P.1-β 1 『再び任務』
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《ツギノセカイニログインシマシタ》
「………!!………はあっはあっ……」
…死ぬかと思った。
ここは、あの人の貸してくれた部屋……ということは、今までのは、夢………やけにリアルな夢だったな。まだ体の震えと汗が止まらない。まだこのまましばらく動けそうにない。
今までのはただの悪夢、俺の妄想…ということは、ルナは死んでない。そうだよな、大丈夫だよな。そんなことないよな……
「おう、起きたか。朝飯、もうできてるぜ」
「はあ…わざわざありがとうございます」
「気にすんな。遠慮せず食えよ」
自分の部屋を出ると、今朝見た夢と同じように、俺を助けてくれた店主さんが声をかけてくれた。言われたままに見覚えのある机の前に座り、見たことのある食事が運ばれてきた。
明らかにおかしい。今日の悪夢と一致しすぎてる。
まさか、正夢ってこと…?
ちょっと違う点を挙げるとすれば、俺の起きてから部屋を出るまでの時間と、パンに塗られているジャムの種類くらいだろうか。そんなの誤差の範囲だが。
その夢の通りに、俺は店主さんに尋ねてみた。
「あの、こんな一方的に助けてもらってばっかりじゃ申し訳ないので、恩返しがしたくて…なにか俺にお手伝いできることありませんか?」
すると、店主さんは少し驚いたような顔をして、そのあとに笑顔になってこう言った。
「やっぱり人助けっていうのは助けた俺に利益が返ってくるもんだねえ。それじゃあ、帝都までこの荷物を運んでくれ。俺はここで魔道具の店やってるんだが、お得意さんがあっちの都市に住んでるもんだからよ」
予想通りの発言をした後、店主さんはちょっと大きめの木箱と干し肉と水筒、そして文字が書かれた名刺のような紙を俺に渡した。
「これを衛兵さんに見せれば場所は教えてくれるさ。よろしく頼むぜ」
「……はい」
多少の違いはあれど、ここまでおおむね悪夢と一致している。このまま行くと、俺は、あの謎の男に殺される…かもしれない。これは、断るべきか…?いや、自分から言っておいてそれはさすがに失礼だ。あと、俺があの森に勝手に入ったからあの男に出会ったんだ。入らなければいい……
「……ルナ…」
「ん、どうした?具合でも悪いのか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました。行ってきます」
「おう、しっかりやれよ」
俺は、その託された物とともに魔道具店を後にした。
落ち着いて考えてみるんだ、俺。あの悪夢と違うところは、店主さんに渡された魔道具がちょっと大きくなったくらいか?ちっさい変化も含めると、パンに塗ってあったジャムの種類。あとは俺の発言が変わった、それは仕方ないとして、流れはほとんど、っていうか全く変わってない。俺は今から帝都に向かうんだ。店主さんに頼まれて、魔道具を届けに。
まずは街道に出てみた。さすがに細かい人の往来までは覚えていないが、たぶんなんら変わりはないはず。とりあえず、俺は魔道具を届けるために、ここを歩いていかなければならない。
すると、また悪夢とは少し違うところが現れた。なんなら今回は俺の知ってる悪夢以外の事実とも違う気がする。もしかしたら気のせいかもしれないが、森の面積が広くなってる。
今まで通り、普通に歩いてきたつもりだ。歩くスピードも変えたつもりはない。けど、明らかに早く森まで着きすぎた。看板もある。”危険につき進入禁止”の文言は変わってないようだった。
どうしよう。中に入って、ルナのところまで行って危険を伝えるべきか?そもそも間に合うのか?森が広くなっていても家の位置は変わってないのか?色々と不確定要素が多すぎる。
それでも、ルナを助けに行かないという選択肢は俺には選べなかった。死ぬかもしれないし、ルナは助からない運命かもしれないのに。俺は魔道具の箱を看板の前に置いて、そのまま足を森の中に踏み入れた。
俺は走ってルナの家があったはずの場所に向かっていた。綺麗な円形の湖を通り過ぎて、たどり着いたのはかなり走った後だった。
どうだ?家の中に入るか?いや、あまり音は立てたくない。あいつに見つかったら殺される。だから大声で叫ぶなんてもってのほかだ。
俺は、家の裏を確認してみた。今回も誰もいない。その後に周りを見回してみた。人の気配は俺以外にない。
少しほっとして、油断したその時、森の奥からドサッという何かが落ちるような音がした。
この音は……あ、あ、あ、あ、間違いない、ルナだ、ルナの死体が落ちた音だ、ということは、あいつも近くにいるーー
俺は、できるだけ音を立てないように、かつできるだけ急いで逃げた。ルナの死体を確認もせずに。見たくもないから。そんな最悪の光景。
戻ってきた。誰にも見つからずに。大丈夫だ、多分、大丈夫だ。
恐怖で腰が抜けて少し動けなくなってしまったが、俺にはあの店主さんから託された物があるんだ。動かなくちゃならない。
俺は一旦息を整えてから、水を飲んで、再び帝都まで出発した。気になることはいっぱいあるが、進まなくちゃならない。悪夢とは違う未来を辿ることができているだけまだマシだと考えて。
「……ルナ…」