キャラメイクに悩んだ結果、僕は僕だった。
放課後、僕はゲームショップに向かった。
『エルドレイズ・アルカディア』のことが気になって仕方なかった。
MMOは初めてだし、少し不安もある。
でも、あのクラスメイトたちの盛り上がりを思い出すと、どうしても試してみたくなった。
「いらっしゃいませー!」
ゲームショップのドアをくぐると、店員の明るい声が迎えてくれる。
ふと周囲を見渡すと、壁には色鮮やかなポスターが何枚も貼られていた。
その中でもひときわ目を引くのが、『エルドレイズ・アルカディア』の大型ポスターだった。
広大なファンタジー世界を背景に、様々なキャラクターたちが躍動している。
その中央には、「究極のフルダイブVRMMO、ここに誕生!」というキャッチコピーが大きく書かれていた。
一瞬、息をのむ。
実際にプレイすれば、このポスターのような世界に飛び込めるのだろうか。
棚には最新のゲームがずらりと並んでいたが、僕が探しているのは一つだけだ。
すぐに見つけた。
『エルドレイズ・アルカディア』のパッケージが、他のゲームとは違う存在感を放っている。
光沢のあるデザインに、「究極のフルダイブVRMMO」 のキャッチコピー。
「これください。」
レジでお金を払い、ゲームを手に入れる。
店を出た瞬間、袋の中のソフトを見つめる。
(本当にやるのか……?)
少しの不安と、抑えきれない期待を胸に、僕はそのまま家へと向かった。
家に着くと、まずはリュックを置いて制服を脱ぎ、部屋着に着替える。
すぐにゲームをしたい気持ちを抑えつつ、まずはやるべきことを終わらせる。
宿題を片付け、夕飯を食べ、お風呂に入る。
時計を見ると、もう21時過ぎ。
僕の自由時間は、ここからが本番だ。
机の上に置かれた『エルドレイズ・アルカディア』のパッケージを手に取る。
表紙を撫でると、少しひんやりとした感触。
「よし……やってみよう。」
そうつぶやきながら、僕はVRヘッドセットを装着した。
視界が暗転し、次の瞬間、鮮やかなログイン画面が目の前に広がった。
「ようこそ、エルドレイズ・アルカディアへ。」
静かで心地よいナレーションが響く。
目の前に浮かぶのは、キャラクター作成画面。
「まずは、名前かぁ」
いつもと同じ感じでいいか。
『ユーマ・フォレスト』
本名の『尾古森悠真』を少し弄っただけの名前。
あまり凝った名前にすると呼ばれたときに返事が出来ないと拙いし。
(って、名前呼んでくれる人なんて、できるかな……)
ふと暗い気持ちになるが軽く首を横に振って気持ちを変える。
「……キャラメイクか」
画面には、無数のカスタマイズ項目が並んでいる。
肌の色、目の形、髪型、体格……細かく設定できるらしい。
正直、こういうのは選択肢が多すぎると逆に困る。
自分好みのキャラを作るのが楽しい人もいるんだろうけど、僕はあまりこだわりがない。
キャラメイク画面を前にして、僕は腕を組んで唸った。
「えっと……まずは髪型か。短髪にするか、ちょっと伸ばしてみるか……。
いや、せっかくだしロングもアリ……? いや、それはないな……。」
次に目の色を変えてみる。
「金色とか、赤とかもカッコいいけど……うーん、ちょっと違う気がする。
やっぱり青系が落ち着くかな……。」
顔立ちのパーツをいじってみるが、なかなかしっくりこない。
「ちょっと鼻を高くしてみたけど……なんか違和感がすごいな。目をもう少しつり目にしたら……怖すぎるかも。うーん……どうすればいいんだ?」
何度も調整を繰り返しているうちに、気づけば元の設定に戻っていた。
「……結局、これが一番しっくりくるんだよな。髪型はどうしようか、目の色は?せっかくだから別の自分を作るのもありかもしれない」
でも、どんな組み合わせを試してもしっくりこない。
何度も変更を繰り返して、結局―――。
「もういいや……これで」
気がつけば、画面に映るのはほぼ自分と同じ姿のキャラだった。
僕のキャラは、ゲーム内でもリアルの自分とほぼ同じ容姿になった。
髪は青みがかった黒のショートヘア、瞳の色は深い藍色。
身長は標準的だが、やや華奢な体型をしている。
派手すぎず、どこか落ち着いた雰囲気のあるキャラになった。
変に悩むくらいなら、そのままの自分でいい。
ステータスが横に出ている。
攻撃力や素早さなどの基本ステータスがある中に種族があった。
種族は人族。
ちょっと気になって、狼の耳をつけてみると獣人となった。
キャラメイクによって種族が自動で変わるのは面白い。
でも、ちょっと自分には合わないなと思って外す。
そして職業を選ぶ画面に移る。
職業は勿論、魔術師。
「魔法、使ってみたいしな……」
初期装備は上から下へと色が濃くなっていく深緑のローブ。
落ち着いた色合いで、シンプルながらもどこか神秘的な雰囲気を醸し出している。
袖口や裾には細かな刺繍が施されていて、軽くても丈夫そうな布地だ。
武器は青い石が先に付いたロッド。
すべての設定を終え、最後の決定ボタンを押す。
「キャラクター作成完了。ゲームを開始します。」
視界が白く染まり、僕は“ゲームの世界”に降り立った。
目を開けると、そこはまるで現実のように作り込まれた街だった。
青空が広がり、石畳の道の上を人々が行き交い、風に乗ってどこかからパンの焼ける香りが漂ってくる。
「……すごい」
思わず息を呑むほどのリアルさ。
目の前を歩く人々の表情や、遠くで響く鐘の音、すべてが完璧に作り込まれていた。
「とりあえず……動いてみよう。」
ゆっくりと一歩踏み出す。
身体は軽く、違和感はまったくない。
そのまま、わくわくしながら街を散策しようとしたその時、耳元でアラームが鳴った。
0時、五分前のアラーム。
いつも熱中しすぎて時間を忘れてしまうので設定している。
しまった、もうこんな時間か。
「今日はここまでかな」
名残惜しさを感じながら、僕はメニューを開き、ログアウトを選択した。
明日は休みだ。またこの世界に来よう。
そう思いながら、僕はゆっくりと目を閉じた。