救出準備
闇に潜む者にとって、ここは最高の狩場だ。
2052年。
僕は羽瀬田リュウ。ハーモニア大学附属学院中等部の3年生だ。
学園の薄暗い業者用倉庫に黒い装甲車の動く音が響く。僕が待ち伏せるのは、つい10分前「ある少女」を連れ去った侵入者達。
彼らは捕獲した少女をあの車で連れ去るつもりなんだろう。車から降りた黒服の男は、逃走準備の為に出口解除のハッキング作業を始めた。
僕は過去に「闇」の組織に所属していた。でも今は脱退してボディガードの仕事をしている。
「殺し」は僕にとって生きる術であり、忌まわしい過去の記憶であり、大切な人を守る為の唯一の力でもある。彼女を守る為に、この力が必要だ。だから過去に「殺し」の道を選んだ事を後悔はしていない。
「娘は捕らえたのか?」
『無事捕獲した。マザーAIの強制シャットダウンはあと何分だ?』
「5分だ。時間切れと共にマザーが復旧してセキュリティが復活する。それまでに娘を連れて逃げるぞ」
『OK。扉を開いて脱出準備をしていてくれ』
――あと5分。
秋には似合わない程蒸し暑い倉庫内で埃と金属の匂いが鼻を突き、汗が皮膚を滑る――その全てを『呼吸』で無かったことにする。
感情や雑念を排除した絶対集中的な状態――「ゼロの領域」
吸い込む空気が肺を満たし、吐き出される息が体中の感覚を研ぎ澄まし――その瞬間、世界が変わった。世界から音が消え、色が薄れ、不安や恐怖が消え去る絶対集中的な状態。その状態に入ったら、あとは任務を実行するだけ。
「アヤカは絶対に助け出す。この命に代えても……絶対に」
数ある作品から本作を読んで頂き、ありがとうございます。
もし続きがよみたいと思って頂けましたら、下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援してくださると今後のモチベーションになりますm(__)m