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 海にアイテムを沈めておけるといっても、流石に限度がある。

 言わずもがな、売るためのアイテムは出店してから購入者が出るまで在庫を抱える必要があった。

 更にアイテムの中でも、海中に保存出来ないようなアイテム、たとえば『ノコギリキツネの毛』みたいなものもあって、そういうものはどうしても自分の部屋とかに持ってこなくてはならない。

 

 他にも、俺がダンジョンに潜るためのアイテムも、そこそこ数が増えてきた。

 ダイビングスーツの代わりに切るようになった『俊敏な服』とか、どう考えても海底ダンジョンには使わない炎の属性効果が付与されたアイテムとか。

 

 ……使わなくても、お買い得のアイテムが出てると、どうしてもポチっちまうんだよなぁ。

 

 そうなると、もはや物欲が止まらない。

 毎週断捨離として不要だと思うアイテムを『クリエラム』で売ったり別のアイテムとトレードしているのだけれど、どういうわけだかアイテム数は減るどころか増える一方だ。

 何かのパラメーターがバグっているとしか思えない。

 

 ……どうする? 買うか? 船買っちまうか? アイテム置き場用に。

 

 もちろん、アイテム置き場に使えるぐらい大きな船を買えば、俺がプレイヤーであることはその瞬間露見する。

 それは避けたいので、そうなると残る手段は、一つのみ。

 

 ……ついに、買っちまうか? あれ、買っちまうか?

 

 震える指で、俺は『クリエラム』のページをクリックする。

 そこには、あるアイテムが表示されていた。

 それは――

 

『収納ボックス』。

 効果は、アイテムを無限に収納できるというもの。

 お値段、驚愕の一億円。

 

 ……しかも中古で一億! でも『フレイムソード』20個分だと考えると、手が届くと思えてしまう。

 

 きっともう、俺の感覚はバグっている。

 アイテムの売買を行うようになって気づいたけど、プレイヤーがダンジョンで使うアイテムで有用なものであればあるほど、高い値がつくようになっていた。

 逆に『ウォーウルフの爪』や『ノコギリキツネの毛』といった素材系は、プレイヤーではなく一般企業なんかが買い付けることが多い。

 地球に存在していなかった素材なので、それを使って新しい製品を生み出し、世の中に販売しているのだ。

 

 ……俺が買った『俊敏な服』も、そのうちの一つだよな。

 

 ウエットスーツのように着れるのに、ダンジョン内での移動速度が上がる。更に防寒、防刃性能もついていれば、海底ダンジョンに潜る時に着ない理由がなかった。

 お値段は、『フレイムソード』10個分だ。

 

 ……そりゃ皆、お金だして生存率上げようとするよなぁ。

 

 一度ダンジョンに入ってしまえば、死の恐怖はあれど一攫千金という夢がある。

 どれだけの金額を稼いだとしても、その次に稼ぐために、という考えに、どうしてもなってしまうのだ。

 そのため次ダンジョンに潜るために、稼いだぐらいお金をアイテムを購入(生存率を上げる)のために使ってしまう。

 

 一億円する『収納ボックス』に手を出そうとしている俺も、その金をかける部類になってしまった。

 レベルも三ヶ月以上ソロでダンジョン攻略を行っているので、もう50に到達している。

 アイテムを売り買いするのとおじさんの手伝いをしていたので、そのレベルがどれぐらいの意味合いを持つのかまで調べきれていない。

 

 ……でも、一応大台に乗ったし、記念にそろそろ買ってもいいよな?

 

 そう思っていると、なんと一億円する『収納ボックス』が売り切れとなっていた。

 無限にアイテムを入れれるそのアイテムの需要は、大規模な人数でダンジョン攻略を行いたい大手パーティーには必須アイテムだ。

 だから当然、需要も多かった。

 

 ……くそっ! 次! 次出店されたら、絶対買ってやる!

 

 だが、そう思っているときほど、不思議と欲しい商品が出店されなくなったりするものだ。

 結局、俺が『収納ボックス』を入手出来る算段がついたのは、夏休みが半分ほど終わった頃。

 おじさんの手伝い以外の時間を、ほぼ全て海底ダンジョン攻略につぎ込んだ、そんな夏の日だった。

 

 ◇◇◇

 

「大丈夫? 正一。チケットもった? ハンカチは? ティッシュあるよね? あ、風邪薬持っていった方がいいよ、何あるかわからないし。あと、スマホ出して? 失くしちゃった時のために、追跡用のアプリ入れておこうよ。そっちの方が正一も安心でしょ?」

 

 お昼前。東京、本州行きの船に乗るため、家を出ようとしている俺に、琥珀が矢継ぎ早に言葉をぶつけてくる。

 俺は溜息を吐きながら、口を開いた。

 

「フリマ系のサイトで買ったものを受け取りに行くだけなのに、大げさだな。チケットもハンカチも持ってるよ。ティッシュも風邪薬も一泊するホテルにあるだろうし、最悪なんとかなるだろ。スマホもなくしたらメーカーの紛失調査アプリ使うから大丈夫」

「そんなこと言って、なかったらどうするの? ほら、カバンとスマホ出して。アプリ入れるから」

「なければ向こうのドラッグストアとかコンビニで買うからいいって。島みたいにすぐ閉まらないんだから。あと、無理やり俺の位置情報を自分のスマホと共有しようとするな」

 

 そう言うと琥珀は、どういうわけだか若干泣きそうな顔になる。

 

「だ、だって、東京だよ? 都会だよ? 何があるかわからないじゃん! 拉致られて薬漬けにされてメス堕ちさせられたらどうするの? 正一!」

「むしろ、そんな状態になった俺をお前は助け出せると思っているのか?」

「助けるよ! 家族だもんっ!」

「お、おう……」

 

 あまりの気迫にスマホを渡しそうになるが、ギリギリのところでどうにか思いとどまった。

 

「なんで? どうしてなの? 正一。私に知られるとマズいことでもあるの? それともホテルはホテルでも違うホテルに泊まるの? マッチングアプリとかで待ち合わせするの?」

「島を離れず生きようとしすぎて、鴻田井島以外に偏見持ち過ぎだぞ、琥珀」

 

 いやいやモードになってる琥珀に、呆れたようにおじさんとおばさんが声をかける。

 

「おい、琥珀。そろそろ正一は出発の時間だから、そろそろ放してやれよ」

「そうよ、琥珀。あ、向こうについたらあっちのリフォームメーカーのパンフレットもらっておいてくれないかしら?」

「買収され過ぎだよ、お父さんもお母さんも!」

「お前も指輪ねだっただろうが。いい加減そろそろメーカー決めろ」

「……………………うーうー! 正一と約十八時間も離れるなんて耐えられないよー! そんなに長い間離れてたことなんてなかったのにーっ!」

「琥珀。どさくさに紛れて、俺が船に乗ってから一泊せずに直で船で帰ってくる時間(約十八時間)で帰ってくるみたいに言うのはやめろ。それから、俺の親が生きてる時は普通に三日とか四日会わなかったこともあるだろうが」

「おじさんとおばさんの話出すのずるい! それずるいよ! 禁止カード! 引き止めれないじゃんか!」

 

 ……いや、引き止められても行くんだよ。

 

 なにせこれから、『収納ボックス』の受け取りを東京で予定しているのだから。

 既に一億円振り込んでいるので、行かないという選択肢が俺にない。

 

 前に行った通り、アイテムの保管場所がなくなってきたので、俺はどうしても『収納ボックス』が必要な状況にある。

『クリエラム』どころか『ZANAMO』にすら中々出店されないので、『クリエラム』に出店された時点で即ポチした。

 

 だが、『クリエラム』は『ZANAMO』と違い、出店者と購入者で交渉が可能だ。

 俺がポチった出店者は、島に送るのは輸送費がかかるので、自分がいる東京まで取りに来て欲しいという。

 

 ……輸送費もこっちが持ってもいいって、言ったんだけどなぁ。

 

 だが、相手は頑なに東京まで現物を取りに来ることを望んでいた。

 仕方がないので俺はそれを受けて、今日東京に船で向かおうとしている、というわけだ。

 

 幸いお金には余裕もあったし、東京も行ったことがない。

 最近プライベートの時間はほとんど海底ダンジョンでレベル上げとアイテム回収に使っていたので、気分転換にちょうどいいと思っていたのだ。

 

「それじゃあ、いってきます」

「気をつけてな」

「お土産とパンフレット忘れないでね?」

「正一! 東京の女は怖いんだからね! 騙されちゃダメよ! 公園で立ってる人にも声かけちゃダメ絶対! お金の話もしちゃダメだから! 捕まるから! 忘れないでよ、正一! 女と話しちゃダメ! 死ぬわよ!」

「修羅の国すぎんだろ東京」

 

 ……っていうか、女の人と話すなって。俺に買い物もさせない気なのか? 琥珀は。

 

 お土産を買わなかった理由を琥珀のせいにしたら、あいつがおばさんに殺されかねんよなぁ、と思いながら、俺は船が着く港まで向かっていく。

 思いがけずたった一人のせいで盛大にお見送りされて、俺はようやく船に乗り込むことが出来た。

 

 ……これで、ようやくゆっくり出来るな。

 

 鴻田井島から東京まで、船で大体七時間半ほど揺れることになる。

 波の影響で到着時刻は前後するだろうけれど、東京に着くのは午後八時ぐらいになりそうだ。

 

 ……今日は浜松町のホテルで一泊して、明日のお昼すぎに東京駅で待ち合わせか。

 

 明日は午後十時半に鴻田井島へ向かう船に乗るので、かなり時間的に余裕がある。

 それまでの間、東京観光でもしようと思い、俺はスマホで行き先の候補を調べ始めた。

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