22 仙薬エリクサーにまつわる話_08
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「よくきたなっ! ワシがここのギルマスだっ! ハルコン・セイントークとミラ・シルウィット嬢だな? 聞いたぜ、オマエさんら、相当強いんだってな?」
爬虫類と人の中間のような顔で、ニヤリと笑うギルマス。
ハルコンは、進化の可能性のひとつを見たような気がして、思わず感心してジィッと見つめた。
「おぅ、オマエさんらは東方3領の出だってな。ワシのような竜人は珍しいか? ワッハッハ、……」
「はいっ、何だかとっても不思議な感じがして、フフフッ、……」
ミラもハルコンにつられて、「フフッ」と笑った。
「おぅ、今日は調べものだってな? ウチの資料室は、王都随一の情報の集約地点だ。大抵の調べ物は、ここで片が付く。こちらの女性、ミルコがここの研究員だ。彼女にワカらないものなんてないと思うから、存分に訊いてやってくれ、なっ!」
「はいっ。ありがとうございますっ! よろしくお願いしますっ!」
ハルコンがニッコリ笑って挨拶すると、ミルコ女史は優しそうに微笑んだ。
ギルマスは、そのまま挨拶だけしたら下がるのかと思ったが、ニヤニヤとした表情を浮かべ、こちらの様子を観察している。
ミラは、大男のギルマスに少し気圧されたようで、幾分青い顔をしていた。
何だか王都にきて以来、ミラが人見知りするようになってきたなぁと、ハルコンはちょっとだけ心配になった。
「では、ハルコン君。王都の森に用事があると伺っております。何か、森でお探しなのだとか?」
「はいっ。こちらの植物を探しているのですが、……ご存じありませんか?」
ハルコンは数点の和紙を取り出し、ミルコ女史に手渡した。
「これは、……」
女史が丁寧な手つきで受け取ると、和紙に描かれた細密なイラストを見て、不思議そうに考え込む。
「このイラストの植物は初見なのですが、……ハルコン君、あなたがお描きになったのですか?」
すると、ギルマスが「どれどれぇ」と言って、数点のウチ、一枚を手に取ってじっと見る。
ピンク色の花の描かれたそれは、説明するのに十分な出来栄えだ。
「これは、ワシも見たことがない植物だなぁ、……」
そう言って、2人とも腕組みをして考え込んでしまった。
このイラストの植物は、実は地球世界にある「夾竹桃」を描いたものだ。
ハルコンが前世の晴子時代、それも関東地方のとあるゴルフ場の敷地内で採取した放線菌は、この夾竹桃の木の根元の土から採取したものだ。
ちなみに、……ハルコンが生前に研究を秘匿することに使った試薬Aは、この夾竹桃の花の成分を抽出した、いわゆる「毒」であった。




