幻想知性 ・前編 ー 結婚 ー
【R-SNSログ】
2052,9,26(結婚式の1年前)
@amane_ln 澤谷さんって、妖精だったんだね。
@yui_kb たまに教室が熱くなるって、思ってたんだよ。
@hayato_nm 心でエネルギーが動くんだって? どれくらい生み出せるんだろ? 発電所になれたりするのかな?
@yuga_star 妖精発電って事? でも澤谷さんが生きてるだけでエネルギー生み出せるって、凄くエコだよね。
@yui_kb 泣いたり怒ったり、笑ったりって事だよね。つまり澤谷さんをたくさん笑わせればいいって事?
@amane_ln うん、一緒に過ごして楽しい想いをたくさんすれば、私たちの閉鎖空間も便利になるはず。
@rina_se 代理教師代表のリーナです。皆さん、とても大切なことに気付かれました。アヤカ様の祝福を大切にしましょうね。生きる為にも。
@amane_ln ……リーナ先輩の言う通りですね。アヤカ様の祝福、大切にしようと思います。
2052,12,24
@ayaka_green_cat ハロウィンは出来なかったけど、クリスマスはやろう! マダム・ティムにアルテシア流のお祝いを教えてもらったの。
@kirihika やったぁ!
@ayane_md 異世界にもクリスマスあるの?
@yuma_ok ……でも、電力足りてないよ。パーティして大丈夫?
@hana_fw スマロゲームの回数増やそうか?
@rina_se 確かにエネルギーは不足しています。しかし物事は極論だけでは成立しません。生活に無理のないよう、皆で協力しましょう。
*夜
@ayane_md すごい! これが妖精のクリスマス?
@kirihika 妖精や精霊の光がツリーみたいになってるね。
@ayane_md R-SNSに上げたらお母さん見てくれるかな。
@kirihika あげとこ! きっと届いてるよ。
@rina_se きっと皆様のお父様、お母さま、喜ばれていると思います。妖精達の映像も、世界中から好評を得ていますよ。
@koichi_mz あ、見て。アヤカ様が歌ってる。
@sou_now ナマル=イグもいつもとちょっと違うね。
@ayane_md 思ったんだけど、アヤカ様はどんな妖精なんだろう?
@ko_1467 ああ、確かに俺たちが知ってる妖精とはちょっと違うよな。
@koichi_mz ティンカーベル? シェイクスピアのパック? それとも……
@rina_se アヤカ様に対しては、人それぞれの解釈があって良いでしょう。難しく考える事はありません、彼女が奇跡の存在である事は間違いないのですから。
@ryu_haseta アヤカは……アヤカだよ
@rina_se あら……まあ……。
@ayane_md あ、このID羽瀬田先輩だよ。
@koichi_mz 笑
@kirihika 笑
――シャン。
豊穣の妖精・アウリ=ヴァルフェナがルナグレインのブーケを振り、奏でられる神楽鈴の音が夜空に響き――それが合図のように響くのは、いつもと少し違うナマル=イグ。
竜笛と水琴窟のハミング、そのふたつを包むように3拍子を奏でる鈴の音。ゴォン……と、ベース音のように響く重低音。そして、僕とアヤカはバージンロードを二人、歩き出した。
リン……。
カメラ音と共に、コーラスの電子音が聞こえた。皆、アヤカの花嫁姿を記録に残す為に撮影し、SNSにアップしてるんだろう。そして少しだけ視線をずらせば、ヒールに支えられ、いつもより一段高い目線で歩くアヤカがいる。
「ヴェールは静かに 人の心を束ね 乙女は祈る 朽ちる身にも 愛は残ると」
ほんのりとリップで彩られた唇から奏でられるのは、ついさっきマダム・ティムが口ずさんだ詩の一部だ。
「花嫁よ、星を宿しその身を贈れ ヴェールは祈り 迷える者の道となろう」
「それ、どういう意味なんだ?」
「このヴェールには、皆の共鳴のエネルギーを集める力がある、ってこと」
「ルナコットンづくりに関係してるのか?」
「うん、皆が嬉しい気持ちに反応して発生したエネルギーをヴェールが集めて、豊穣の穂の力で森中に拡散したの」
「だから花の蜜が空中に舞ったのか。でも、それは……」
……つまり同意を得て、その共鳴エネルギーを集める。僕が1年前にした Elect'ra rezonansに似てないか……?
少しだけ左手首の黒い痣を見て、当時を思い返す。あの時ダイスケが来てくれなかったら、僕はレムになっていたかもしれない。そんな危険な事……
「エネルギーを体に集めるって……体に負担は」
「私は妖精だよ?」
ヴェール越しに見えるお人形みたいなライトブルーの瞳が「大丈夫」と訴えるように軽く細められる。
「……それを言われたら、何も言い返せないな」
歩み寄りと説得を同時にこなしてくるから、こういう時の彼女は手に負えない。いざという場面で譲らない頑固な一面は、澤谷さんにそっくりだと、今でも思う。
……。
澤谷さんも、見たかっただろうな。
彼女の婚礼衣装は、新郎の母親が好きだったブランドのオートクチュールだそうだ。パリッとした素材のフリルにクラシカルモダンな雰囲気を醸し出すAライン。でも……
僕は、昼間の白いワンピースの方が、アヤカらしいと思う。
「教えてくれ、アヤカ」
「うん」
「ルナフェリスで、何を願うんだ?」
「……」
星の祝福を受けた聖なる祭壇。
雪がちらつくように、空に咲くルナフエラから小さな光が舞い、地や湖面に触れれば溶けるように消えていく。一歩、また一歩と歩くたびに近付く新郎は、白いタキシードに金や赤が添えられ、まるで王様のような姿だ。
「平和、かな」
――シャン……。
遠くから聞こえる神楽鈴の音を聞きながら、脳裏に蘇るのは、アウリ=ヴァルフェナの問いかけだ。
――『種が芽吹くは水を与えた時か。許した時か』
――『それとも……芽吹かせようとする心が消えた時か?』
平和は、何に該当するんだ? そう、思った時。光と夜空に囲まれた幻想的な光景が一瞬揺らぐ。
――映し出されたのは……
湖畔のルナグレインは枯れたように色を失い、ルナフエラは赤い光を放ち花弁の一部が空から垂れ下がる。真っ赤に染まるハーモニアレイク。
そして……「枯れた世界樹」
――ゴオオォォ……ン。
「……!!」
再度の鐘の音と共に、元の幻想的な風景に戻った。
「今のは、何だ?」
「幻想と知性の職人……妖精ヴィーグルの共鳴音、だよ」
違う、共鳴音の事じゃない……今の風景が見えたのは、僕だけなのか?
「私を信じて……リュウも願ってね」
気付けば祭壇に辿り着き、アヤカは一瞬の微笑を浮かべ、左腕のぬくもりが消える。花嫁の手を取る新郎が少しだけ口角を上げた。それが花嫁を通り越して僕へ向けられているのは、多分気のせいじゃないんだろう。
一礼をして先輩生徒に向かうよう指示された祭壇脇には、黒いコートに黒い帽子、不気味な白い肌をした男がいた。
「どうも……シオンさん」
恐らく、僕の監視なんだろう。彼の隣に落ち着いたところで、祭壇の上にふわりと電子的な光が舞い降りた。
星屑の光が描く円環、葉を幾重にも重ねたようなドレス。右の翼は樹木を模したような、左には時折ノイズの入る幾何学が映し出された翼。
――マザーAI・ハルモニア。
儀式の始まりを告げる、ぴりりと引き締まった緊張感。生徒達は一瞬しんと静まり返り、校舎を見上げる新郎新婦へと視線を集中させた。
『ここにいる皆に誓う。彼女の奇跡を未来の為に使い、支えると』
この閉鎖空間に、神父役はいない。
だから新郎と新婦が自らの言葉で生徒たち、そしてハーモニア大学附属学院に誓いを告げる。この一部始終はSNSを通じて全国へ配信されているらしい。
『私はこの方の妻として、共に生きる事を誓います』
その情報源である僕達は、外の世界では、こう呼ばれている――「奇跡の現象の記録者であり、選ばれた子供」
それを聞いたナオキはこう言った。
「たまたま閉じ込められて、写真撮ってSNSにアップするだけで「選ばれた」って……まるで勲章システムのようですね」……と。もちろん最初は生徒達の間でも意見が別れたけど、沈静化は思いの外早かった。
何故かって――それを確かめる術が、僕達にはないからだ。
『誓いのキスをもって、彼女を妻とする』
どうしてだ?
鳴り響く拍手とカメラ音。祝福のナマル=イグ。生徒達が奏でるコーラス。全てが入り混じり、不協和音のように耳を刺激する。そして……
「はあっ……はあッ……」
左手首の黒い痣が腕まで侵食するように、じりじりと広がっていく。
……何もかもが、酷く「不快」だ。
数ある作品から本作を読んで頂き、ありがとうございます。
第二部の折り返し地点です。
ちょっと長くなってしまったので分ける事にしましたm(__)m
次回はアルトさんが再登場。今度こそアヤカちゃんの見せ場です
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