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「あら~、正一さん、おはようございます~」

「情緒とかそういう概念ないんか? あんた」

 

 家を出たらいきなり天真に会った。

 いつでも連絡していいとか待ちの姿勢だったくせに、どう考えても待ち伏せしていたとしか思えない。

 

 そう言うと天真は、不服そうに頬を膨らませた。

 

「だって~、この島、あんまり見るところないんですもの~。私、退屈で退屈で~」

「ヘッドハンティングしに来た相手に喧嘩売るとか、それでマジで投資できんのか?」

「喧嘩も売れるのなら当然買えますし、投資対象になりますよ~」

 

 なんだか、海千山千の詐欺師を相手にしているような気がしてきた。

 いや、実際その感覚は当たっているのかもしれない。

 昨日色々言われた内容も、こちらを不安にさせて有利な状況に持ち込みたいという思惑があるのだろうし。

 

 ……そう考えると、二美先輩の戦い方と似てるな。

 

 先輩も訓練所で、最初無駄な動きをして俺に色々考えさせる作戦で勝負してきた。

 情報を過度に与えて自分の有利な状況を作ろうとするなら、以外に二人は気が合うのかもしれない。

 

「うふふっ、なにやら超失礼なことを考えていらっしゃる気配がします~」

「ニコニコしながらグイグイ近づいてくるな! 怖いわ!」

 

 そう言って距離を取ろうとするが、天真はよりくっついてきて、何かを嗅ぎ取るように鼻を動かす。

 

「あら~、女性の方とべったりくっつかれていらっしゃったのですか~? いいご身分ですわね~」

「投資家じゃなくて、実は犬が正体なのか?」

「でしたらしつけてくださいませ~。ワンワン鳴いて差し上げます~」

 

 そう言いながら、どういうわけか天真が僅かに目を細める。

 

「緑旗につかなければ最悪問題ないと申し上げましかけど~、私の右腕にして差し上げると申し上げたのに、その日の晩に他の女性と寝所を共にするだなんて、ちょっと傷つきますわね~。私の方が琥珀さんより、スタイルもいいと思うのですけれど~」

「スタイル『も』っていうと、お前は今も爆睡中の琥珀よりどこが勝っていると思ってるんだ?」

「うふふっ、お金です~」

「身も蓋もねぇな」

 

 そう言うと、天真がこちらに近づいてきた。

 

「すみませ~ん。ちょっと、お写真いいですか~?」

「は? この流れで? っていうか、写真撮られてSNSで変な盛り上がり方して現在進行系で困ってるから、撮りたくないんだけど」

「大丈夫です~。私のSNSのアカウントに上げるだけですから~。何か問題があっても私のアカウントなので、責任はこちらもちですし~。そもそも正一さんが問題にされている投稿は盗撮ですから、今回の写真とは性質が全然違います~。撮った写真も、ちゃ~んと正一さんにチェックして、OKもらってからあげるので問題ないと思いませんか~?」

 

 そう言われると、なんだか問題ない気がしてきた。

 写真もチェック出来るのであれば、下手な写真も上げられないだろう。

 

「……ちゃんと写真、チェックさせてくれるなら」

「さすが正一さん~。わかってらっしゃいます~。はい、それじゃ~一枚目~」

「おい、近すぎだぞ! 腕を組もうとするな!」

「いいではありませんか~。琥珀さんとは、もっとべったりだったのでしょ~」

「……まぁ、あいつ寝相悪いからな。人を抱きまくらみたいにしてきたと思えば、今朝起きたら俺の布団もまとめて自分の、ってなんで腕ひしぎ十字決めようとしてんだお前!」

 

 朝一で腕折られるとか、マジでたまったものではない。

 

 なんやかんやで、天真との自撮りを撮り終えた。

 海を背景にして、天真のスマホを内カメに、俺と二人がドアップとなっている写真だ。

 

「こちらの写真でいかがですか~」

「……まぁ、この程度の写真なら使っていいぞ」

「ありがとうございます~」

「一応、投稿したやつも見せてくれ」

「もちろんです~」

 

 そう言って、天真がスマホを操作し始める。

 画像も加工しているのか、スマホを指でなぞっているようだ。

 後は画面を連打して、メッセージを入力。

 そして投稿ボタンを今押した。

 

「おまたせしました~。こちらが投稿したものになります~」

 

 スマホの画面を見せてもらい、俺はSNSの投稿内容を確認する。

 そこには、こう書かれていた。

 

『聖イクノクス高校ダンジョン攻略部に、まさかの新星登場? 激強転校生の登場で、次の都大会は聖イクノクス高校が優勝で間違いなし! #聖イクノクス #高校生ダンジョン攻略部 #転校生 #目指せ優勝 #打倒緑旗 #緑旗なんかに負けない #貧乳より巨乳派 #美乳より巨乳派』

 

「何してくれてんだてめぇぇぇえええっ!」

「あれ~? OKしていただけたじゃないですか~」

「頭沸いてんのか! ツーショットでこんなメッセージになるなんて誰が想像出来るんだよ! 大体なんだこのハッシュタグは!」

「正一さんの御心を、アテレコしてみました~」

「一文字もあってねぇ! え、待て。写真なんかさっきと違わないか? 海も青すぎるし、俺たちこんなに近かったか?」

「加工しました~」

「限度がある! 互いの頬がくっつく寸前じゃねぇか!」

 

 本当に、なんてことしてくれたんだ。

 

「っていうか、これもう投稿されてんだよね? 全世界から見られる状態になってるの? 消せ! 今すぐ消せ!」

「大丈夫ですよ~。私のアカウントですし~。責任は私が取りますから~」

「だから問題なんだろうが! これ、お前の全責任で俺が本当に転校するみたいになっちゃってるだろ! っていうか、なんでこんなことしたんだよ!」

「ですから~、私、退屈で~」

「退屈しのぎに転校させられてたまるか! って、電話? なんだよ、こっちは忙しいっていうのに!」

 

 そう言って取り出したスマホには、メッセージアプリの通話通知が届いている。

 

 通話の相手は、福塚二美。

 

 どうしよう? 震えが止まらない。スマホを持つ手が震えて、画面を上手くタップ出来ない。

 

「あらあら~? お出にならないんですか~」

「……マジで黙ってくれ。本当に。五秒間だけでもいいから」

 

 その五秒間の間に、深い、深い深呼吸をした。

 そして意を決して、画面をタップする。

 

「も――」

『弁明を聞いても?』

 

 ……やっべ、超怒ってる! スマホ越しに冷気感じるもんヤバいヤバい絶対ヤバいよこれ!

 

 パニックを起こしている俺とは対象的に、電話越しの先輩は、至って冷静だった。

 

『大丈夫よ、正一くん。どうせこの前私に勝ったことでSNSで話題になった君に、天真がちょっかいかけてきたんでしょ?』

 

 ……先輩流石すぎますよ!

 

「そ、そうなんですよ! 俺もかなり困って――」

 

 そこで俺は、天真に口をふさがれる。

 スマホも奪われ、そのまま通話を継続しながらスピーカーモードに変更された。

 

 そこでようやく俺は天真を振りほどくが、その間にも俺のスマホから二美先輩の声がダダ漏れになっている。

 

『全く、あいつは本当にいつもそうなのよ。真面目に取り組んでいる人の周りにやってきて、引っ掻き回して金だけ毟り取ろうとするんだから。ほんと、あんなやつが高校でもトップレベルのプレイヤーだなんて世も末よね。ねぇ? 正一くん。やっぱり、緑旗にこない? あなたも天真に会って、わかったでしょ? あんなプレイヤーがデカい顔をしてのさばっているだなんて、全プレイヤーにとって不利益になるわ。でも、私とあなたが組めば、万が一にもあいつの勝ちはなくなる。どうかしら? 私のパートナーになって欲しいの。私たち、結構いいペアになると思うのよね。その、公私共に、なんて――』

「いや~ん、ダメです正一さ~ん! 転校する報酬に私の体を好きにしてもいいと言いましたけど、まさか福塚さんのお電話中になんて、そんな~」

「てめぇマジで脳天かち割られてぇのかっ!」

 

 っていうか、いや~ん、なんてよく出てきたな。

 現実で聞いたの初めてだよ。

 

『正、一、くん?』

「先輩? わかってると思いますけど、全部天真がデタラメ言ってるだけですからね? 引っ掻き回しているだけですから! 俺はどこにも転校する気は――」

『そこに、いるのか?』

「……先輩?」

『天真は、正一くんの島にいるのか? そして、今正一くんの隣りにいるのか? あの写真は合成ではない?』

「え? それ――」

「は~い、いますよ~。さっきまで一緒にプロレスごっこやってたんです~」

「やってねぇだろ! お前が勝手に腕ひしぎ十字決めようと、俺の腕を――」

『え、何? 新木場のヘリポートからならすぐにヘリが出せる? そこなら十分あれば到着できるわね。ありがとう、副部長。今日の練習は任せるわね。あの人材はどうしても聖イクノクスにやるわけにはいかないから。いい? 天真。そこを動くんじゃないわよ? それ以上正一くんに触れたら、あなたをを――』

「あ~ん、そんなに胸ばかり責めては、って、あらあら~? 切れてしまいましたわ~」

「お前の煽りスキルどうなってるのよ」

 

 しかし、今スマホから聞こえてきたのは、通話機能を持っている何かを握りしめたような音だった。

 

「っていうか、マジで何してくれてんだよ! これで二美先輩までこの島に来ることになったら、本当にお前が言ってたみたいな、複数組織が俺を取り合うみたいな状況になっちまうだろうが!」

「そうですよ~。そ~なったほうが、正一さんが考える時間が減って、私を選ぶ確率が上がりますから~」

「……お前、そこまで計算ずくで」

 

 うふふっ、と天真は、いつも通りの笑顔を浮かべる。

 

 だがこの時の天真は、いや、俺を含めた全ての人間は、気づいていなかったのだ。

 この後誰もが笑っていられない状況が起こるのだ、と。

 

 それは、二美先輩との通話が切れた、十分後にやってきた。

 東京に存在する、全てのスマホに、緊急速報が届いたのだ。

 

 その内容は、東京に突然巨大なゲートが生まれたというもので。

 その場所は新木場で。

 大きさはヘリポートを全て飲みこむほど、巨大なものだった。

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