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フェアリー ∞ キッド   作者: てぃえむ
4章 『ネーファス』――この世で最も価値のあるもの。
28/63

タクミの革命



 そこにあったのは、間違いなくあの日タクミ君が描いていた絵だった。

 大樹の麓に腰かける妖精。そして、すぐ傍に少年の絵が描かれている。


 僕はタクミ君がこの絵を修正する前の絵を見たことがある。その時のアヤカは笑っていたはずだ。でも……


「泣いてる? どうしてだ……?」


 そして、タクミ君の絵の隣にはもう一枚のキャンパス。整然と並べられた画材や絵具があった。明らかに使い込まれた痕跡を残しているそれらには、埃の跡すらない。

 レオ君が描いたのだろうか? 恐らくこのキャンパスで定期的に絵を描いているんだと思う。これほどの情熱を注いだものが、どうして今の彼の生活に見合わないものと感じられるのだろう?


 置きっぱなしのパレットには、鮮やかな空色の絵具がいくつも混ぜられている。それらは、まるで――。


「輝くようなライトブルー……」

「何してんだ、リュウ。お前もそのきったねぇ服さっさとなんとかしろよ」


 荒々しく扉を開く音と共にレオ君の声が部屋に響いた。





 体中にレムの返り血を浴びた僕とアヤカ。それは研究所で殺されかけたレオ君も同じで、僕達は人気のない校舎裏から学生寮へと向かった。

 「とりあえず俺の部屋に来い」というレオ君の言葉に僕は素直に甘える事にした。彼の父親が学園に多額の融資をしているおかげで、レオ君には特別な学生寮が与えられている。そこには専属の付き人もいるという。アヤカの制服を着替えさせないといけないけど、それは男子の僕の手には負えないし、しばらく匿われるには、これ以上の場所はないだろうと思えたからだ。


 スイートルームのような3LDKに設置されたシャワールームを借りて体中の血を流した後部屋へ戻る。

 すると――レオ君がタクミ君の絵に絵筆を向け、何かを描こうとしている。それを見た瞬間反射的に体が動いた。


「やめろ!!」


 レオ君の腕を掴んだ瞬間、微かな違和感を感じた。震えている……?


「いてぇな、放せ」

「何しようとしたんだ?」

「サインしようとしたんだよ。この絵はもう俺のものだからな」


 理解が追い付かなかった。これはタクミ君が描いた絵だっていうのに、一体どう言う事だ?


「どう言う事だ? どうしてタクミ君の絵が君の部屋に?」

「ああ、父様が運んだんだろうな」


 めんどくさそうに頭を掻いたレオ君は、大げさなため息をついた。


「とりあえず、放せ」

「……」


 手を離すと絵筆を置いたレオ君はスマロのスイッチを入れた。


『こんにちは、レオ様』

「タクミのニュースを出せ」


 クロヒョウのアバターを着たAIにレオ君が命令すると、すぐにニュースが表示された。「loading」の文字が出ないと言う事は、このニュースはレオ君が定期的にチェックしているニュースという事なんだと思う。そこに描かれていたのは……


『輝くようなライトブルーの天才少年の絵画・1000万円で落札決定。輝くようなライトブルーで鬱病が治ると世界中から依頼殺到!!』


 それは僕が目にした事のないニュースだった。


「レオ君、これは」

「見ての通りだよ、タクミのニュースだ」

「このニュースは一体……僕はこんなの見たことないけど、タクミ君の絵画が1000万円で落札された? 鬱病の治療……?」

「さあ、俺はよく知らねぇよ。ただ、父様は言ってた。あいつの絵が世間に認知されることは絶対にないってな」


 ホログラムを消され、彼は再び絵筆をキャンパスに向けた。


「待て!!」

「言ったろ、この絵はもう俺のものだって」

「……タクミ君の絵だろ?」

「だったもの、だ。見ただろ? 何処のニュースもタクミの名前を載せてなかった。皆『天才少年』の絵だって理解しててもそれが誰なんだかは知らないんだよ」


 タクミ君の功績を奪おうって事か? そんな事許されるのか?


「メディアもこの学園も、俺の父親の言いなりだ。全部筋書き通りなんだよ……『輝くようなライトブルーの天才少年』が俺になるって事もな!!」

「――!! やめろ!!!!」

 

 その瞬間、カーテンの隙間から朝日が差し込んだ。

 光がキャンバスを照らし――そこには、今まで見えなかった文字が光を放ちながら浮かび上がる。そこに描かれていたのは……


 **『輝くようなライトブルーの絵画全ての権限を澤谷アヤカに譲る』**


 レオ君の手が止まり、サインを入れようとしていた筆先がわずかに震えた。


「は?」


 光に照れされた文字は徐々に輪郭を鮮明にしていった。その控えめながら神秘的な輝きは、紛れもなくタクミ君にしか出す事が出来ない「輝くようなライトブルー」と同ような色彩に見えた。


「クソが……!! クソがあああぁぁぁあ!!!!」


 彼の手から絵筆が滑り落ち、激しく椅子を蹴り飛ばす。怒りに震えているように見えた。


「……俺は負けてねぇ」


 タクミ君は気付いていたのか? レオ君の企みに。少なくともこの絵画のサインは、いつも抵抗せずに『内心の複雑さが滲み出た微笑』を浮かべていた彼の小さな革命のようにも思えた。


「……さすがだな、タクミ君」


 心の底から思った。タクミ君……君は、強い。



数ある作品から本作を読んで頂き、ありがとうございます。

次回はまた来週金土日のどこかでアップしようと思います。レオ君の本音がちょっと聞けます


挿絵(By みてみん)


もし続きがよみたいと思って頂けましたら、下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援してくださると今後のモチベーションになりますm(__)m

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― 新着の感想 ―
さっそく読みました! 一つ騒動が終わって出てきたまたしてもレオ君やらかしてしまいますね。タクミ君のことを利用して名声は自分のものにしようとするとは。 前回の章で助けれれておきながらこの姿勢。本当に…
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