箱入り双子冒険記 ~皇子、皇女がおくるドタバタ救出劇~
双子の冒険が今、幕を開ける。
王国の第一皇女であり、幼いながらも将来が約束されているほどの美貌の持ち主リリアンヌ。
その双子の弟であり、男子であるのにもかかわらず美しい第一皇子のシアン。
その二人の親として申し分ない王妃アトランナと国王ルドフォン。
いつでも暖かな光が溢れる美しい城に住む王一家は、今日も幸せに楽しく暮らしていた。
朝起きるとお母さまとお父さまがいなくなっていた。
((今日はお誕生日だから、お父さまもお母さまもどこかに隠れてるんだ。それで「サップラーイズ」というつもりかな。))
今日で六歳になるリリアンヌとシアンは双子らしく同じ事を思い、きょろきょろとあたりを見回す。
普段なら「おはよう。かわいい子供達。」と声をかけてにっこり笑いかけてくれるはず。
それなのに。
数分たっても何も起きない。それに不安を覚え、部屋の中を駆け回り「おとうさまー、おかあさまー。」と叫びながら、家具の下や布団の下をのぞいた。
「お父さま……。お母さま……。どこにいるの?」
ぽつりとつぶやき、シアンが泣き出した。
(お姉ちゃんとしてもっと強くならないと!)
リリアンヌは階下にいるメイド達に助けてもらうことにした。自分に何もできない事実が虚しかったが、「こんなときは大人を頼るのが正解」って習った気がする。
階下に向かう扉を開けた瞬間、いきなり頭の上に一枚の紙が落ちてきた。
「うわぁっっ、これは……?」
数秒間、落ちてきた紙とにらめっこしたが……。
(うん、読めない。シアンに読んでもらわないと。)
「シアン~! ちょっとこっちに来て! 何か書いてあるみたいなんだけど……。」
精神面では勝っているリリアンヌだが、勉学に関してはシアンに劣る。シアンは王子としての教育を、リリアンヌは王女としての教育がされているからでもあるが。
「どうしたの、リリーお姉さま。」
数秒しか出生時刻は変わらないのに「お姉様」と呼んでくれる弟に朝からほがらかにされながら、今落ちてきた紙を指さした。
「これを読めばいいの? わかった。じゃあ読むね。」
「『王妃アトランナと国王ルドフォンはいただいた。返してほしければここに来い。小さな子供達よ。 ダークランドより。』 あと…、このバッテンがついてるのは地図、みたいだよ? 『印のところに行け』って、下に書いてある。」
読みながらシアンの顔色はどんどん悪くなっていく。幼いながらも「お父さまとお母さまが大変」ということがわかったのだ。
(お父さま…、お母さま…。今日はお誕生日ケーキを一緒に選びに行く日なのに…。)
リリアンヌの頭の中はケーキでいっぱいだった。
………ダークランド。それは自らそう名乗り、決して痕跡を残さない影に潜む集団だ。
ダークランドの狙いは「王国転覆」。悪の集団としてはあるあるだが、王国にしてみては大きな脅威である。
王妃アトランナと王ルドフォンは昨日、ダークランド本部の場所を特定した。その翌日に行方不明。これは偶然ではない。
ダークランドにはもう一つ企みがあった。光を司る龍「サイアン」を倒し、倒すと出現する「光の石版」を手に入れ、その力で世界を闇に染めることだ。しかし、「サイアン」がいる洞窟には王一家の人間しか入れない。王一家の人間をどうにか洗脳して「サイアン」を倒させる。
それが一番の狙いだったのだ。しかし、そんなことを二人は知らない。
「シアン。お父さまとお母さまを助けに行こうよ! この×印のところに行けばいいだけ………みたいだし?」
「うん! リリーお姉さま。一緒に行こう!」
箱入り双子は「やりたい」と思ったことはすぐに実行してしまうたちだ。生まれが生まれ故に誰からも止められたことがないため、今回も数分でお城のエントランスにいた。
「よーし。出発だ! お母さまとお父さまを助けに行くぞ! せーの。」
「「えい、えい、おー!」」
リリアンヌのかけ声で2人とも手を高々と天に突き上げた。旅はここから始まる。
「ここだ。ちゃんとついて良かったね。リリーお姉さま!」
そんな会話をしながら2人は×印のところへ到着した。
吹き付ける砂埃が肌に当たって痛い。王国の近くに「さばく」というものがあると聞いていたがここのことだったのか。
そんなことを考えながらリリアンヌは弟の手を一層強く握り、目を開けた。目の前にはとても大きな建物がある。王国よりは小さいが、入り口に大きなドクロマークが飾ってあって神秘的だ。
そして…、世間知らずの2人は「こういうところにはだいたい敵がいる。」という常識を知らず、警戒なしに建物の中へと入っていった。
(あれは・・・、お父さまとお母さま!)
部屋の奥にお父さまとお母さまの姿が見える。
「お父さま! お母さま! 今行きます!」
そう言いながら走るシアンとそれを追いかけるリリアンヌ。しかし、突如人の形をした黒い影が二人の行く手を遮った。
(黒い影? なんだろう、なんだか怖い。リリーお姉さまと合流しないと。えっと、お姉さま
は……。)
黒い影に驚いたシアンがリリアンヌを探してきょろきょろと辺りを見回した。しかし、いつのまにかあたりに充満した黒い煙に視界を遮られてうまく見えない。それになんだかぼーっとする。
「こんにちは、お二人さん。自ら助けに来るとは偉い偉い。そんなえらーい君たちにご褒美をあ
げよう。こっちにおいで。なーんにも怖くないからね。」
どこからか声が聞こえる。ささやくような甘い声。その声の方に行かなきゃいけない。
(あれは、リリーお姉さま。でも…、声の方に行かないと。)
シアンは自分と同じ方向へ向かうリリアンヌを横目に声の方へ歩き続けた。
そして……、いつのまにか二人の意識は闇に溶けていた。ぱたっと倒れる音がしたかと思うと、辺りを静寂が包みこんだ。
☆☆☆☆
(あれ、ここは? 私は?)
目を覚ますと四方真っ黒な部屋の中だった。何も思い出せない。
「おぉ。目が覚めましたかリリアさま。調子はいかがなさいますか?」
リリアと呼ばれた少女が声の方に目をむけると、優しそうなおじいさんが少女をみていた。でも・・・、この状況がわからない。
「えっと、ごめんなさい。私はだれ? ここは?」
「覚えていらっしゃらないのですか。リリアさま! あなたは凶悪な魔物「サイアン」を討伐しようとして反撃にあい、こうして体制を立て直しているのであります。早く「サイアン」の討伐に向かわなければ新たな被害が出てしまいます! 」
よくわからないが、「サイアン」という凶悪な魔物を討伐しなければいけないらしい。いや、討伐しなければいけない使命だ。
「わかりました。状況はだいたい掴めました。サイアンの討伐にいきます。」
「おぉ。ありがとうございます。ではこの小瓶を持って行ってください。「サイアン」にこの小瓶の中身を投げつけるか、かけるかすると、サイアンを倒すことができます。二つ渡しますので、予備として持って行ってください。」
そう言われておじいさんから真っ黒な液体の入った小瓶を二つ手渡された。それを丁寧に受け取り、会釈した。
それが使命ならば行くしかない。そう決意してリリアと呼ばれた少女は立ち上がる。
記憶を失った少女リリア_リリアンヌは「サイアン」を討伐することになってしまった。それが相手方の思惑だとも知らずに。
☆☆☆☆
「いた、あいつだ。」
黒い小瓶を腰につけた少年は、目の前に横たわる白い龍に気づかれないように静かに移動した。
姉と同じく記憶を失った少年シアンは「サイアン退治」に来ている。姉と同様まんまとダークランドに踊らされている。
(よし。ここからなら当たるはず。せーの。)
腰につけていた小瓶を白い龍_サイアンに向かって投げ……た瞬間後ろから何かがシアンにぶつかり、小瓶の軌道がずれてしまった。サイアンから何mも離れたところで無残に砕け散っている。
「いってて。あれ、君もサイアンを倒しに? 私はリリア。サイアン討伐が使命なんだ。」
腰に同じ小瓶をつけた少女がシアンに話しかけた。「今丁度お前のせいでサイアンを倒し損なっちゃったんだよ!」と思い切り叫びたいところだったが、我慢した。この人にそんなこと言っちゃいけない気がする。
「僕はシアン。同じくサイアン討伐に来てる。協力してあの龍を倒そうよ。」
「それは名案! りょーかい。一緒にがんばろう!」
ともかく、壊してしまった小瓶を補充できそうで良かった。この小瓶をもらうときに「人体に使うととてつもないパワーが得られる代わりに自我がない、凶暴な獣と化し、そして死ぬ。」といっていたからまちがえて割らないように気をつけないと。
☆☆☆☆
「せーの!」
バリン。そんな音がして小瓶は明後日の方向で割れた。龍に当てなければいけないのに。
「君、下手だよ。僕ならもっと上手にできる。」
リリア_リリアンヌは少年に罵倒されたことでもっと肩を落とした。
別にわざわざ明後日の方向に投げているわけではない。龍の方へ投げているのになぜか小瓶は別の所へとんでいってしまうのだ。もう二人合わせても小瓶は二つしかない。大事に使わないと。
「僕の方が上手だから僕が投げる。君、その小瓶ちょうだい。」
突如少年がそう言ってリリアンヌが持っていた小瓶をもぎとった。「いや、私が投げるよ。」という暇もない。リリアンヌが下手だから仕方がないといえばそうなのだが。
「次は当てるからみてて。せーの。」
バリンという音がしたかと思うとあたりに黒い霧が充満した。「吸ってはいけない。」というのを肌で感じた二人は袖で口を覆い、収まってから目を開けた。光の龍「サイアン」は跡形もなく消えていた。そして、「サイアン」がいたところにはきらきらと光り輝く石板が、一つ転がっていた。
「これは私が持ち帰るの!」
「いや、僕だ。お子様め。」
「あなただっておこちゃまでしょ!」
「僕の方が精神年齢は上だ!」
「ふん。私はこれが使命なの! ちょくめい、ちょくめい。」
「僕だって石板を持ってこいっていわれたもん。いわるるちょくめいーってやつだ。」
「めーっだよ、めーっ。むー。」
「おろかだねぇ。」
「あなたの方だよ!! 私はおとなだもん。」
「べー。だ。」
「べー。」
「・・・」
「・・・」
The子どもという争いの後沈黙が続いた。「石板を持ち帰ってくる」という一つの目標についての話し合いなのにこうも幼稚になってしまうのはなぜなのだろう。
「わかった。大人な私がてーあんしてあげる。途中まで一緒に持ち帰ってあなたと分かれるところになったらまた考える、っていうのはどう?」
「いいよ。おこちゃまの考えに乗ってあげる。」
幼稚な討論の結果はやはり安易で幼稚な結論であった。
「君もここが目的地なの?」
「あなたこそ。私のちょくめいと同じ場所だなんて。」
リリアンヌはいまいち「ちょくめい」の意味を理解していない。
「よくわかんないけど、僕がすごかった、ってことだよね。」
「違うよ! 私ががんばったの。」
「君は大切な小瓶をテキトーになげて無駄にしてあげくに僕の邪魔をしただけじゃん。僕ががんばったんだよ。」
「私だって努力したの!」
「ふん、おこちゃまめ。」
「あなたこそ!」
ダークランドの拠点の前に着いたところで、またおこさま論争が始まった。がしかし、話しながらもきちんと拠点の中へと歩いている。
入り口の、広い部屋につくと二人の目の前にまたもや黒い影が現れた。
「よく良い子に戻ってこれたねぇ。偉い偉い。ほら、その石版をこっちに渡して。」
「「はい。わかりました。」」
突然黒い影が現れたことに全くの疑問を持たず2人は了承する。
(この声をきくとなんだかぼーっとする。この声の言うとおりに動かないと。あの女の子に手柄を横取りされたら困るし。)
「これを。」
少年シアンは両手で丁寧に光の石版を黒い影に手渡した。
「く、くっっくく。あはははははは。」
突如黒い影が黒い人に変わり、建物中に反響する声で笑い出した。
(なんだか怖いよ。だれか。だれかぁ。)
「愚かな子供達よどうもありがとう。もう君たちは用済みだ。」
一息置いて、黒い人はこちらに手を向けてきた。
「『さようなら』」
手から黒い塊がジェット機のようにシアンに飛んでいった。
足がすくんで逃げることもできない。心のそこから震え上がる恐怖。もう無理なんだ。
「シアン!!!!」
突然、目の前に人影が飛び出してきた。
あの人は、あの人は・・・リリーお姉さまだ! 全て思い出した。
「あ、あなたはリリーお姉さま!! リリアンヌお姉さま!」
「はぁっ、はぁっ。だい、じょうぶ? シアン?」
リリーお姉さまは黒い塊をもろにくらい、息も絶え絶えに倒れた。
「リリーお姉さま! ごめんなさい。ごめんなさい! お姉さまにひどいこと言って、その挙句に助けてもらって、ほんとうに、ごめんなさい。」
「シアン。だいじょうぶだよ。それより、シアンが生きていてよかった。こちらこそお姉ちゃんなのにシアンのこと守れなくてごめんね。」
そして、リリーお姉さまは無気力に目をつぶった。冷たい床に倒れどんどん生気がなくなっていく。でも、まだ助かる。早く王国に戻ってお医者さんに見せないと!
「悲しみに明け暮れる姉弟の絆…謳歌できたかね少年よ。大丈夫、2人ともすぐにあの世に送ってあげるからね。あ、そうそう、君たちのお母さんとお父さんも後から追いかけるから心配しないでねぇ。」
どんどん近づいてくる。手に黒いぐるぐるをつけて。どうすれば、どうすればいい。お父さまはお母さまは? だめだ。誰も助けてくれそうにない。いや、周りに頼ってはダメだ。
「ぼくがお姉さまを助けるんだ!!」
さきほど光の龍サイアンを倒したときに使ったこの黒い液体の入った小瓶。腰から取り外して中身を凝視した。「人体に使うととてつもないパワーが得られる代わりに自我がない、凶暴な獣と化し、そして死ぬ。」という言葉が本物ならこれを飲めばきっと……強くなってお姉さまを助けられる。死んでしまっても構わない。それでお姉さまが助かるなら。
シアンは小瓶のふたを開け、そして、一気に飲み干した。
なんだかめまいがする。だめだ、意識を保てない。体の奥底からなにかがやってきて、どんどんちかよってきて、飲み込まれてしまいそう。いや、これを飲んで時点で覚悟は決まっていたはずだ。お姉さまを助けるためなら飲み込まれても構わない。
☆☆☆☆
「ガァルル!!! グワァルル!!!! がるるるる…ガァル!」
(シアン?)
まだ少しだけ力の残っている体で力を振り絞ってリリアンヌはまぶたを少し持ち上げた。これもそれも、愛しの弟の鳴き声が聞こえたからである。
(シアン! だめ!! 私はどうなっても良いから、シアンは逃げて! シアンだけは……。)
本当は声に出して叫びたかった。でも声がかすれて出ない。届けたくても途中でかすれてシアンに届くことはない。ただ、ことの顛末を指をくわえてみていることしかできないんだ。
そこからは何が起きたのか分からなかった。黒いオーラまとって獣のように吠えているシアンは黒い人にかみつき、ぐるりと回ってはひっかき、手から黒い塊をだして攻撃した。さっきリリアンヌを攻撃した塊によく似ている。というより同じ物かもしれない。
最初は相手も反撃を繰り返していたが、今はじりじりと後退している。
「お前、なんでその薬を飲んだんだ! 馬鹿が!!! お前も死ぬんだぞ。」
そう叫ぶ影の人のことばはむなしく宙を舞う。
「ガァルル? グワァルル!!!!」
シアンの耳にはなにも入っていない。そしてシアンが大きく両手を上にかかげ、手と手の間にとてつもなく大きな黒い塊を作った。ぐるぐると漆黒の闇が渦巻いている。
「ダメ! シアンやめて!」
かすれた声で叫ぶリリアンヌ。でもケダモノと化した弟に声は届かなかった。
「ガォルルルル!!!」
そして、シアンは黒い塊を影の男へ投げた。
「ふっ。そんな攻撃がきくわけ無いだろ! 俺はダークさまだぁぁ!」
影の男_ダークはひょいと右に避け攻撃をかわした………ように見えたが、シアンが投げた黒い塊がどんどん膨張していく。ダークは意を決して扉の方へ駆けだした。しかし、黒い塊は膨張しながらスピー
ドをどんどん上げ男を追いかける。
___ゴリゴリ、ガリゴリ。
どこからかそんな音がする。
音がする方を見ると、いつの間にか分離した黒い塊が壁を削り、同時並行でこの建物ごと囲み始めていた。ここにいてはまずい。直感で感じる。しかし…体が動かない。もうどうすれば。
_____ベチャ。
なにかが張り付くような音がする。
あまり動かない体を無理矢理180度回転させると、ダークが壁に張り付いてもがいていた。いや、「壁に捕まっていた」という表現の方が正しいのかも知れない。黒く脈打つ壁に捕まり、ダークの顔からもどんどん生気がなくなっていく。
そして、黒い塊がそこに猛スピードで向かっていく。初めに飛び出したときの比にならない速さでどんどん巨大化していく。悲劇の惨状を見たくなくて、ギュッと目をつぶった。
わずか数秒後、爆発音が辺りに響き、とてつもない爆風があたりをおおう。
塵が収まった。少しの興味でダークが張り付いていた方を見ると……最悪の結果だ。
ダークは跡形も無く消え失せていた。まるで蒸発したかのように。残っているのはダークが後生大事に抱えていた石版と、暴走したシアン、そしてあざ笑うかのように自分を大きく囲う禍々しくうねる黒い壁だけだ。
(何がいけなかったのだろう。父と母を助けたくて。敵に操られたのは失念だったけど、それでも弟を助けることができた。このまま弟だけでも生き残ってくれれば良かったのに、弟もろともみんな死んでしまう。惨めだな。)
自分の惨めさに、気づいたら涙が溢れていた。視界が歪むほどの大量の雫。自分は最後まで惨めなまま終わってしまうのだ。
「ガルルル。ガウッ。」
シアンがこちらを向いて吠える。『ぼくがお姉さまを助けるんだ!!』なんて言っていたのにみんな死んでしまうじゃないか。
「ハァッ、ハァッ。」
でもその中に疲れが見えている。あの薬を飲んだダメージは大きいようだ。がんばって逃げればシアンが先に倒れて自分は生き残ることはできるかも知れない。
でも、そんなの姉失格だ。いやだ。弟を見捨てて生き残るなんて絶対にできない。せめてもの報いとして一緒に生涯を終えたい。
もうほぼ力がのこっていない体をむりやり起こしてシアンの元へ向かう。今までの思い出が頭の中を流れていく。これが走馬灯という物か。
キラッ。
視界の端で何かが光っているのが見える。あれはなんだ。あれは…石版だ! さっきまで冷たい石だったのに暖かい光を出している。たしか、あの石版は「光の石版」という名前だった。もしかしたら。もしかしたら。
一抹の希望の元に石版の方へと歩みの方向を変える。しかし、思うように体が動かない。後ろからは肩で息をするシアンが追いかけてきている。ダメだ。あと少し、あとほんの少しだけ…。
届いた! 石版を抱えて地面に倒れ込む。自分で自分が衰弱しているのが分かる。でも、最後の希望だけは離したくない。
突然、石版がまばゆい光を放ち、光り出した。思わず目をつぶるほどの強い光。するとどこからか声が聞こえてきた。
「我、光の石版なり。守護龍が1人光の龍サイアン守りし石版である。
我、闇の力と反応することで覚醒する。そして我、覚醒した。
又、汝、我を使う資格あり。我、王家の者が触れることにより活性化。
及び、王家の者のみ使うことできる。
闇の力と触れる、王家の物が触れる、この二つの条件を満たしたときのみ、我、使うことできる。
我の力二つ。一、どんな闇の力でも光にすること。二、どんな光の力でも闇にすること。
しかし、我、一回使うと壊れる。
それゆれ、使える力は一か二のどちらかのみ一回であること。汝は何を望む。」
突然の声に思わず聞き入ってしまった。曰く、どんな闇の力でも光にでき、どんな光の力でも闇にすることができるそうだ。しかし、どちらか一回しか使えないそうだ。この石版はもしかしたらすごいものなのかもしれない。どんな光の力でも闇にでき、どんな闇の力でも光にできるのならば世界の均衡を崩せる。永遠に光の世界にすることも、闇の世界にすることも可能だ。
(私は…。私は…。)
きっとここで「世界の闇を光にする!」というのが一番良い答えなのかもしれない。でも、「世界」の中にシアンが入っているかどうかわからない。もし入っていなかったらシアンはこのままこの姿で死んでしまう。世界を救いたい。ふいに訪れたチャンスで苦しんでいる人を救うこともできる。でもわがままプリンセスでもいいじゃないか。
(私は、弟を、シアンを救う!)
「石版さん。私の弟を、シアンの闇を光にしてください!!」
「汝よ。本当にそれでいいのだな。悔いはないな?」
「はい!」
思いっきり答えた。と、同時に石版が手の中で砕けちった。
そして後ろで誰かが倒れる音がした。
失敗した可能性も考えながら振り向いた。そこには…愛しの弟が空を見上げて寝転がっていた。
「シアンっっ!」
思い切り走って抱きつく。シアンはボーッとしてはいるが意識はある。しかし、とても疲れた様子だ。
「リリーお姉さま? お父さまとお母さまは?」
「あ。」
シアンはか細く声を出す。本当に生きていてくれて良かった。
しかし…お父さまとお母さまのことをすっかり忘れていた。シアンでいっぱいいっぱいだったのだ。この旅の目的はお父さまとお母さまの救出だったはずなのに。
「ほんのちょっとだけ待っててね。」
少しでも離れるのすら惜しいが、建物の奥へ足を引きずりながら歩いた。黒い壁はシアンが作り出した物であったからか、石版の力ですっかり消えた。そのせいで入り口の部屋は壁、天井ももろともなくなり空が見えている。奥の部屋はまだ壁と天井があるようだ。
「お父さま~! お母さま~!」
「リリアンヌ……。」
入り口の部屋の衝撃で崩れかけている奥の部屋に入ると、どこからかお父さまの声が聞こえる。一生懸命瓦礫をどかす。そこには……
「お父さま!! お母さま!!」
後ろ手をひもで縛られたお父さまとお母さまが机の下に座っていた。瓦礫がふたの役割をして外に出られなかった模様だ。
「「リリアンヌ!!!」」
お父さまとお母さまが駆け寄ってきて抱きついてきた。目から涙を流している。王様らしくない。でも、自分の目からも涙がこぼれているのはなぜなのだろう。
「「ありがとう! そしてお誕生日おめでとう!」」
そうだ。この言葉を言ってほしかったんだ。入り口で倒れているシアンにも言ってあげてほしい。自分よりも不安そうにしていたから。でもなんだか目を開け続けられない。ふわふわして。ドっと疲れが押し寄せてくる。
そこでリリアンヌの意識は途切れた。
☆☆☆☆
思ったよりも自分は疲れていたようだ。朝起きたらお城の医務室のベッドで眠っていた。隣のベッドにはシアンも寝ている。すやすやとした寝息に安堵してまた眠気が襲ってくる。でも本当に良かった。みんな助かって。それに「お誕生日おめでとう!」も言ってもらえたし。光の石版は崩れてしまったけれど、きっとどうにかなる。それに。石版さん曰く他にも石版があるみたいだから。まずはこの幸せをずっと掴んでいたい。
ごろりとシアンの方に体を向け、リリアンヌはまた幸せな眠りへと落ちていった。
最後まで読んで下さりありがとうございます。嬉しいです。
双子の物語が書きたくて書いてみました。
まあこれはきっとハッピーエンドということで。
実はこの物語、作者側のちょっとした裏話があるんです。気になる人は「天野はごろも」から飛んで、私の活動報告を見てみて下さい。
__最後に
「面白い!」など思った方は、「いいね」などなどしてくださると嬉しいです! よろしくお願いします。
していただいたら、嬉しすぎて感激します!
ぜひよろしくお願いします。