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黒ばら王女と螺旋の廃城  作者: わら けんたろう
第一章 廃城のスケルトンキング
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第5話 三人の親衛隊長

 ふたりが宮殿の門に差しかかったとき、門の前に青、赤、黒の頭巾を被った三人の騎士が、跪いてアスカを待ち構えていた。


 彼らは、赤巾隊、青巾隊、白巾隊、黒巾隊と四つあるアスカ直属の親衛隊プリンセスガードの部隊長である。平時は所属部隊に応じて、それぞれ赤青白黒の頭巾を被っている。


 青い頭巾を被っている壮年の男は、青巾隊隊長リンツ。

 金髪銀眼の万能系イケメン。とくに剣の腕は、親衛隊のなかでも抜きん出ている。親衛隊のなかで、唯一、アスカの稽古相手を務めることができる男だ。

 親孝行者としても有名な二十五歳。


 赤い頭巾を被っているガチムキ系のイケメンは、赤巾隊隊長チシン。狼獣人の騎士である。

 頭巾を被っているので判らないが、ヘアレスウルフ族の出身だけにスキンヘッド。


 狼獣人とはいえ体毛の無い種族なので、残念ながらモフモフは期待できない。最近、ヨハンナという幼馴染の女性と婚約したばかりの二十歳。


 黒い頭巾を被り、菫色の長髪を後ろで束ねた知性系のイケメンは、黒巾隊隊長カエン。

 蜜色の肌に涼やかな菫色の双眸を持つダークエルフだ。


 貧しい家の出身で、やはり騎士である弟ダルフとともに家族の生活を支える二十一歳の苦労人。魔導士にして弓の名手でもある。


「あ、あなたたち、どうしたの?」


 アスカは目を丸くして、頭を垂れて跪く三人のイケメンたちに尋ねた。


「姫様が魔物の討伐へ向かうと聞き及びました。我々も御伴致します」


 顔を上げた青頭巾の騎士リンツが、悲壮な表情で魔物討伐の同行を申し出る。


「その件は、国王にお断りしたはずです。親衛隊など率いて、民に不安を与えたくありません」


 アスカがそう言うと、リンツの隣で跪くダークエルフの騎士カエンが顔を上げた。


「ええ。なので少数精鋭、我々だけです」


 カエンに続いて顔を上げた狼獣人の騎士チシンも言葉を重ねる。


「どうか、我らもお連れ下さい。姫様になにかあっては、武門の名折れ」


 三人の言葉にレイチェルは、ぱあっと明るい顔になった。この三人が一緒なら、心強いこと限りない。


「いいえ、結構です。道中、旅の武芸者でも雇って行きますから」


 しかしアスカは、きっぱりと彼らの申し出に断りを入れた。その後ろで、「どうしてっ!?」という表情のレイチェル。


「ならば我らは、いまここで自刃して果てます!」


 リンツはそう言って、鋭い眼差しをアスカに向けた。


「は!?」


「我らは姫様の親衛隊。その我らより、どこの馬の骨とも判らぬ者を姫様が頼りになさるのは、我らが至らぬゆえ。役立たずの不忠、死して償うほかありません」


 リンツは半端ない眼力で、じっとアスカを見据えている。彼の背後からも、カエンとチシンが半端ない圧の視線をアスカに送っていた。


 三人の気迫に気圧されるアスカ。わずかに後退りした。


「そんな、大げさな……」


 ためらう様子のアスカを見て、三人が剣を抜いて自らの首にあてる。

 まさに決死の覚悟を見せた。


「お、お願い。どうか、剣を収めてちょうだい。ね?」


 三人の行動に目を丸くしたアスカは、慌てて思いとどめようとする。


「では、我らをお連れ下さいますか?」


 剣を首にあてたまま、リンツはアスカに迫った。アスカを見詰める銀色の瞳が、真っ直ぐすぎる。アスカは直視できない。


「え? そ、それは、ちょっと……」


 すいーっと、彼女は視線をそらした。


 それを見た三人は悲痛な表情で口々に、


「父上、母上、先立つ不孝をお許しください」


「ヨハンナ、すまん!」


「ダルフ、父さんと母さんを頼む!」


 と父母、恋人、兄弟たちに対する別れの口上を叫ぶ。


「えっ!? えっ!?」


 アスカは、おろおろして三人を見回している。


「「「アスカ様に、栄光あれーッ!」」」


 三人は目を閉じて天を仰ぐと、声を揃えてそう叫んだ。


「ぎゃーっ! わかった、わたしが悪かったわ。連れて行くから、やめて、やめてってば!」


 アスカは飛び上がらんばかりに驚いて、わたわたと手を振り回しながら三人を止める。

 アスカの言葉を聞いた三人は、ぱっと目を開いた。


「本当でございますか?」


 リンツが探るような目で、アスカを見ている。


 剣は首筋にあてられたままだ。難色を示すだけでも、彼らは本当に自害して果てそうな勢いである。


 アスカは、ひとまずコクコクと首を縦に振った。


「まさか、途中で我らを撒いてしまおうとお考えでは?」


 じとーっと、疑いの目を向けるダークエルフの騎士カエン。

 アスカの肩がわずかに跳ねる。


「へっ!? な、なにを言っているのかしら? そんなわけないじゃない。やーねー。もー、カエンたら。ほほほほ」


 どうやら図星だったようだ。


 カエンからアスカに注がれる疑惑の眼差し。

 その視線に耐え切れず、アスカは人差し指で頬を掻く。


 やがてアスカは諦めたように肩を落として、三人に指示した。


「すぐに、旅の準備をしなさい。あなたたちの準備が出来たら、出発します」


「「「うっしゃあっ!」」」


 アスカの言葉を聞いた三人は満面の笑顔で立ち上がり、剣を天に突き上げて鬨の声を上げた。


 そして、ようやく剣を鞘に納めた三人は「姫様をお助けして、必ずや城を制圧するぞ」「うむ」「おお」などと言って、肩を抱き合い喜んでいる。

 レイチェルも、ホッと胸をなでおろしていた。


「早く準備して! 置いていくわよ」


 仁王立ちのアスカが、三人に催促する。


「すぐに戻ってまいります。今しばらくお待ちください」


 イイ笑顔で返事をしたチシンは、親衛隊の詰所へ向かって駆けだした。リンツ、カエンもその後を追う。


 全力で駆けていく彼らの背中を眺めながら、アスカはそっとため息をついた。

 三人ともイケメンには違いないが、よりによって暑苦しい男たちを連れて行くことになってしまった。


 こうして王都を出発したアスカ、レイチェル、リンツ、チシン、カエンの五人は、道中も色々あったが、無事、リヒトラント城へ辿り着いた。

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