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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

図書室の友人

作者: かみそり知巻

初めての投稿なので至らない点が多いと思いますがご了承ください。

今年の6月は、梅雨にも関わらず晴天が多く、降ったとしても少し待てば止んでしまうようなものばかり。今日もまた、雨など降らずに夏のような日差しが肌に突き刺さってくる。俺はこの日差しから逃げるように図書室に向かった。学校で涼しい場所と言えば図書室か保健室、職員室ぐらいだと思う。職員室はいけるはずもないし、保健室はさぼりに使い過ぎて仮病が使えなくなった。図書室に向かっていると五時間目を告げるチャイムが鳴った。クラスのみんなは今頃机に向かって勉強に励み始めたころだろう。昔は授業をさぼるなんてことはなかった。顔が怖く人に怖がられるタイプで友人と呼べる奴はいなかったが素行が悪い訳ではなかった。昔の俺は大学進学を目指してそれなりに勉強を頑張っていた。しかし高校2年の冬、父が事故にあって亡くなった。それからは、母が俺と弟の面倒を一人でみなくてはいけなくなり、母は、仕事に追われるようになった。母がやつれていくのに差ほど時間はかからなかった。俺ができることは家事や弟の面倒をみるぐらいだけで、バイトを始めると言っても母はしなくていいというだけだった。大学進学もしたいならしていいと言ってくれた。けれど、俺はやつれていく母の姿に耐えられず、役にたてない自分に腹が立った、未熟な自分に耐えられなかった。俺が就職することを決意し、母には「大学に行きたい理由はない、大学に行かずに早く働きたい」といった。母は、「そっか・・・。」といって俺の目を見ずにとってつけたように小さく微笑んだ。その時の母の少し悲しそうなその顔は、これから先きっと忘れないだろう。

 三年に上がると受験勉強というカリキュラムが加わる。俺の通う高校は自称進学校でカリキュラムも受験生向け、生徒もほとんどが大学進学を希望していた。教室は常にピリピリしていて、そんな場所に俺はどうも居られなかった。それから俺は授業をさぼるようになった。とはいっても自分で言うのもだが根が真面目なためさぼるのは受験勉強の時間だけ。最初こそ先生に注意されたが今では見放されたのか何も言ってこなくなった。少し心に痛いものを感じるが就職して忙しくなればそんなものは直ぐに消えるはずだ。あと少しこの学校生活を耐えればいい。




 図書室につくと、司書の先生が俺をみて一瞬眉をひそめたが別段注意する訳でもなくまたすぐに自分の仕事をはじめた。図書室なんて一年の時に校舎案内で来て以来だ。確か、図書室には勉強する生徒用の机があった気がする。そこで寝ていれば一時間なんてあっという間に過ぎるだろう。俺はそう思い本棚の間を通り抜け机のほうに向かった。机の置いてある場所にでると誰もいないと思っていたそこには、一人の男がいた。彼は一番端の机に、窓に背を向け座っている。窓から差し込む光に壊されてしまうのではないかと思うほどに身体は白く、黒い髪を持つ男だ。ちょうど沈みかけた太陽の光が彼の背中を照らし、まるでそこにいるのは天使であるかの様に、俺は感じた。彼は俺に気づく様子もなく本に目をやっていた。

「今、授業中だぞ?」

と声をかけると、彼は顔を上げ、驚いているのか目を丸くして俺をみた。

「あ、 、 うん、 。」

なんとも歯切れの悪い返事だ。彼もここへ人が来ると思っていなかったのだろう。俺は彼の前の席にドカッと座った。

「俺、三年の月城つきしろっていうんだけど、お前名前は?」

自分で言っといてなんだがとても威圧的な態度になってしまった。言い訳として俺は昔から緊張すると威圧的な態度をとってしまう癖がある。それが原因で俺は初対面で怖がられてしまい友達ができないのだが。ここに誰もいないと思っていたなかで人がいるという焦りと緊張から俺のだめな部分が著しく表れてしまったのだ。

「僕は、水無瀬みなせ。月城くんと同じ三年生だよ。さっき、授業中だって教えてくれたけど月城くんこそ授業中になぜ図書室にいるの?」

彼は笑顔でそう聞いてきた。俺に笑顔を向けてくる奴なんていなかったからとても驚いた。今までの奴は俺の顔や態度が怖いという理由でいつも避けられてきた。それなのにこいつは笑顔で答えしかも会話を続けようとしている。俺は驚きすぎて間が開いてしまったが直ぐに我に返った。

「俺は進学しねぇからいいんだよ。」

すると水無瀬はまたしても笑顔で「僕も」と答えた。



 水無瀬と出会ってから数日がたった。図書室にサボりに行くと必ず水無瀬は窓側の席に座って本を読んでいた。俺が話しかけると水無瀬は本を閉じ俺の目をみて話す。育ちが良いのだか、今時スマホから目を離さずに話す奴らばっかりなのにこいつはしっかりと俺の目を見て話す。この数日間話していてこいつについて幾つか分かったことがある。一つは、こいつの読んでいる本は海外の人が書いたやつばかりということだ。例えば、ドストエフスキーやエドガー・アラン・ポーなど。俺でも名前ぐらいは聞いたことのありそうなものから全くしらないものまで、とにかく難しそうなものを読んでいる。二つ目は、こいつは頭がいい。成績はいつも一桁台の順位だそうだ。俺もそんなに悪い方ではないが毎回一桁台の順位は無理だ。俺はだいたい十から十五位をうろついている。物凄く頑張って一桁台の順位になる時がある程度だ。だから、常に上位にいるということがどれ程凄いか分かる。ただ謎なのは、それ程頭がいいのになぜ進学をしないのか。あと、授業に出てない癖に頭がいいのはなんかムカつく。三つ目は、俺が図書室に来ていない普通の授業の時からここでサボっていること。しかも、三年からではなく一年の時からだそうだ。先生はそれをなぜ黙認しているのか。中学とかなら保健室登校とかなんとかいうやつがあった気がするが高校はないだろうに。いや、俺が知らないだけでそういった仕組みがあるのかもしれないが。授業を受ける気がないのになぜ高校に来たんだ?俺がなぜか聞いてもこの間は本が好きだから、その前はもう学ぶことがないから、とか理由がはっきりしない。他にも、部活や習い事などはしていないこと。学校が終わったらすぐ帰ること。家は少し遠く、バス通であること。など。全て俺から質問して答えてもらったが、こいつは自分の話をするときはとても歯切れの悪い答え方だった。俺への質問や本についてならペラペラと喋るのだが自分について話すのは苦手らしかった。というより何かを隠しているような話し方にも感じた。まあ、気のせいかも。俺も自分のことについて話すのは苦手だ。だから、こいつも俺と同じってわけだ。

 水無瀬との図書室での日々が続きそのまま夏休みに入った。夏休みまで図書室に行く気はなかったが、家にいると母に大学に行かなくても勉強はしろと言われるため母から逃げるように夏休み中も図書室に通った。勉強をする気はないのだが。夏休みの図書室にも水無瀬はいつもの場所にいた。いつもと違うところは、図書室にいる生徒が俺ら二人だけでないこと。夏休みという大型連休の過ごし方は受験生にとっては大事らしく多くの生徒が勉強をしにきていた。俺の逃げ場であった図書室が嫌いなピリピリとした空間になってしまった。もちろんそんな空間で水無瀬と話せるわけでもなく夏休み中の会話は、挨拶のみとなっていった。ああ、早く終わらないものか、と俺ははじめて夏休みの終わりを願った。



 夏休みがあけてまたいつもの学校生活が始まり、二人の図書室に戻った。俺は、また前の様に水無瀬と過ごせる時間に浮かれていたのか、授業が終わり帰りのホームルームすらも終わりを告げるチャイムがなってもまだ図書室に居座り水無瀬と話していた。別段いつもより話が盛り上がっていたわけではないがこの時間が続けばいいと願った。すると、図書室の扉が開く音がして、その後、中に入ってくる足音が聞こえた。その足音はまっすぐこっちに向かってきて、そしてそれは俺たちの座っているところで止まった。俺はその足音の持ち主の顔をみるため見上げると、そこには、女が立っていた。そいつは、目が大きく、髪はおろしていて長さは肩にぎりつかないぐらい。女は、俺の方を見て気まずそうにしていると水無瀬が

「どうしたの?」

ときいた。

「あ、あのね、今日塾お休みだから、久しぶりに一緒に帰りたいなって思ったのだけど、、あ、でもね、お友達といるならいいの!えっと、邪魔しちゃってごめんね。先帰るね。」

そう言って女は立ち去ろうとした。

「ちょい待ち。俺もう帰るから。水無瀬とは一緒に帰らないし。君が一緒に帰ったらいいよ。」

俺がそう言った途端に女はただでさえ大きな目をもっと大きくさせて、満面の笑みを浮かべ、水無瀬の方に顔を向けた。

「うん、帰ろ。」

水無瀬は立ち上がり女の方へ行ってから俺の方に振り返って

「またね。」

と言って図書室を出ていた。あれはぜってぇ彼女だよな。彼女いたのか。まあ、いるだろうな。頭良いし、顔も悪かねぇし、モテそうなやつだと思っていたけど、サボり魔だから学校に友達すらいないぼっち野郎だと思ったけどな、彼女もちか。なんだか心にぽっかり穴が空いてしまった気がした。あいつは俺と同じで孤独だと思っていたが、孤独ではなかったのか。俺のなかで今まで味わったことのないぐちゃぐちゃした気持ちが芽生えた。口から嫌なものが出てきそうなそんな気持ちがした。

 

 次の日、俺は水無瀬に昨日の女は彼女かどうか聞くと、そうだと答えた。彼女は、美奈みなといい、同中らしく中三の時に付き合いはじめたそうだ。自分から聞いたにも関わらず水無瀬の口から彼女の話を聞くと肺が握り潰されたように息苦しかった。授業のチャイムが鳴ったのが聞こえたのと同時に席を立ち教室に戻った。いつもならグダグダとしているけど、今日はこれ以上水無瀬と一緒にいることが出来なかった。とても息苦しく、辛かった。なぜ自分がこれほど辛くなるのか全く分からない。一つだけ確かなことはいつもの楽しい時間が美奈の存在を知ってからは何も楽しくない。


 それから一週間ぐらい俺は図書室に行かなかった。いや、行けなかった。惨めな俺を受けいれる必要があった。一週間経ってやっと自分を受け入れられるようになった。先生達は俺がサボらず授業に出ていることを不思議がってはいたが、偉いといって俺を褒めて喜んでいた。しかし、俺のこの気持ちは時間が解決してくれた。次第に水無瀬に感じたぐちゃぐちゃした気持ちをなんとなく自分の中でいいところにしまうことが出来た。だから惨めな自分をうけいれられた今、図書室に行かない理由はなくなった。俺はまた今日からサボり魔となった。


図書室に行くといつもの場所に水無瀬は座っていた。

「久しぶり・・・。」

意識して気まずくならないように挨拶しようとしたつもりだが、自分でも恥ずかしくなるほどにキョドってしまった。しかし水無瀬は、

「あ、久しぶり。」

と笑顔で顔を上げ、前と変わらない様子を示した。俺は聞かれてもいないのに来られなかった理由を忙しかったからや先生に捕まったからだとか思いつく限りの理由を言った。全て嘘であったし、嘘をつくのが苦手なため、きっとこれが嘘であるということを水無瀬は気づいていたと思う。しかし、俺が一通り言い訳を話終えても、大変だったんだねと笑ってそれで終わりにした。それからまたいつもの様に本の話、日常の話など他愛のない話をした。


それから一カ月過ぎたころ、水無瀬が急に

「僕、美奈と別れたんだ。」

と笑っていった。俺はそうかとだけ答えた。なんて声を掛けたらいいか分からず俯いていると

「月城が気に病む必要はないよ。なんか、ごめんね。別れは最初から決まっていたことだから心配はいらないよ。」

この時の水無瀬の笑顔が俺には無理しているようにみえてどうにかしてあげたいと思ったら、考えるより先に

「水無瀬今日さ、一緒に帰らないか?…アイス!そうだ、アイスでも食べよう。奢るよ。」

と声を出していた。なんとも幼い励まし方だ、言ってからとても恥ずかしくなった。しかし、水無瀬はありがとうと笑顔で言って、放課後二人でアイスを食べに行くことにした。と言っても洒落た店も知らないし、お金もないのでコンビニで安い氷アイスを買うといったなんとも安い計画であったが、しかし、初めての友達との約束、水無瀬との約束に俺は少し胸を躍らせた。


放課後校門で待ち合わせて学校から一番近いコンビニに向かった。俺たち以外にも数人の生徒が買い物に来ていた。一人だったら他の奴らがいるコンビニなんて入りたくないが水無瀬と一緒なら入ってもいいと感じた。アイスを買ってコンビニの前で氷アイスを食べながらいつもの様にどうでもいい話をしてその日は帰った。帰り際には水無瀬の表情も少し明るくなったように感じて俺はほっとした。


水無瀬と別れてから一人で今日のことを思い出した。はじめて友達と学校帰りに寄り道をした。落ち込んでいた水無瀬を励ますために寄ったコンビニであったが俺はこれが楽しくてうれしくて幸せだった。水無瀬とはこれからも友人であり続けたいと改めて思った。


 俺は、昨日の出来事が嬉しくて軽やかな足取りで図書室に向かった。しかし、水無瀬はいなかった。しばらく待ったがその日は水無瀬が図書室に来ることはなかった。きっと、水無瀬にもなにか事情があったのだろう。彼女と別れたばかりだし学校にすら来ていないのかもしれない。しかし、次の日もその次の日も来なかった。水無瀬の教室に行こうとも思ったがあんなに一緒にいたのに教室の場所すら知らなかった。水無瀬が来なくなって一か月程たったか、水無瀬が図書室に来ることはなかった。友人だと思っていたのは俺だけだったのか、励まし方を間違えてしまったのか、俺はどうしたらいいのか分からなくなった。色々と考えていたら、気づけば俺は泣いていた。悲しくて寂しくて仕方がなくなっていた。前までは一人でも平気だったのに水無瀬と出会って人といる楽しさを知ってしまった今、一人はあまりにも孤独で耐えることが出来なかった。周りの空気の重さがひしひしとのしかかり俺をつぶそうとしているのではないかというほど顔を上げて歩くのが辛くなってしまった。


 そんなある日廊下を歩いていると聞き覚えのある声がし、顔を上げるとそこには水無瀬の彼女であった美奈がいた。俺は、美奈に駆け寄り肩を掴み水無瀬はどうしたのかと聞いた。いつもなら人にましてやたった一度友人の彼女としてしか会っていないような女に声などかけないのだが、この時の俺は正気でなかった。

「水無瀬は、なんで来ないんだ?クラスはどこだ?教えてくれ、お願いだ。俺は、何も知らないんだ。」

すると、美奈の目がみるみる赤くなっていき目から大量の涙が溢れ出てきた。俺はどうしていいか分からなかった。なぜこいつが泣いているのか、どうしたらいいのか、俺は茫然と目の前の光景をみていた。彼女はしばらくすると、消えてしまいそうなか細い声で

「水無瀬くんはね、 、 、自殺したの。 、 、 、私を振ったその日に、 、 」

といった。その言葉は知らない言語で話されていたかのように俺には理解できなかった。頭にまるで入っていかなかった。俺は、もう一度美奈に水無瀬の居場所を聞いた。何度も何度も聞いた。幾度目か分からないが急に美奈は声を荒げ

「水無瀬くんはね、もおいないの。」

と叫びその場で泣き崩れた。美奈の友人らが駆け寄り彼女に寄り添い俺に対して、何か訴えていたが、美奈の言った言葉が理解できていない俺には全くもって頭に入ってこなかった。俺は美奈を放置し、周りの言葉も無視しどこへ向かうかもわからず鉛のように重くなった足をただひたすらに前後に動かしその場を去った。気が付けばいつもの図書室に来ていた。いつもの場所に座り俺は、考えた。水無瀬が死ぬはずがないと。美奈を振った日ということは、二人でアイスを食べた日だ。あんなに楽しそうにしていたんだ、死ぬはずがない。それとも楽しんでいたのは、俺だけだったのか、俺は励まし方を間違えてしまったのか、どうすればよかった?俺があの時しっかりと励ませたら水無瀬は死ななかった?いや、水無瀬が死んだというのは嘘だ。そうだ、あれは美奈の嘘だ。どうしてあいつがそんな嘘をつくのかは分からないが、あれは嘘だ。水無瀬が自殺するはずはないんだ。もしかしたら水無瀬は受験することにしたのかもしれない。あとは、家庭事情とか、先生に怒られてサボれなくなったとか、何かしら図書室に来られない理由があるんだ。必ずまた来る。待とう。俺も一週間来られなかった時期があるし、水無瀬も今は来られない時期なんだ。きっとそうだ。美奈があんなことを言うから取り乱してしまった。ああ、よかった。水無瀬が来れるまで、待ち続けよう。


 それから、俺は前と変わらず図書室に行った。水無瀬は必ず来る。今は都合がよくないだけだ。俺は、そう思い、毎日水無瀬に会ったら何を話そうか考えた。またここで水無瀬と話せる日が待ち遠しくて仕方がなかった。一人は寂しいが、人を待つのは一人ぼっちでいるより幾分か寂しくなかった。俺の頭の中では次会える日のことでいっぱいで孤独でなかったから。


 ある日いつもの図書室の静けさを誰かの足音により消された。その足音はまっすぐに俺の方に向かって、そして止まった。俺が目を向けるとそこには美奈が立っていた。

「あんた、もしかしてここでしーくんを待っていたりする?」

と腕を組み俺を見下ろし威圧的な態度で聞いてきた。“しーくん”とは水無瀬のことか、そういえば水無瀬の下の名前は志桜しおだと言っていたきがする。

「ああ、そうだよ。当たり前だろ。」

そう答えると彼女は威圧的な態度のまま

「私、あなたに言ったわよね?しーくんは死んだと。」

俺はその言葉に被せるように反論した。

「君がどうしてそんな嘘をつくか分からないが、誰がそんなデタラメ信じるか。」

「しーくんから、月城は頭がいいと聞いていたけど、しーくんの買い被り過ぎだったみたいね。だって、あなたの頭、脳みそはいってないみたいだもの。」

美奈は嫌みったらしくいってきた。

「てめぇ、何が言いてぇんだ?俺がてめぇになにをしたんだよ。」

「何もされてないわ。ただ、しーくんが死んだ事実を受け入れられないあなたに腹が立っているだけよ。分かっているんでしょう?本当はもうしーくんがいないってこと。だってそうじゃなきゃ、一人でずっとここで待ち続けないもの。先生や他の生徒に聞いて回ったりするはずだわ。あなたは、しーくんがいないことを分かっているから誰にも聞かずにここで待ち続けているのでしょ?」

「違う!そんなんじゃない!違う、違う、違う、ちが、」

「違くないわ。あなたは理解している。なのに自分に嘘をついて偽っている。なんて滑稽なの。」

俺はどうしたらいいんだ。水無瀬の死を俺が理解している?そんなはずがない。水無瀬は死んでない。信じたくない。美奈の嘘になんでこんなにも苦しめられなくてはならないんだ。

「今日、しーくんの家に線香をあげに行くの。前から行っていてあなたを誘う義理もないけど。しーくんはよくあなたの話をしていたからあなたに会いたがると思って、しーくんのために誘っているの。どうする?しーくんの家に行く?」

俺は、美奈の問に対して首を横に振った。放心状態だった。なにも考えたくなかった。美奈は、行きたくなったら言ってといってその場を立ち去った。また、いつもの静かなと図書室に戻った。美奈のいった通り心のどこかで俺は水無瀬がもういないことを理解していた。今まで俺の感情をせき止めていた堤防が一気にくずれて俺の目から大量に溢れ出た。それでもなお俺は自分に水無瀬の死は嘘だと言い聞かせたが一向に溢れ出た涙は止まらなかった。しばらく泣いた後、俺は家に帰った。生きた心地がしなかった。食欲もなければ、眠くもない。なにもしたくなかった。心に大きな穴が開いてしまってそこが一向に塞がらなかった。


 それからの日々俺は、どうやって過ごしていたのだろう。どうやって学校に行き、どうやって帰り、どうやって眠ったのか。なにを食べ、家族となにを話、なにをして過ごしたのか。全く記憶がなかった。心に開いた穴があまりにも大きすぎてずっと塞がらずにいた。それでも俺は就職活動をしなくてはいけないから気持ちを切り替える必要があった。しかし、俺には気持ちの切り替えが出来ず落とされる一方で受かる気配がなかった。家族のために受からなければいけないのは頭では分かっているのだが、気力が全くわいてこなかった。今まで崖の縁に立って水無瀬のおかげでどうにか奈落に落ちずに済んでいたのに、その水無瀬を失った今俺を縁にいさせてくれた命綱がなくなってしまった。真っ逆さまに落ちた俺にはそこから這い上がる術も気力もなにもなかった。


 卒業式前日。俺はとうとう就職することは出来なかった。当分はアルバイトとしてキャバクラのボーイとして働くことになった。フリーター生活。不安しかない。家族のために早く就職しなくちゃいけない。そう感じつつも、空いた穴がいまだに塞がらずにいる。穴が大きすぎて塞ぐことも無視することも出来なかった。水無瀬が死んだことを理解してからは図書室には一度も行かなかった。しかし、明日この学校を去ると思うともう来ることのできない図書室にもう一度行ってみようと思った。図書室に行けば水無瀬のことを思い出して辛くなるのは目に見えているが、俺の楽しかった学校生活の記憶は全て水無瀬と過ごした図書室だ。最後に思い出の場所をしっかりと見ておかなければならない。


 放課後の図書室は、まだ受験の終わっていない生徒が勉強をしていたり、下級生の図書委員の子たちが仕事をしていたりと人が何人かいた。今までは人のいない授業中に使用していたため、この光景に少しの不思議さを感じた。俺は、水無瀬のいつも座っていた窓際の席に座った。夕日になる少し手前の太陽が窓から差し込み俺を照らしている。少し開いた窓からはまだ寒い風が入り込んでいた。俺は、なんとなく水無瀬が今まで読んでいた本を読んでみようと思った。今からじゃ到底読むことのできない量の本をなんとなく読める気がして俺は記憶をたどりに本を探した。


 覚えている限り引っ張り出して机に積み上げると座った俺の伸長をほんの少し超すぐらいの高さになった。水無瀬はこんなにも本を読んでいたのか。俺は、最初に読む本は本を探す前から決めていた。水無瀬が一番のお気に入りだと言っていた『罪と罰』。これは、なぜか読むべきだと感じた。読もうとした時、本の間に何かが挟まっていることに気づいた。俺は、それを取り出すとそれは手紙であった。しかもそこには

『月城へ                              水無瀬より』

と書いてあった。悪ふざけかと一瞬思ったが俺と水無瀬が仲いいのを知っているのは美奈しかいないし、あいつがこんな悪ふざけをするとは思えない。これは、水無瀬本人からの手紙だ。俺は封筒の封をあけ手紙を読んだ。



『月城へ

急に居なくなってごめん。

この手紙は俺が居なくなった後に読んでほしかった。だから、俺はこれを本に挟んだ。読んでくれるかは、分からないけど、気づかなければそれでいいと思った。預けられたら良かったんだけど、俺がいなくなることを誰にも言っていなかったから出来なかった。これが本に挟まってて驚いたでしょ?驚かせてごめん。

前置きは、ここまでにして本題はここから。俺は昔大きな罪を犯した。償おうとした。周りも俺に対して馬頭したり責めたり何かしなかった。でも、俺自身が俺のことを許せなかった。だから、死のうと決意した。罪を抱えて生きていくことに耐えられなかった。俺の罪を月城に伝えたくない。このまま伝えずに良い俺の記憶だけを月城には残したい。でも、勝手に居なくなった理由を伝えないのは違うきがする。だから、今から俺の罪を告白しようとおもう。何もかも勝手でごめん。

俺は中学の時、付き合っている人がいたんだ。小さいころから家が近くて仲が良かった人でさ、中学一年の夏祭りに俺から告白して付き合った。その人は高二で耶世やよ なぎさっていう名前で年上の男性だ。渚と付き合い始めた俺は嬉しくて嬉しくて友達や周りの人に自慢していた。渚は俺の自慢の彼氏だった。俺の周りは、ホモに偏見なんてなくてみんな祝福してくれた。今どき同性愛に偏見持つ奴なんていないよな。でもさ、渚はホモであることでいじめにあってたんだよ。俺がみんなに自慢したから渚の学校にも広まっていじめが始まった。俺彼氏なのに知らなくてさ。渚もなんも言ってくれなかった。俺、ほんとに付き合えたことが嬉しくて幸せで回りがちゃんと見えてなかったんだな。だから、渚の変化に気づけなかったんだ。秋の終わりぐらいに俺、学校帰りにトイレに行きたくなって近くの公園のトイレに寄った。そこに渚がいた。渚は裸で知らないおっさんのモノを咥えてた。それみて俺裏切られたと思ってその場から逃げた。その後、渚から「話したいことがあるから、会いたい」って何通もメールが届いたんだけど、全部無視した。電話がきて、俺イライラして「きもい、話したくない」っていって電話を切った。それが渚との最後のやりとり。次の日朝起きたら母親から渚が自殺したことを聞いた。渚が居なくなったことを受け入れられなかった。怒りと後悔と悲しみがぐちゃぐちゃだった。頭も心も整理のつかないまま渚の葬式に参列した。その時、渚の同級生が俺に話しかけてきた。そこで俺は、渚がいじめにあっていたことを知った。公園のもいじめの一つだと。渚は同級生から性的ないじめを受けていたと聞かされた。俺は、そんときめちゃくちゃムカついて、渚をいじめていたやつも見て見ぬふりしたやつも彼氏の俺を頼ってこなかった渚もすべてにムカついた。俺は、年下で頭も悪くて、自己中で頼りないかもしれないけど、それでも、俺は渚の彼氏だから頼ってほしかった。それから俺は渚をいじめたやつを殺そうと思った。渚を殺したやつらに復讐しようと思った。それからいじめの主犯がもともと渚の親友で御浦みうら 佳士かじというやつだって分かった。そしてそいつの妹が自分の同級生であることも分かった。だから俺は妹に近づくことにした。それが美奈だ。計画通りに美奈の彼氏になり家に行き、御浦にあうことができた。美奈が席を外した時持ってきたナイフをあいつにむけて自分が渚の彼氏であることをいった。なぜ、渚をいじめたのか、親友なら喜ぶべきじゃないのかと聞いた。そしたら御浦は眉一つ動かさずに「あいつが幸せなのが嫌だった。」っていった。そんな理由で自殺に追い込んだのかと思うと俺の御浦に対しての殺意は増した。するとさっきまで表情を変えなかった御浦が急に笑い出して「お前が彼氏なのは知ってるよ。公園の録画してたんだから。あいつお前みた瞬間助求めてたのにさ、お前あいつのこと見捨てて逃げて、まじでウケたわ。しかも、あいつがあのキモおやじとヤッたのだって、俺らがお前に手を出そうとしたから身代わりになるからっていうんでヤッたんだ。お前も大概最低だよな。身を挺してお前を守っていたのに、お前はあいつを守るどころか見捨てたんだから。」といった。それきいたら、渚を殺したのは自分だったんだって気づいて、御浦への殺意は全部自分に向いた。電話でも渚は助けを求めていたのに無視して、馬頭して突き放して、大好きだったはずなのに、俺が殺したんだって自覚した。それから俺は生きている心地がしなかった。美奈とは別れようと思ったけど、別れ話したら好きじゃなくていいからそばにいたいって迫られて、面倒くさくてそのまま付き合っていた。体の関係どころかキスすらもしていない。美奈がどんなに俺を愛してくれても俺は美奈を愛せなかった。俺は、自分が殺人者だと自覚してからすぐに志納と思ったが俺の罪は死ぬ程度では許されない気がした。でも、国は俺を裁いてくれないし、周りの奴らも誰も俺を責めなかった。責めてほしかった。殺してやると罵倒してほしかった。人殺しとしての罰を受けたかった。でも誰もそんなことしてくれなかった。だから俺は、誰もくれない罰を自分自身で生きることで与えようと思った。俺、もともと茶髪で襟足長くて、頭悪かったんだけど、黒髪にして髪を短くして、猛勉強して渚になろうとした。性格も変えて渚として生きることで罪を背負おうと思った。けどだめで何度も何度も死にたくて仕方がなかった。どれだけ頑張っても渚にはなれなくて日々生きることが申し訳なかった。だから俺は、渚が死んだ年齢まで生きて償おうと思った。渚が死んだ日に俺も死のうと思った。だから俺が死ぬことは前から決まっていたんだ。これが俺が死んだ理由。月城に会って楽しくて何度か生きたいって思ったけど、一人になると笑ってた自分が許せなくて仕方がなかった。言い方が悪いかも。月城はなにも悪くない。感謝してるんだ。渚が居なくなってから毎日死にたくてしょうがなかったけど月城といる時は楽しくて俺勝手だけど、俺の罪を許してもらえてる気がしたから。だから、本当に月城に会えてよかった。ありがとう。

p・s・美奈にはこのこと言わないで、美奈は俺が好いていなかったことは気づいているけど兄に近づくために付き合ったことや、俺がホモだってこと知らないから。

ほんとに自分勝手でごめん。



さよなら、ありがとう」



 水無瀬の過去を知って、自殺理由も知った。手紙でなく直接話してくれれば水無瀬の罪を軽くできたかもしれない。水無瀬は決して犯罪者ではないし、渚くんも水無瀬に憎悪の感情は抱いていないと思う。水無瀬が死ぬ前に一度でいいから俺を頼ってほしかった。二人とも周りの誰にも言えずに自殺してしまった。自殺は、自分を殺す行為であるから地獄に落ちるらしい。地獄は直ぐに転生せずに罰を受けるらしい。二人に罰を受けてほしくはないけど、地獄で二人があえていたらいい。場所は違えど二人で幸せになってほしい。






 高校を卒業して五年がたった。今では三年前に俺は就職して、弟も無事進学することも出来、母の仕事も減らすことが出来た。今では三人仲良く暮らしている。美奈は大学を卒業して、服のデザイナーとして働いているらしい。四年前、水無瀬の命日に線香をあげにいったときに美奈に会い近況を聞いた。その際に連絡先を交換したまに向こうから近況やそっちはどうだ?などの連絡がきて話すぐらいだ。美奈の兄については知らない。あの手紙について美奈に言えないし、俺が兄について探る権利もない。水無瀬の墓は親のどちらかが死ぬまで作らないため水無瀬の家に線香をあげに行く。そこで水無瀬の両親にあって水無瀬との会話をはなす。二人とも毎回涙を流しながら俺の話を聞いた。彼らは、笑わなくなった息子を支えられなかったことを悔いていたため、俺の思い出の中の水無瀬の笑顔は彼らのほんの少しの助けになれたのだと思う。


 俺は、いまだに水無瀬の失った穴は一向に塞がらないが、今は生きて次会えた時に話すことを考えながらまた、水無瀬をそして渚くんも笑ってくれるような土産話を持っていけるような話をみつけることを糧に生きようと思う。



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