36 王立学校祭 その3_03
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おそらく、ファイルド国王宮の総意として、キャスパー第一王子殿下が隣国の王妃、ステラ第三王女殿下と結ばれることを、強く望んでいるのだろう。
王宮の広大な庭の一角には、ステラ殿下の住まわれる瀟洒な邸宅がある。
その2階建ての白き建物に、連日ファイルド国中の要人が面会に訪れ、隣国コリンドとの交易の機会を窺っているのだ。
隣国コリンドは軍事国家だ。同時に鎖国国家でもあり、大いに謎に包まれていた。
だが、私ことハルコン・セイントークが隣国の皇室のピンチをお救いして以降、インフラの整備及び内需の拡大が進み、その余剰生産物が周辺諸国に輸出されるまでに至っている。
目下のところ、我が国と隣国コリンドの間には、大体3つのルートが開かれている。
その数少ないパイプのひとつが、ステラ殿下を経由するルートなのだ。
そこを何としても押さえておきたい。それは、王宮として正しい判断だと言えた。
ふむ、……さて、さて、……。
王宮の思惑どおり、キャスパー殿下は隣国の姫君の心を掴むことが出来るのかな?
ハルコンは、ステラ殿下もまた相当な傑物、女子だから女傑ではないかと理解していた。
それは、ファイルド国のシルファー先輩にも匹敵するというワケだ。
だから、ハルコンは思うのだ。
ステラ殿下はさ、なかなかオトすのは難しいよ、……とね。
「さぁて、……キャスパー殿下のお手並み拝見といこうかな」
思わず呟くと、隣りで軽装服に着替え終えたケイザン兄が、ギョッとした表情を浮かべた。
「ハルコンッ、不敬罪、不敬罪だぞっ!」
「ワカってますって! ただ私としましては、ステラ殿下のお気持ちにあまり配慮せずに王宮が動いていることに、内心面白くないなぁと思いまして、……」
すると、色をなした表情で、ケイザン兄はこう訴えてきた。
「ハルコン、オマエから動いては決してダメだぞ! 我々貴族は、王族の配下にあるということを、決して忘れるな!」
「……」
なるほど。ケイザン兄の言うことは、誠に以て正しい。
だけどさ、私はワカっているんだ。
地球の歴史的事実を知っている身からすると、「王政国家の寿命は、概ね短い!」ということをね。
私はラスキン国王陛下を始め、王族の皆様を大変尊敬しているからこそ、この王政が少しでも長く続くように、あえて波風を立てていかなければならないと思っているんだ。
「いいか! オマエのことを思って言っているんだ! 今回の件、オマエは一切口出しするな! 黙って、どうなるかジィ~っと様子を見ていろっ!」
「なるほど。ワカりました」
ケイザン兄の言うとおりだと思った。ここは、兄の言うことに大人しく従っておこう。
でもさぁ。ステラ殿下って、相当な曲者だよ。
そんじょそこらの王族程度では、とても太刀打ちできないんじゃないのかなぁ、とハルコンは内心ほくそ笑みながら思った。




