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P.1-α 2 『生活の始まり』

俺はルナに言われた通り、地図に従って近くの町まで歩いて行くことにした。

『この森は”怪異”が出る』とルナが言っていた割には、普通の森である。変な現象とかも見られないし、特徴的な地形とかもない。途中に不自然なほどに綺麗な円形の湖があったくらいだろうか。


その森をしばらく歩いていると、地図に記されている通りに街道に出た。特に整備などはされていなさそうだが、道は平らで綺麗だ。人通りはそこまで多くないが、商人と牛車の一行や散歩人などがちらほらいる。その道に沿って町が見える方向に歩いていった。






ようやく町の入り口まで辿り着けた。もうすでに日は暮れかかっていた。

町に着いたはいいものの、こんな時間から仕事を探すのは無理そうだ。しかし、一晩泊まれる場所…は最悪野宿でいいとして、今日の食事だけは確保しておきたい。


今の俺は完全に一文無し状態、売ってお金になりそうなものも持っていない。


今夜の食事は無しにするか?でもあそこで起きてからなにも食べないままかなり時間が経っているし、そもそもあそこで起きた時点でかなり空腹だったのを忘れていた。ルナに何か食べ物もらっておけばよかったかな。いや、さすがにたった一人の少女にそこまでの迷惑はかけたくもない。


森に帰って食料を探すか?いや、それもダメだ。ルナ曰く”怪異”が出るらしいから。その”怪異”とやらの危険度は分からないが、わざわざ忠告されるってことは行かない方がいいだろう。


どうしよう。今まで夢中で歩いていたから気づかなかったけど、めっちゃ喉乾いた。今日は普通の過ごしやすそうな晴れの日だったけど、起きてから水は一滴も飲んでない。


とりあえず足が疲れていたから、路地裏に入って壁にもたれて座り込んだ。今日のところは諦めてここでこのまま寝るか。


「おい、そこのお前、こんなところで寝てちゃ風邪ひくぜ」


無意識に目を瞑っていた俺の前に、かなり背の高い男が立っていた。その男は俺の姿をじろじろ見て言った。


「お前、もしかして住む場所ねえのか?こんななりだと仕事もなさそうだしな」


「……」


明日から働いて生活しようと思っているのだが、そういう怪しそうな返答はできない。男は少し考えてこう言った。


「しょうがねえな。今日のところは俺ん家泊まっていけや。連れてってやるから、ほら、立て」


「……ありがとうございます」


ちょっと強面の顔からは意外な優しい提案だったが、一文無し無職ホームレスの俺には受け入れるという選択肢しか頭に浮かばなかった。人は見た目で判断しちゃいけないな。でもルナは見た目通り可愛くて優しい子だと思う。少なくとも俺が見た感じではそうだった。そうあってくれ。


その男の家で彼の妻と思われる女性に食事を振舞ってもらった。久しぶりの食事で自分の抑止力があまり仕事せずにかなりたくさん食べてしまったが、『気にするな』と言ってくれた。優しい。

そのまま来客用の部屋の布団に案内してもらって、無事に一日目の夜を越すことができた。






翌朝も食事を振舞ってもらった俺は、このまま何もしないのも申し訳ないと思って、何か手伝えることはないか尋ねてみた。


「やっぱり人助けっていうのは助けた俺に利益が返ってくるもんだねえ。それじゃあ、帝都までこの荷物を運んでくれ。俺はここで魔道具の店やってるんだが、お得意さんがあっちの都市に住んでるもんだからよ」


そう言って、その店主は小さめの木箱と干し肉と水筒、そして文字が書かれた名刺のような紙を俺に渡した。


「これを衛兵さんに見せれば場所は教えてくれるさ。よろしく頼むぜ」


「はい、ありがとうございました」


「おう、しっかりやれよ」


俺は、その託された物とともに魔道具店を後にした。






町を出て、さっきの街道に戻ってきた。ルナからもらった地図によると、帝都は町からルナの家の方角にかなりの距離を進んだ場所にあるらしい。今回は食料も水もある。あの人いい人すぎるでしょ。


歩いていると、またルナのいた森の横まで戻ってきた。ちょっと覗いてみたが、森の中には誰かいる気配はなかった。近くに”危険につき進入禁止”と書いてある看板が立ててあるのを見つけた。そんなふうに書かれていて、自身も危険だと思っている森の中になぜルナは住んでいるのだろうか?ルナの自由だとは思うけど、自殺願望とかはないことを願う。


やっぱり少し心配だな。仕事中だけど、まだ昼ごはんを食べるような時間にもなってないし、迷惑かもしれないけどルナの家に行ってみるか。ちゃんと『お仕事もらえました』って言って安心させてあげたい。まだ一回きりのおつかいだけど。

そうやって変な理屈で俺自身を納得させて、誰も見ていないことを確認してから森の中に入ってルナの家に一直線に向かった。

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