボク達に任せておけっ!」
マルコム兄が叫びながら、特設の壇上にサークルメンバー数名を引き連れて駆け上った。
そして起き上がったイメルダのサークルメンバーと共に、10数名の競技者でそれぞれのポジションから緩やかに構えると、……。
「「「「「「「「「「ヤァーッ!」」」」」」」」」」」
ここで、雄たけびを上げて、決めのポーズを取った。
その次の瞬間!
「「「「「「「「「「ワアアアァァァーーッッ!」」」」」」」」」」
もう会場中、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。
会場の観客達の多くは、急速に広まっているセイントーク流合気術の練習生達だ。
だから、イメルダのサークルの助太刀に入ったマルコム兄達を見て、期待を込めて大いに応援した。
「にっ、兄様っ!」
ハルコンは心配しつつも、固唾を飲んで兄達の活躍を願った。
すると、ハルコンの肩をポンと叩く者がいる。
振り返るとシルファー先輩とステラ殿下。先輩は不敵な笑みを浮かべ、殿下は少しだけ心配そうな表情を浮かべていらっしゃる。
「いいのよ、ハルコン。あなたは黙って見ていなさい!」
「えぇ、……。そのつもりなのですが、……」
確かに、シルファー先輩の仰ることは尤もだ。
でも、才能溢れるキャスパー殿下が、習得された「ワンフル」で兄達を軽くひとひねりしてしまうことは、容易に想像できた。
傍らのミラは、胸元を手で押さえつつ、マルコム兄達の方を心配そうに見つめていたのだが、……。
「ねぇ、……いいの、ハルコン?」
不安そうな表情を浮かべ、そう訊ねてきた。
「ここは、兄達に任せよう!」
「うん、……ワカった」
ミラはこくりと頷くと、目にグッと力を込めて兄達を見守った。
ミラもまた、セイントーク流合気術の有段者だ。ここは兄弟子であるマルコム兄達の心意気に期待して、しっかり見届けようと思ったようだ。
特設の壇上では、キャスパー殿下を囲むようにして、兄達とイメルダのサークルメンバーが構えている。
その構図は、白き長躯の若き犬狼を、少年達が何とかして取り押さえようとしている風にも見えた。
「キャスパー殿下っ! いざっ! 参りますっ!!」
ハルコンの合気術は防御が主体だが、18の攻撃の型もある。
その中には、対人ではなく対野獣を想定したものが3つある。その場合は一対一ではなく、多対一を想定しているのが基本だ。
キャスパー殿下が不敵そうに「かかってきな!」とばかりに手招きをすると、マルコム兄達は、仲間ウチでアイコンタクトをして頷き合う。
「「「「「「「「「「いざっ!!」」」」」」」」」」
そう叫ぶと、一斉に各所から飛びかかった。




