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私がノりすぎて『音楽(メロ)』の加減をミスったからなのか、あの後力の有り余った魔王様が敵国に単騎突入。その後国の中心…というか城を吹き飛ばしたことで戦争は終結したらしい。

それはもう、苦戦していたのが嘘のように呆気なく。


おかげで凱旋パレードの準備が無駄になることはなく、何も知らない民は思いの外遅かった帰還に首をかしげながらも「魔王様万歳!!魔王様万歳!!」と勝利を祝った。


勿論私も魔王様と兵を讃えて喉を枯らしたし、ついでに誰かがぶちまけた祝い酒も被った。はしゃぐにしても加減しようね?


そして今、酔っぱらいそうな熱気を引き摺ったまま城で行われているのは…いわゆる祝勝パーティーである。


魔王様の帰りがそもそも遅かったのでもう既に日付が替わりそうな時分だが、魔族は夜に強いので問題なし。むしろ元気いっぱいだ。


ズラリと並んだ料理はどれも珠玉の宝石のようで、料理人達がどれ程の思いを込めて用意したのかが伺い知れる。

いや、もうシンプルに言おう。


「滅茶苦茶美味しそう~っ!!」


どれから食べようかと目移りしていると、隣でクスクスと友人が笑った。


「好きに食べて大丈夫よ、ミュー」

「え、でも作法とかあったりしない?」

「普通はね。でも、今日は無礼講」


ザ・庶民な私が何故城のパーティーにいるかと言えば、この友人…というより、彼女の婚約者のおかげである。


酒を被ってびしょ濡れになった私に着替えを貸すと言ってくれた友人にノコノコ着いていくと、何故か彼女の婚約者の邸宅でドレスにチェンジさせられてここまで連れてこられたのだ。


何でも、この前言っていた私を妹のように思っているというのは冗談じゃなかったらしく、知らないうちに私は彼の妹として書面上の養子になっていたのである。


それを暴露されたのがつい先程…パーティーの直前なのだから、そりゃ驚いてひっくり返ったよね。

行動力の化身か?本人の意思くらい聞こうよ…


まぁ私は寛大だから、この美味しい食事でチャラにしてあげるけど!って、何このお肉うま!?え、消えたよ!?


とろける高級肉に感動していると、歓談に紛れて楽団の演奏が流れてきた。

人々の邪魔をしない、されどふとした拍子に耳が惹かれる楚楚とした音色。

うん、こういう場では私のより楽団の音楽の方が似合うね。適材適所ってやつ。


「…あれ?そういえば、魔王様はいないんだね?」

「確かにそうね…?主役がいなくて良いのかしら?」

「良くないけどー、魔王様はお忙しいみたいでねー?」


ひょこりと現れた友人の婚約者…もとい私の書面上の兄?は、手に持ったドリンクを私達に渡しながら緩い口調で続ける。


「ほら、予定外に国を二つ落としちゃったでしょー?戦後処理が大変みたいー」

「そっか。戦って終わりじゃないですもんね」

「でもそれ、どうせ口実でしょ?」

「え、そうなの?」


弾けるドリンクに口をつけ、友人があっけらかんと言い放った。

それに彼は笑みを深めて肯定を示す。


「鋭いねー。どうやら魔王様、結構お疲れみたいなんだよー」

「つまり、疲れてるから好きでもない音楽聞きながら貴族の顔色伺うのは嫌だ、と」

「み、身も蓋もない…」


しかし訂正を入れないところをみるに間違ってはいないらしい。

まぁ音楽云々は置いといて、遠目から見ても魔王様傷だらけだったし…疲れてるのは当然だろう。


「ミュー、ガッカリした?」

「え?何で?緊張しなくて済むからむしろラッキーじゃん」

「アンタね…」


最高級の料理で頬を膨らませながら首をかしげると、友人は残念なものを見るような顔でため息をついた。誠に遺憾。


「でもー、残念ながらミュゼットちゃんはー、この後緊張感たっぷり味わうと思うよー。まあ名誉は名誉だからプラスマイナスはゼロだろうけどー」

「え…?何でですか?あ!もしやもう噂が広まってて、ここで演奏をお願いされるって流れですか!?えへへー!確かに緊張しますけど、私ドンとこいですよ!!」

「うん……「ほ、ホントに!?」……………違うねー!」

「……」

「コラ、ミューが素直だからって遊ばないの」

「何かごめんねー?」


おおよしよしとわざとらしい声で慰めてくれている友人の腰をちゃっかり抱いている彼は、心にもない謝罪を緩く吐き出してカラカラ笑った。

この死霊(イタズラ好き)め。


「まぁ、確かにミュゼットちゃんの噂はもう結構広まってるけどねー」

「ミューと相棒くんの音は独特だもんね。特定なんてすぐでしょ」

「そー。ただ残念ながら演奏依頼は来てないよー」

「それはもういいです。あの、緊張感を味わうっていうのは…?」

「あー、それはねー、魔王様がキミを呼んでるからだよー!」

「ゑ?」

「ほらー、噂をすればー」


さらりと言われた言葉が飲み込めず、感情も全く追い付けないまま、私は背後でカツリと鳴った靴音に壊れたお人形のようにぎこちなく振り返る。


そこにはつい最近…具体的には数時間前に魔王様の隣に立っていた姿を見た気がする青年が、そういう彫像のように指先から爪先までピシリと揃えて佇んでいた。

彼は何故かバキバキに歪んでいる眼鏡の奥で私をじっと観察して…いや、眼鏡どうした?


「モレンド卿、彼女をお借りしても?」

「はーい。お手柔らかにねー」

「え、ちょ…」

「泣かすようなら呪ってやるからー」

「それは恐ろしい。肝に銘じておきます」

「あの、待って…!?」

「では参りましょう」


参りましょうじゃないってば!

え、私本当に魔王様のところに行くの!?ドッキリじゃなく!?


状況を処理しきれずパンク寸前な私は、優しいのに有無を言わせない絶妙な力加減から抜け出すことが出来ず、人々の好奇の目に晒されながら青年に連れていかれたのである。


取り敢えず、「いってらっしゃい」と満面の笑みで手を振った友人と婚約者は許さない。



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