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フェアリー ∞ キッド   作者: てぃえむ
第二部 三章 Infernum Harmoniae ― 調和の名を持つ地獄 ー
74/75

第一歌「差分を見るもの花となれ」―大森シキ 視点―

AI絵が出てきますが、作品世界の表現の為に必要と判断し使用しています




【R-SNSログ】


2053,9,22

大森シキ(初等部・特待/落書きの子)

@shiki_chalk


よるがすき。

人魚のすがたをした海霧のようせいが、うたをうたってい――


(スクロール)


検診は、あれからずっとつづ――


(スクロール)


アヤカさまは今日も大好きなリンドウに、お水あげてるのかな。



挿絵(By みてみん)



***



 大森シキ。わたしの、なまえ。



「はかせ、わたしの絵、この絵に似てますか?」

「……」


 ついさっきまで、結婚式が行われていたハーモニア大学附属学院。

 ホログラム映し出された過去ログを見ながら、片腕に抱えたスケッチブックをぎゅっとにぎりしめて、私はもう一度、きく。


「はかせ、わたしは、このこに似てますか?」


 「はかせ」が何も言わない。OKのサインなんだと判断して、湖の人魚を見ながら、さらさらと鉛筆でスケッチブックを撫でる。


 さらさら さらさら


 芯が紙を撫でる「ここちよいおとが、すき」……って、私の中ではプログラムされてるの。だからわたしも「ここちいい」

 とぷん、と人魚がひとはねすると、綺麗な水しぶきが弧を描いた。そのまま人魚は湖の中央の祭壇スペースへ泳いでいく。まって! ……そう、言おうとした時。


『お願いがあります。先にルナフェリスの儀を』


 アヤカさまだ。


『政府の意向に歯向かうのですか? あなたは矢崎家の』

『私は……!!』


 SNSはみんなの「おめでとう」で溢れてるのに、なんだか悲しそうに見えて私は首をかしげる。


 けっこん、うれしくないのかな?


『私は人です。今、この瞬間は』 



 にん、げん。



【 澤谷アヤカは  A・妖精 B・人間 


  ※学院安全維持のため匿名投票です

  ※未回答は自動的に多数派へ加算されます 】



 私は「人間」て答えたけど、「妖精」って答えた人がほとんどだった。


 アヤカ様が今答えを言ってたのに。

 






 ――ぽん。


 空で何かが弾ける、おと。あれはなんだろう? 




「ブラウニーの群れだ」


 はかせが何かを教えてくれるのは、珍しい。


「たくさん、いますね。えっと……」

「2000だ」


 2000……。


「ブラウニーは、どうしてあつまるんですか?」

「それが奴らにとっての、最適化だからだろう」

「さいてき?」

「個体は考えていない。だが群れは考えているように見える。ブラウニーも同じだ」


 骨ばった指が、わたしの目の前のホログラムを指さした。さいてきは、SNSとおなじって、こと?


「はかせ、まちがえてます」

「何がだ?」

「……うまく、言葉に出来ません」

「なら、描いてみろ」


 かく。

 SNSとブラウニー達が違う理由……


 ……。


「どうした」

「かけません」

「差異が生まれたか。貴様はまだ起動から数日だ、融合に時間がかかる」

「さ、い?」

「脳と体の非適合反応だ。安心しろ、貴様はレムにはならん」

「……」



 ――ぽん。


 また、だ。

 ……なんだか、息をしてるみたい。



挿絵(By みてみん)


 

 Sarala Elera echo halmonia

 Fuela Spera Avara



【R-SNSログ】


@mina_pray :ちょっと、アヤカ様歌いだしちゃったよ

yuuna_usa:さらら さらら♪

@Ren_kssb:こら、初等部。歌うな!

yu_melt::昼間のアヤカ様の歌と少し違うね。





 先輩達が怒ってたけど、私もちょっとだけ歌ってみた。


「さらら、えらら……」


 むねが、あったかい。


 私の心の中のキャンパスには万華鏡みたいに無数の記憶のかけらが集合し、形を変え、新たな形を構成し続けてる。

 アヤカさまの歌は原初に還ったような……獣の咆哮や恐怖から助けを乞う声、群れから外れた仲間を見た時の快楽の声に近い。でも全然違うのは……


「きれいだな、アヤカさまのこえ」




 そう……「きれい」


 ふわり




 絹の羽衣を纏った花が、目の前を通り過ぎた。これは妖精。どこにいくんだろう? 生徒達の間を縫うように飛んでいく光の鱗粉を追っていると……


「パンジー?」


 それは一際青い色をした花だった。

 中心に舞い降りた妖精が花の蜜をひと舐めすると「おいしい」を全身で表現するように身体をかくかくとふるわせた。その口元から零れ落ちる蜜の色は……



挿絵(By みてみん)



 赤。


 ぞくりとしたけど、この感覚がわたしにはわからない。

 お腹いっぱいになって満足したのかな。妖精は「まっか」に染まった口元を拭ってふわりと空に舞い上がり、「ポン」と小さな花火音と共に、光の鱗粉を空に散らす。


 さらら、さらら……


 アヤカ様の歌に重なるように、空に異国の文字が浮かんで微細な光を放つ。文字ごとに違う音を奏でる鱗粉の摩擦音を聞きながら、私は思った。


 ……これ、「会話」だ。


 目を閉じて、耳を傾けると、身体に直接響くような心地よい振動。そして――



 ――差分を見る者、花となる



 ぞくり。

 ……また、この感覚。



 ――花は色を競い、差分を争う。



 さ、ぶん……?



 ――争いも嫉妬も成功も 沈黙の神は籠で愛でる。

 ――忘れるな。恵はいつか終わるだろう。

 ――境界の花弁が混じれば、それは喰われ、嬲られ、やがて肥やしとなる



「はかせ、境界の花弁ってなんですか?」

「言葉が抽象的だ、もっと詳細に説明しろ」

「……すみません」


 「はかせ」の言葉にしゅんとしたみたいに、空の方程式が消えていく。だから、はかせに聞こえないように小さく呟いたの。


「きこえてるよ」


 わたしのこえがきこえたのかな? 

 はしゃぐように空に鱗粉で弧を描きながら、妖精はアヤカさまの方へ飛んでいく。


「きれい」


 アヤカさまの声、妖精、みんなきれい。



 ……。



 空から視線を落とした先で、ひとりの高等部のせんぱいが目に留まった。


「はかせ、あのひとは、どうして泣いてるの?」


 はかせは頬骨が浮き出た顔を持ち上げて、せんぱいの方をみる。


「聞いてみろ」

「はい」


 私の中にある「学習」への欲望が、その人への興味を駆り立てる。「知りたい」……どうしてその人が皆と「違う行動」をしてるのか。その人は、私がすぐ横に立っても祭壇に釘付けになってた。


「だれを、みてるんですか?」



挿絵(By みてみん)



 はっとするように私の方を見た先輩は、涙を拭い、眉を八の字に下げ微笑む。この笑顔は「頼りなさげ」と分類するんだと思う。


「あの人だよ。リュウ君て、いうんだ」


 やさしそうな、こえ。せんぱいが指さしたのは、アヤカさまの後ろに立ってる男の人、背が高くて、日に焼けた肌と、黒髪の隙間から覗く傷が印象的。


「友達ですか?」

「そんなところかな。今は話もしなくなっちゃったけど」

「友達なのに?」

「今の僕は、違うんだよ。それに、彼は僕を見るのはつらいだろうからね」

「……」

「……きれいだな、アヤカさんの声」


 アヤカ様の歌が心地よい高音を伸ばして、芝やルナグレインの隙間から精霊の「きれい」な光が、ざあっと……舞い上がった。




【R-SNSログ】


@katrina_royal:わお、fantasic!

@Ren_kssb:アヤカ様の歌、誰か書き起こせる?

@rina_se:【連絡】皆さん、これは妖精の言葉です。私達に何かを訴えているのでしょう。

何を訴えてるんだ?

@use_old3:まさか、呪い!?

@elf_love: それより金髪幼女エルフも笛吹いてるのかわいいんだけど

@mikoto_ao:ちょっと! 今は幼女から離れてくれる!?





「それ」


 せんぱいが指さしてるのは、わたしのスケッチブック。


「1枚、くれないかな?」

「いいですよ」


 びりり、とやぶって 下敷代わりにスケッチブックも渡す。すると、せんぱいは鉛筆をとりだして、そこに絵を描いたの。



 Fuela Spera Avara

 Lunara Serana Corala



 あったかい風。

 小鳥のさえずりみたいな”声”。

 絵筆がキャンパスを撫でる音みたいに、さわり、さわりと優しく響く。せんぱいが鉛筆でスケッチブックを撫でる音も同じ。

 描いてるのは、アヤカさまかな? とても優しそうなせんぱいなのに……その瞳はゴッホが狂気の自画像を描いた時みたいに、ぎらついてる。


 シキも、こんな顔をしてた。これ、なんていうんだっけ?


「アヤカさんが呪いだなんて、ばかげてる」


 そう言って、先輩が差し出した絵は……



挿絵(By みてみん)



「……」

「どう? きれい?」


 私はすぐにわかった。


「きれいです」


 ……。


「せんぱい、わたしとおなじですか?」


 少し寂しそうに、先輩は微笑む。





 Luna —— Fuela


 auli …… Coralia





 アヤカさまの歌は、ここちよかった。


「るな、ほら、あれ、こらら」

「ちがうよ、コーラリア……って言ってるんだ」

「データにない、ことばです」

「うん」



 ―― ――halmoni.



 歌の終わりとともに、風が消えた。世界樹の奥にはオーロラみたいな光がうっすらと波打ってる。



 ――リン……

 ――リン……



「あ、くる」


 ブラウニー達の花火の音が、途切れた。



 ――リン……――リン。


 ぎょろりと鋭利な視線と目が合った。

 

 リンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリン――


【 コーラス指数2000 #妖精は敵 】




 

 せんぱいと、わたしはそろって空を見ると、ブラウニー達の光が一際強い光を放ってた。





「にんげんって、すごいですね」









【R-SNSログ】


@01_mina:何が起きたのです? ルナグレインが空に舞い上がって……龍!?

@tomas8437:こわいこわいこわいこわい

@mikoto_ao:誰がこんなの呼んだの!?

@Ren_kssb:アヤカ様だろ!? あの歌の後現れたんだから。

@rina_se:【連絡】契約者の皆さん、船に向かってください。

船だって、みんな逃げろ

@rina_se:【連絡】最初の出向は既にチケット販売済みです。皆さんは次の船をお待ちください

@yu_marita:なんだって!?

@Yuto_ngs:ハルモニアのコアを早く破壊しろ!



**エラー。破壊が不可です**



@Yuto_ngs:おい、どう言う事だよ破壊が出来ないって




 パパ

 ママ


 助けて



 

 ……




 ――リン……――リン。




【 第一花弁 開花 】



数ある作品から本作を読んで頂き、ありがとうございます。

先輩は、恐らくご想像の通りです。

次回はリュウ君視点に戻ります。


挿絵(By みてみん)


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幻想的でありながら、どこかしら恐怖もある中、ラスト、状況に大きな変化、危うい状態になってくる、構成をユラユラしながら読みました。 視点が第三者なので、この状況を読者の私と同じような視点で見ているのも不…
ここに来てリュウくんともアヤカちゃんとも違う、別の生徒の目線で物語描いていくとは驚きです! しかも今回の主観で語っている人物は、ある意味で周りに流されることなく、自らの意志によってアヤカちゃんを『人間…
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