第四話 パーティーとの遺恨
メタルリザードを倒た後、少し休んで討伐証明となる素材を少し剥ぎ取り、メルトの街に少女を担いで帰った
ミライさんに事情を説明と少女を保護して貰い、身元確認のお願いをし、俺は宿へ戻った
次の日、詳しい状況説明と死体の回収等の相談をする為、朝からギルドに向かった
ギルドに入るとまた皆んなから見られてる気がする、しかもコチラを見ながらコソコソと話し声が聞こえてくる
昨日のメタルリザードの事みたいだ
「ダンテさん、朝早くから来てくれたんですね!」
「何かありました?」
「何かじゃないですよ!」
「メタルリザードの単独討伐なんてここじゃ一回も聞いたこと無いですよ!」
「昨日のうちに調査隊と素材回収隊を編成して、メタルリザードは回収済みです」
「随分速い対応ですね!」
「あまり前じゃないですか!」
「メタルリザードの素材なんて滅多に手に入るものじゃないですからね!」
「それで、詳しい状況確認の為、ギルドマスターが話を聞きたいそうです」
「こちらへどうぞ」
そういって、ギルドマスターがいる執務室へ案内された
少し緊張気味になりながら、俺は扉を開けた
「やあ、ダンテくん久しぶりだねー」
「お久しぶりです」
このギルドマスター名前はマアトと言って、前から面識はあるものの、どこか胡散臭く信用出来なかったため、前のパーティーメンバーに対応を任せていたのだ
「この度のメタルリザード討伐とても感謝しているよ」
「はい、ありがとうございます」
「そんなに警戒しないでくれ、別に君の事を疑って呼んだわけじゃないんだ」
「ただ、ソロになってから随分腕を上げたみたいだね」
「この件が本当なら、ランクアップをして貰うつもりだよ」
「ただしね〜、他の冒険者から単独討伐なんて嘘だと猛抗議を受けてしまってね、私自身も自分の目で観たいので、君にはハンス君と戦ってもらう事にしたよ」
「何を隠そう、猛抗議してきた本人こそハンス君率いる翠玉の剣の皆様なのだから」
「な!」
「驚くのも無理はない」
「ただ…君も気づいたからパーティーから脱退したんだと思うけど、翠玉の剣の皆んなは君を認めたくないみたいだ」
「確かに俺は邪魔だったんだろうけど、そんな素振りほとんど見た事がなかったぞ」
「確かに君の前ではおとなしかった、でもね、ほかのメンバーだけで飲み会をしていた時の会話がほとんど君への嫉妬だったよ」
「嫉妬?」
「俺は戦力外だからって抜けたんだぞ!」
「君も聞いたのだろう?」
「ハンス君達が君を活躍させない様にさせていた事」
「確かにミライさんがそんな事言っていたが」
「実際俺は足手まといだった、嫉妬させる事なんて…」
「君はメルティ君やマリア君のスキルもほとんど使えた様だね?」
「一応は使えますが、使用に時間がかかったり、使用回数が少なく戦闘ではあまり役に立たないハズだ」
「おや?」
「ソロになって腕を上げたのは、それに気づいたからだと思ったんだがね」
「いや…」
確かにそうなのだ、リビングアーマーと戦っていた時、回復も魔法も自分でやらないといけなかったが、今まで以上に戦えた
と言うか、正直やりやすかった
「気付かなかった訳ではないが、それだけじゃないと言うことかな?」
「ご想像にお任せします……」
やはり食えない人だ、こっちを動揺させて自分が知りたいことを聞いてくるとは
「それは後ほど聞くとして、君はどうしてメタルリザードに単騎で挑もうとしたのかね?」
「君のランクはBだが、Aランク冒険者でも苦戦する相手に逃げるのが普通だと思うのだけれど」
「少女の悲鳴が近くから聞こえたもので、急いで向かったらそこにはメタルリザードがいたのです」
「少女は気絶しており、メタルリザードはこちらに気づいて攻撃してきたので、仕方なく応戦したのです」
「そうか少女の為、自衛の為にやったということだね?」
「次に昨日の素材回収隊が持ってきたメタルリザードを見たのだが、どの攻撃もものすごい切れ味で切られた様な傷だったのだがそこは話してもらえるかな?」
「冒険者が自分の切り札をそう易々と言えるわけがありません」
「ただ、あれは気力を使った攻撃とだけ言っておきます」
「ほう?」
「ますます興味深い話だね、メタルリザードを真っ二つにするほどの気力は君には無かったと思うがね」
「そこが君の切り札というわけかな?」
そうだった!
興奮してて、どこまで出来るか試しに全力で飛剣をつかってしまったのだ
尻尾程度なら誤魔化せたかもしれないが、頭から尻尾まで真っ二つにしてしまったのだ
それを気力だけでやったとなると、もうSランク並みの実力があると言った様なものだし、今までどうして使わなかったんだと疑われても仕方ない状況だ
「そうです、切り札です」
そう言い切るしかなかった
「まぁ、それもハンス君との戦いで明らかになると思うので、そろそろ場所を移動しましょうか」
「分かりました」
俺はギルドマスターと共にギルドの修練場へ移動した
そこにはハンス達が待っていた
緊張しつつ修羅場の真ん中にいるハンスの元へ向かった
その顔は今までに見た事がないくらい怒っていた
ただ、それと同時にハンスも緊張している様にも見える
「よくここに来れたな、あんな大それた嘘までついて恥ずかしくないのか?」
「嘘は付いてないからな、ハンス達が俺を今までどう思っていたかこれでハッキリしたよ」
「そんなに嫌いだったなら、優しくしなければ良かったのに」
「はん!こっちにも世間体があるもんでな、嫌いだから辞めさせたってなったらパーティーに入ろうとする人間がいなくなるからな」
「何がそんなに嫌いだったんだ?」
「そういうところだよ!自分は何でも出来ますみたいな感じで実際何でも出来た」
「初めはすげー奴だと思ったよ、だけどみんなどんどん自信が無くなってきたんだ、必死に頑張って覚えたスキルを数日で覚えて、もう教える事が無くなったら次は俺達も使えないスキルまで覚えはじめて、だから俺ら3人はお前を辞めさせる事にしたんだ、幸い気力の量が俺より少なかったから俺たちでお前に気力だけしか使わせない様にさせたんだ」
「パーティーの底上げになるからやった事だったが、そんなに嫌な事だったのか」
「そうだ!」
「挙げ句の果てにやめた途端メタルリザード討伐だと!」
「そんなわけあるか、嘘に決まっている!」
「俺と戦え、全力でな!」
「分かった、確かに不審に思うのも理解してる」
「実力を隠してたのかって思っているんだろ」
「信じないと思うが、きっかけがあっただけなんだ」
「それを今日見せるよ」
「俺は嫌いじゃなかったんだお前達のこと…」
そこに割り込む様にマアトが話しかけてきた
「まぁ、話し合いはそこまでで始めようじゃないか」
「準備はいいかな?」
「ダンテ君にハンス君」
「ああ」
「はい」
そう言って俺達は少し距離をとって渡された木刀を構えた
「一応ルールとして、気力や魔力の使用は問題ないが殺しはダメだよ、神力は長引くから使用は禁止にさせて貰う」
「いいかな?」
「おお、俺は問題ないな、だけどあっちは神力使えないと困るんじなないか?」
ハンスが煽る感じで聞いてきた
「はい、こちらもそれで問題ありません」
「ちっ!」
「すかしやがって」
それから少し沈黙が続き、ギルドマスターが手を上げ掛け声と共に振り下げた
「はじめ!」
ハンスは一気に身体強化を使い突っ込んできた
俺はほとんど動かす、気力を練っていた
「なに余裕ぶっこいてんだ!」
そう言いながら、強化攻撃で思いっきり切り掛かってきた
木刀といえど、強化攻撃での攻撃をまともに受けたら普通に骨が折れるし、最悪死んでしまうかも知れない、それをなんの躊躇もなくしてきたのだ、こっちも遠慮はいらないってことだな
俺は少し悲しくなりつつも、防御スキルを使用した
「剛体」
「キン!」
「ぬお!?」
スキルのおかげで、ハンスを攻撃を容易に弾く事が出来た
メタルリザードと比べるのは申し訳ないが攻撃が軽いな
両手で剣を持っていたハンスは弾かれた事により両手が上がり隙だらけになっていた、当然ここを見逃すわけもなく
強化攻撃で腹に攻撃した、手加減をして
「ゴフッ!」
ハンスの体が吹き飛び、修練場の壁に激突しハンスは意識を失った
あまりに呆気なく勝負がついた為か、周りは異様に静かだった
「勝者ダンテ君」
ギルドマスターの掛け声で止まっていた時間が動き出したかの様に周りの野次馬や翡翠の剣のメンバーが動き出した
ハンスの所にはメルティとマリアが駆け寄っていた
そこから俺の方を見て睨んでいる
俺もその事に気づいて近寄ると
「あんた今まで手を抜いて戦ってたのね!」
「卑怯じゃない!」
「そうですね、こんな短期間でハンスを圧倒するまで技量が伸びるなんてあり得ません」
メルティが激怒しながら抗議してきて、マリアが不審な点を指摘してきた
「俺が違うと言ったらお前達は信じてくれるのか?」
返答は分かりきっていたが、こう答えた
「こんな状況でそんな事信じられるわけ無いでしょ!」
そう、結局は俺は仲間じゃなかったんだ
仲間を信じる信じない以前の問題、仲間じゃなかったんだ
「なら俺からは何もいう事は無いよ」
「ハンスを看病してやってくれ」
「言われなくても分かっています」
「ヒール」
「う…マリア?…」
「は!」
ハンスは目を覚ますと気を失った事に気付いて、こちらに顔を向けた
「俺は負けたのか…」
「そうだな、俺が勝った」
「ハハッ!」
「こんなにあっさり負けるなんてな、気力だけなら勝てると思っていたんだがな」
ハンスは何か諦めた様に笑い、スッキリした様な顔もしていた
「何かあったのか?」
「きっかけはあったよ」
「そうか」
ハンスは何か納得したように返事をした
「こいつ今まで手を抜いてたんだわ」
「こんな奴いなくなって良かったわ!」
その言葉に反応したのはハンスだった
「やめろ!」
「な…何よ、いきなり」
「あんただって散々言ってたじゃない」
「そうだ、だから俺はみんなの前でこいつに勝負したんだ」
「え!」
「どういう事ですか?」
「こいつは正直言って凄い奴だった、だがオレは負けたくなかった」
「お前らも分かっていたから、嫉妬してだんだろ?」
「それは…」
「だから、俺は正々堂々勝負したんだ」
「こいつが本気で相手する様に仕向けて」
「そしてこの勝負に勝っても負けてもこいつには謝るつもりだった」
「結果は瞬殺、俺も予想外だったよ」
「今まですまなかった」
座っていたハンスはそのまま頭を地面につけて謝罪した
「ただ、こんな事があったんだ、パーティーには戻らないだろ、今回の件は貸しにしてくれ、何かあったら俺たちに言ってくれすぐに駆けつける」
「ああ、パーティーには戻らない」
「ただ、ハンスの気持ちが聞けて良かった」
「今までありがとう」
初めてパーティーに誘ってくれたのがハンスだった
あの時本当に嬉しかった、自信に溢れたあの顔が
誰よりも前に出て戦う背中がとてもかっこいいと思った
俺もハンスの様になりたくて翡翠の剣に入った
結局こんな形でパーティーを抜ける事になったが、最後にハンスと仲直りじゃないが、話せてスッキリした
俺ももっとみんなと話せていたら違ったのかな
今では少しだけそう思った
「見事な戦いだったよ」
話が一通り終わった所にマアトが会話に入ってきた
「まぁ、私の予想通りかな」
「メタルリザードの死体を見て、本当に君がやったならこのぐらい出来ると思っていたからね」
「今日から君はAランクへ昇格してもらう」
「時間はまだ大丈夫かね?」
「少し君に話したい事があるんだが、また執務室まで来てもらえるかな?」
「分かりました」
ハンス達の事はもう大丈夫だと思うが、このギルドマスターの方が厄介そうだな
そう思いながら、俺はマアトについて行った