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 なんとなく想像できていたが、福塚が最初に話し始めたのは、姉のことだった。

 

「……私のお姉ちゃんも、プレイヤーで、すっごい人なの。トッププレイヤーで、あの『拍手万雷(パレード)』のパーティーなんだ」

「『拍手万雷』? マジで?」

 

 そのプレイヤーの名前は、ビギナーと言われた俺ですら知っているビッグネームだ。

 レベルの話が原因で俺と福塚の話はこじれたけど、そのレベルについて他のプレイヤーの追随を許さないレベルに到達している、トッププレイヤーの中でも、超々トッププレイヤーがいる。

 

 それが、『十人の到達者』。別名『選ばれし十傑』。

 現在確認されている、レベル100を越えた、世界でたった十人しかいないプレイヤー。

 

「『拍手万雷』っていや、『十人の到達者』の中でもソロ活動が多い『一閃千斬』や『鏖殺魔』とは違って、進んでパーティーを組んで功績を上げてるプレイヤーだろ? 多数のトッププレイヤーを抱えていて、もはや『拍手万雷』の名前は個人じゃなくて一大企業の名前になりつつある」

「……うん。だからお姉ちゃんは、あの『選ばれし十傑』に選ばれた、超トッププレイヤーなんだ。父さんも母さんも、皆、凄いね、って褒めて。私も、そういう才能があったらいいね、って。お姉ちゃんも、私なら、もっと凄いところ、行けるから、って」

「なるほど」

 

 ……なんとなく、話が見えてきたぞ。

 

 そう考えていたことが顔に出ていたのか。福塚が慌てたように手を振る。

 

「あ、違うから! できの良い姉と比較されて悩んでる、とかじゃないから! まぁ、確かにお姉ちゃんと比較されて辛い部分があるのは、あるんだけど。でも、プレイヤーになるって決めたのは自分の意志だし」

「だったら、何がそんなにお前を駆り立ててるんだよ」

「私も、見たいからよ。お姉ちゃんが見ている景色が」

 

 そう言った福塚の表情は。

 まるで戦地に赴く、戦乙女のような神々しさがあった。

 

「私も、見てみたい。してみたい。ダンジョンに潜って、誰も見たことのない、挑んだことがないような冒険をしてみたいの。『拍手万雷』と一緒に攻略をしているお姉ちゃんは、きっと世界で誰も経験したことのないものを、この世界に生活しているだけじゃ見れない光景を、きっと見ているはずなのよ。だから、並び立ちたいの。妹だからっていう贔屓じゃなくって、一人のプレイヤーとして、お姉ちゃんの隣に立ちたいのよ!」

 

 福塚の言葉は、どういうわけだか俺の中に、すっと染み込んでいった。

 海底ダンジョンを見つけて、そこに潜るようになって、いつの間にかプレイヤーとして活動することを本気で考えていた。

 

 その、何故プレイヤーとして活動したいのか? という答えを、福塚からもらったような気がした。

 

 そんな福塚は、更に熱を込めて言葉を紡ぐ。

 

「だからそのためには、ダンジョン攻略部として日本一を成し遂げたいの。実績が欲しいのよ。お姉ちゃんがいるのは、世界でもトッププレイヤーが集まるパーティーだから。そのためには力を示して、より強いパーティーに入って功績を上げて、更に上のパーティーに参加させてもらうしかないの! だから、私には強力な仲間が、パーティーメンバーが必要なのよっ!」

「そういえば、訓練所で見学者が言ってたっけ? 最近別の高校に追い上げられてて、他校から部員引き抜こうってスカウト活動をしているとか、なんとか」

 

 俺の言葉に、福塚が頷く。

 

「そうなの。日本一を目指すにしても、まずは全国の切符を掴まないと話にならないでしょ? だから他県のダンジョン攻略部にも声をかけてるんだけど……」

「まぁ、そんなに上手くいくわけはないか。学校側も引き止めるだろうしな」

 

 スポーツで考えると、わかりやすい。

 全国出場を競い合っている各チームから、エースを片っ端から引き抜いてくる。

 引き抜いた側のチームは勝ちまくれるだろうが、引き抜かれた側はたまったものではない。

 

「そこで私は考えたの。様々な事情でダンジョン攻略部に所属していない、でもプレイヤーとして活動している高校生がいるんじゃないか? って。ほら、経済的な事情があるからお金を優先しないといけないけど、両親がプレイヤーならありえそうでしょ?」

「……なるほど。だからお前は『大人のパーティーと混じってダンジョンに潜るソロプレイヤー』を探すために、『収納ボックス』を『クリエラム』に出店していたのか」

 

 ……だったら、購入した俺を東京駅まで呼んだ理由って――

 

「うん。考えている通りだと思う。『収納ボックス』を買えるぐらい稼いでいる人なら、プレイヤーとしての実力も担保されてるでしょ? それに本州から離れている島に住んでいるとはいえ、あなたは東京在住。緑旗に転校するにしても別の県の人より、手続きや心理的なハードルは低いでしょ?」

「でも、言っちゃ悪いが、福塚が目をつけたからって理由だけで、学校側は転校を許してくれるのか? 所詮一学生、一部活の部長推薦だろ?」

「何言ってるのよ。私は『収納ボックス』(一億円)を売買する権利を学校側から与えられているのよ? それに比べたら学生一人転校させるのなんてわけないわ」

 

 ……それは確かに!

 

 どうにも、やっぱりプレイヤーになるとその辺りの感覚がバグっている。

 必要なものにはいくらでも注ぎ込めるのに、夕飯にはハンバーガーにするかチーズバーガーにするのか悩んでしまうような、そんなチグハグな感覚だ。

 

 そう思っていると、福塚が俺に向かって頭を下げた。

 

「でも、ごめんなさい。私、あなたに自分の常識を押し付けてた。プレイヤーならたとえソロでも同じ東京なら緑旗の名前ぐらいは知っている、って。言われた通りだよね。自分の力じゃなくって、学校のブランドであなたを自分の自由にしようとしていた。最低だよね、私」

「いいよ、別に。俺もプレイヤーとしての一般常識的なものを知らなかったわけだし」

 

 郷に入りては郷に従え。島には島の、海には海のルールがある。

 だったら、ダンジョンにもプレイヤーにも、それが前提のルールがあるのだ。

 それをレベル上げと金儲けを優先して、知るのを怠っていたのは俺の傲慢だ。

 

「俺の方こそ、色々とカフェでは酷い言葉を使ってすまなかった。ビギナーと言われたように、俺はダンジョンのことも、プレイヤーとしての知識も足りていない。プレイヤーとして先輩のあなたに、使っていい言葉じゃなかった。申し訳ありませんでした」

「そんな! やめてよ! 私のほうが悪いんだから!」

「いやいや、俺のほうが」

「いやいやいやいや、私のほうが!」

 

 そんな言い合いを暫く続け、俺たちはどちらともなく吹き出した。

 

「それじゃあ、ここはあいこ、ってことで。互いに酷いことを言い合ったので、痛み分けってことにしましょうか」

「そうね。これじゃ、太陽が昇るまでお互い謝っていそうだし」

「あの、失礼ついでに連絡先教えてもらってもいいですか? 俺、周りにプレイヤーいないんで、先輩みたいに相談できる人がいると嬉しいな、って」

「ええ、むしろこちらこそお願い。優秀なプレイヤーとつながることは、私の目的達成のためにも有益ですもの」

 

 そこで俺たちは、メッセージアプリの連絡先を交換した。

 

「それじゃあ、何かあったら連絡させてくださいね。二美先輩」

「ええ、よろしくね? 正一くん。あと、私からも、いい?」

「なんでしょう?」

 

 そう言った後、二美先輩は改めてこちらに頭を下げる。

 

「一緒に、私とパーティーを組んでくれないかな? もう、レベルのことは疑ってない。あなたの実力は、私が一番知っているもの。だから、一緒に戦って欲しいの。私と、ダンジョン攻略部で」

「それって……」

 

 そういうと、二美先輩は、更に頭を下げて、こう言った。

 

「お願い。緑旗に、転校してくれないかな? どの高校よりも高待遇で迎えられるよう学校側は説得するし、私に出来ることなら、何でもするから!」

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