地下オークション編
ファンタジーの世界をオネエ口調の夫とボクっ子口調の妻の二人を通して描こうと思います。
後々残虐な描写も描くつもりなのでR15としております。
ちゃんと小説を書くのは初めてなので、拙い作品になってしまうでしょうが、お付き合い頂けたら幸いです。
プロローグ
小刻みに揺れる馬上、少しずつ流れていく血は残された命の時間を表す砂時計の砂と同義だ。
街道で襲い掛かってきた山賊を返り討ちにし、逆に賊の馬を奪いその場を切り抜けたはいいが、その際に負った傷が体力を奪い続けていた。
だが、今意識を手放すわけにはいかない。自分の後ろに座るこの、小柄な少女を恩師の下へ届けるまでは。
アレンは貴族の家で使用人として働く青年だった。
元は孤児の身だったが、幸運な事に冒険者家業を営む師に拾われ、そこで読み書きからナイフの使い方まで生きていく為に必要な事を全て学んだ。
しかし、15才になった頃、自分には冒険者の才能は無いとアレンは貴族の使用人として働くべく師の下を去った。
『あれだけ色々教え込んだのに使用人になるだなんて、この恩知らずめが』
言葉とは裏腹にどこか嬉しそうな顔でアレンを送り出す師を見てアレンは悟る。
長く冒険者家業を営む師であるからこそ、その辛さを誰よりも知り、アレンが別の道を選んだ事が嬉しいのだと。
奉公先のサウス・イースト男爵家でその能力を認められたアレンは将来は執事と目され、その暮らしは順調に見えたが、サウスイースト男爵家を不幸が襲う。
領地内で不作が続いた上に、王都で起こった政変の影響で財政面で窮地に陥った男爵は借金の形となっていた領地の代わりに自分の長女を金貸しに差し出してしまう。
連れて行かれた長女を救うため、サウス・イースト男爵家の次女であるマナを連れてツテのある王都のローアー商会へ馬車で向かう途中、間が悪い事に二人は山賊に襲われたのだった。
使用人である自分に対して、実の兄かのように接してくれる姉妹の為にアレンは何でもしようと心に誓ったが、その誓いはどうやら最後まで果たせそうにない。
馬から落ちないようにアレンの腰に回したマナの腕は細く頼りない――しかし後はもう、この細い手に重荷を託すしかない。
馬の揺れ以上に感じる視界の揺れ、強く感じる息苦しさと寒気が思考の邪魔をする。一度だけ悔しさに歯噛みするとそれらを気合だけで押しのけ、勤めて冷静に前だけを見てアレンは告げる。
「――マナお嬢様、もうすぐ商会に着きますがその前にお話をよろしいですか?」
「は、はい!」
「私は先ほどの賊に負わされた傷の手当てをする必要があります。なので商会までは送りいたしますが、その後の交渉はマナお嬢様お一人にお任せしてもよろしいでしょうか?」
「分かりました――でも…先にアレンの傷をお医者様に診てもらったほうが良くありませんか?」
アレンの事を思ってのマナの提案だがアレンはそれを却下する。
「そこまで深刻な傷じゃありませんから、送り届けた後で大丈夫ですよ。それにラリッサお嬢様が今、どういう状況にあるか分からない以上、時間は惜しむべきかと思います。」
「確かにそうですね――お姉様連れて行かれてもう一週間ですものね・・・」
「私が診療所で治療を受けている間にちゃちゃっと話をまとめて下さい。お願いしますよ~?」
努めて明るくアレンは茶化してみせる。
「――はい!任せてください!」
「その意気ですよマナお嬢様」
決意を改めたマナの様子にアレンは満足すると、思いつく限りの必要な情報をマナ伝え始める。マナの横で交渉をサポートできない以上、マナの自身の手札を出来るだけ増やすしかない。
「商会には予め手紙でこちらの状況はある程度伝えてあります。商会のほうでも可能な限り情報を集めてくれるそうなので、到着しだい本題に入る事ができるでしょう」
「はい」
「商会の主人、レヴィン・ローアーは気難しいところもありますが義理堅い人間です。こちらが筋を通す限り力になってくれるでしょう。なので決して交渉中に嘘をついてはいけません。特に言ってはいけない言葉が――――」
多くの人が行きかう王都の南通りに目的の商会、ローアー商会はあった。
王都のメイン通りに居を構える商会の建物としては、こじんまりとした造りの二階建てのシンプルな建物の前にアレンとマナの二人は降り立った。
「マナお嬢様、後はお願いします。どうかラリッサお嬢様の事をよろしくお願いします」
「―――はい」
マナは目を閉じ胸の前で強く拳を握る。やがて開かれた瞳には強い決意を滲ませていた。
「何から何まで本当にありがとうございます。お姉さまは私が必ず助け出して見せます。アレンは早く多お医者様に診て貰って下さいね?」
「はい、マナお嬢様もお気をつけて」
アレンは扉の奥にマナの小さな背中が消えるまで青ざめた顔に笑顔を無理やり浮かべ続けた。
―――もう立つ事すら限界だった。だが、嘘は突き通して見せた。
大事な交渉を前にしたマナを動揺させない為に、命がけのやせ我慢を成し遂げたアレンは、その意識を手放す。
霞んだ視界に地面が迫ってくるが、その衝撃をアレンが感じる事はなかった。
ただ、どこからか懐かしい声が聞こえて来る気がした。
『まったく、図体が立派になっても意地っ張りなのは相変わらずね』
文を書くこと自体が不慣れな為、後から見直しておかしいと判断したらどんどん修正するつもりなので細部は変わる予定です。