表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

6


超特急で翼を動かし、やっとの思いでたどり着いた戦場。

それを一望できる高台で、私は盛大に顔をしかめていた。


戦況のあまりの酷さに…ではない。

いや、まったくないとは言わないけどね?

現にこちらの兵はボロボロで見るからに押されているし、槍で串刺しにされて転がされている死体だって見えた。


その光景は心を痛めるのに十分ではあれど、私の顔を歪ませた感情は…純然たる嫌悪なのである。


だって…血の雨が降り、怒声と剣の交わる音が響き、慟哭が獣の唸りのように空気を震わせるこの戦場に…清流が流れているんだもの。

あまりにも場違いな旋律が、どうして争っているの?と首をかしげる幼子のように穢れも知らずに漂っている。


こんなの…こんなの…!!


「きっもち悪っ!!!!」


さすがに馬鹿じゃないのかと吐き捨てた。

どう考えても今は、私のセンスではなく楽団のセンスがおかしいだろう。


慰めている場合か?

案じている場合か?

ただ寄り添って何になる。

震える背を甘やかして何になる。


よし、 よぅくわかった。この劣勢を立て直せないのはきっと…この甘っちょろい『音楽(メロ)』のせいだ。


美しい花を美しいと愛でられるのは余裕がある時だけ。

相手に余裕がないのなら、その花がどれだけ美しい花弁を開かせようとも…気付かず踏まれて散るだけだ。


音楽もまた然り。


綺麗で優しい楽団自慢の旋律は…『音楽(メロ)』は、今となってはほとんど兵達に届いていない。

それは癒しの『音楽(メロ)』を奏でているのに回復する様子のない兵を見れば分かることである。


増幅機(アンプ)を使っていないから届かないのではない。

甘さと優しさが…この戦場には響かないというだけの話。


そりゃそうだ。

今必要なのは甘さと優しさ(そんなもの)じゃない!

今、兵達に必要なのは…


「尻を蹴飛ばしてやること…でしょ!」


負けるんじゃねぇと弱気を切り裂く鼓舞を。

まだまだこれからだろと期待を示す激励を。

何より…


「勝利を望む『音楽(メロ)』を!!」


手にした相棒が曇り空の鈍い陽光を反射させる。

金色のこの子は小さいけれど、氷山地帯のドラゴンも認める程にエネルギッシュだ。


私達の音は、必ず届く。


「さぁ、戦場の観客諸君!出そびれたコンテストの分盛大にやってやるから、耳かっぽじってよぅく聞いてねー!」


そして願わくば…魔王様にも届きますように。


大きく息を吸い、私達は高らかに歌う。

相棒の…喇叭(トランペット)の音色は、私の奏でる野蛮と不評な『音楽(メロ)』は…雲を裂いた光のように戦場に降り注いだ。


先ずは一閃。開幕を告げる短い音楽(ファンファーレ)を!


お次は行軍。大地を踏みしめる力強い行進曲(マーチ)を!


さぁ、勝利を!我らに勝利を!!

目の前の敵を打ち倒し、一足早い凱旋パレードといこうじゃないか!


勝利を!我らに勝利を!!

敗者の血潮を踏みつけて、行進すべしや魔王の兵!


勝利を!我らに勝利を!!

大将首を旗に掲げ、愚かにも剣を向けた者共に知らしめてやるのだ!


さぁ、高らかに歌ってやろうぞ!

恐れ戦け我らこそ、魔王ディヴェルト・コン・マエストーソ様の兵であると!!!


最高に気分良く思うがままに吹き鳴らせば、『音楽(メロ)』が届いたらしい兵達が強化を示す朱色のオーラを纏って敵を押し返していくのが見える。


…あれ?回復もしたつもりなのに…全然では?緑色のオーラどこ??

まぁ、うん。元々苦手だけど…もうちょっと効果あっても良かったんじゃないかなーって…

正直ちょっとショック。


まぁ良いやと気を取り直し、再び冒頭から曲を始める(ダ・カーポ)

その時ふと、戦場で一際存在感を放つ人影に気付いた。


間違いない。魔王様だ。

うわわ、魔王様…私の『音楽(メロ)』聞いてくれてるかな…!?


緊張と興奮で上ずりそうな音程を何とか抑え、戦場を彷徨わせていた視線を美術品…じゃなかった、魔王様に固定する。


遠くから見てても目が潰れそうな程の美貌。

それに見惚れていた私は…その口元がくいっと持ち上がる瞬間をうっかり見てしまった。


わら…笑った…?魔王様が、笑った!?


まさかの不意打ちに心臓がスタッカートを指示されているかのようにト、トト、トと跳ねる。あ、不整脈だ。

もし…もし、あの笑顔を私の音楽が引き出せたとしたら…これほど嬉しいことはない。


と、魔力と音が乱れたのを感じたのだろうか。

魔王様はおもむろに私のいる方角へ顔を向けた。


や、ヤバいかな…?正式な楽団員じゃないし、見つかる前に逃げとく?

一応、もう戦いは大丈夫そうだし…


しかしそんな葛藤虚しく、魔王様の瞳は私を捉えてしまう。あーあ、見つかってしまったようだ。

さてどんな顔されるのかと身構えた私に彼は…


み つ け た


艶っぽく、睦言を呟くように唇を動かし…獲物を見つけたドラゴンの如く瞳をギラつかせた。


…あれ?もしや私、死ぬ?


アンデッド化どころではない魂ごと喰われそうな危機感を感じ、私は相棒から口を離して即刻離脱する。命大事に。命あっての音楽である。


千切れそうな程翼を動かす私の背後で、魔王様のものらしき鍵盤(ピアノ)の『(ソノ)』が大爆発を起こしていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ