2.たどり着いたお屋敷で
ミルクはマリアに答えました。
「私たちは、ただ、歩いていただけよ。何もしていないわ。」
「じゃぁ、そこをどきなさいよ。」
ミルクとマリアが言い合っていると、ポチが横から口をはさみました。
「ねぇねぇ。お姉さん、馬車の中からいい匂いがするね。ボクたちお腹が減っているから分けてくれない?」
ミルクも、馬車の中から香るいい匂いに気づき、窓の中のマリアに向かってお願いしました。
「うん。私たち、最後のパンを食べちゃった所なの。何か持っているなら、分けてくれない?」
「バッカじゃないの?なんで私の食べ物をあなたたちに渡さなきゃいけないのよ。パンが無いなら、お菓子でも食べていればいいじゃないっ。そこ、さっさとどきなさいよ。ひいちゃうわよ。」
ぱたんっ。
しかし、冷たい言葉とともに、マリアの馬車の窓は閉じられてしまいました。
「もぉ、ちょっとくらい分けてくれてもいいのにね。」
「うん。ケチだね。・・・って危ないっ。」
2人が、まだ横に移動していないのに動き始めた馬車に撥ねられそうになったため、ポチは、ぴょんと馬車の前から飛びのきます。
遅れてミルクも飛びのこうとしましたが、コテンとつまづいてしまいました。
「いたぁい。」
なんとか馬車の車輪をよけることは出来ましたが、頭から地面に激突したミルクの可愛らしいおでこには小さな2つの傷がチョンチョンとついてしまっています。
ペロペロ。
ポチにキズを舐められながら、走り去っていく馬車を涙目で見ているうちに、ミルクは、良いアイデアを思いつきました。
「ねぇポチ、あの子のお家には、おいしいものがいっぱいあるんじゃないかな?」
「そっか、馬車の中からあんないい匂いが漂ってくるんだもの。あの子のお家まで行けば、おいしいものがあるに違いないよね。」
笑顔を取り戻した2人は、馬車の車輪が残した地面の上のみぞを追いながら、マリアの後を追うことにしました。
てくてくてく
馬車の轍は、2人が思っていた以上に長く続いていました。
そのため、ミルクとポチが大きなお屋敷の前にたどり着いたときには、2人の足は、棒のようになっておりました。
「ねぇ、ミルク。ボクもう歩けないよ。」
「うん。私もクタクタ。だけど、ここならおいしいパンが食べられるんじゃないかな?」
ポチの言う通り、お屋敷の端っこにある建物からは、おいしそうな匂いが漂っています。
「きっと、あそこが厨房よ。行ってみよう。ポチ。」
「そうだね。あのお嬢様みたいに意地悪な人ばっかりじゃないはずだ。」
厨房の裏手に回り込んだ二人は、換気のための小さな窓からその中を覗き込みました。
「おいしそうっ。」
思わず声を上げたミルクの前に見えたのは、湯気の立ちのぼる美味しそうな―スープのお皿。
「どこから入ればいいんだろう?」
ポチは、大きな壁を見渡しました。
「ねぇ、あそこの隙間から入れそうだよ。」
そう言うと、ポチは、ミルクの返事も待たずに厨房の裏口のドアにあけられた隙間から潜り込んでいきました。
「あっコラっ。犬が入り込んでいるぞっ。追い出せ。」
スープ皿をくわえた瞬間のことです。
料理人が声を上げました。
ポチは、慌てて駆けて逃げます。
ミルクもつられて走り出します。
カランカラン
「はぁはぁはぁ・・・。」
たどり着いたのは、人の居ない小さな教会。
息を切らせたポチとミルクの前にあったのは、ほとんど空になってしまったお皿でした。
「こぼれちゃってる。」
ふたりは、お皿に残っていた小さなおイモを2つに割って分けました。
お腹は、ぐうぐうと鳴りますが、食べるものは、もうありません。