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1.お腹を減らしたポチとミルク

それは、昔々のお話です。


小さな街にたいそう貧しい少女が居りました。


彼女の名前は、ミルク。


両親は、すでに亡くなっており、その日食べるものさえ事欠くような暮らしをしておりました。


この日も、教会の牧師さんから貰ったひとかけらのパンだけが、彼女の口にできる水以外の唯一のもの。


そのため、やせっぽっちで同年代の子供と比べると小柄な体をしておりました。


ある日のことです。


やせっぽっちのミルクが路地を歩いていた時のことでした。


彼女は、路地の片隅に置かれた木箱から聞こえる小さな声に気づきました。


「おなかがすいたよぉ。」


ちっぽけなミルクは、精一杯の背伸びをして木箱の中を覗き込みます。


そこに居たのは、ミルクと同じようにやせっぽっちで、ミルクが着ている服と同じくらいみすぼらしい毛皮を着た1匹のわんちゃんでした。


「ワンワン。ボク、お腹がすいたんだ。何か食べるものを持ってない?」


ミルクの右のポケットの中には、ライ麦でできた黒い小さなパンが1つだけ入っていました。


「私も、お腹ペコペコなの。このパンを一緒に半分こしよう。」


ミルクは、ポケットから取り出したパンを、割るように半分に分けると、背伸びをしながら木箱の中にそっと放り込みました。


モグモグモグ


2人は、同じくらいのはやさでパンを食べ終えると、まったく同じタイミングで「ぐぅぅ」とお腹を鳴らしました。


小さなパンの半分ずつでは、まだまだお腹はぺこぺこだったのです。


「ねぇ、もうパンはないの?」


子犬は、木箱の中から上を見上げます。


「ごめんね。私、もう何も持っていないの。」


ミルクは、自分の服のポケットをすべて裏返して犬にその中に何も入っていないことをを見せようととして、彼が木箱の中に閉じ込められているため、外の様子を見ることが出来ないことに気づいた。


「ねぇ、この木箱を横倒しにしたら、あなたをここから出してあげることが出来るかな?」


イヌは、ちょっと考えた後、小さな声でそれに答えた。


「ケガしないように、ゆっくり倒してほしいっ。」


ミルクは、近くにあった木片を、木箱の端に挟み込むと、反対側からゆっくりと箱を押していきました。


 ゆら、ゆら、ゆら


箱はゆらゆら揺らめいた後、バタンっと音を立てて勢いよく倒れました。


「あいたたたたっ。もぉ、ゆっくりって言ったじゃないか。」


「ごめんね。最初はゆっくりできたんだけれども、途中から勢いがつきすぎちゃった。」


舞い立った砂埃にケホケホとせき込みながら、イヌは木箱からはい出してきて、ミルクの前にちょこんと座りました。


「でも、出してくれてありがとう。あの箱の中に入れられて、どうにも出られなくて困っていたんだ。」


「良かった。あなたを助けることが出来て。でもね、あなたって呼ぶのってちょっとヤダな。私の名前は、ミルク。ねぇ、あなたのお名前を教えてくれない?」


「あぁ、ボクの名前は、ポチっ。ネロ・アウグストゥス・ゲルマニクスっていうご主人様が、名づけてくれた由緒ある立派な名前なんだよ。」


「ふーん。そのネロっていうご主人様はどうしたの?」


「その・・・がっしりとした立ち耳の大型犬のほうが、良かったみたいで・・・。」


どうやら、ポチのご主人様は、木箱にポチを入れ路地の片隅に放置して居なくなったといういきさつのようでした。


かわいそうに。ポチは、こんなに可愛らしい子なのに・・・。


ミルクは、ポチの頭を軽くなでると言いました。


「ねぇ、ポチは、お腹がすいているんだよね。私もそうなの。一緒に食べ物を探しに行かない?」


ポチが、ご主人に捨てられたらしいことに気づいたミルクは、この路地を離れてどこか違う場所で食べ物を探す提案をしてみました。


「そうだね。ボク、暖かい場所に行きたいな。だって、ここは、とっても寒いんだもの。」


北風のふき込むこの路地は、木箱という風を遮るものがなくなったポチにとって、とても寒かったのです。


うなずきあった2人は立ち上がり、路地を抜け大通りへと向かいました。


「きゃっ。」


「わっ。危ないっ。」


大通りに出た途端、ミルクとポチは、しりもちをついてしまいました。


すごいスピードでやって来た豪華な馬車とぶつかりそうになったのです。


それは、マリア・アントニア・ヨゼファ・ヨハンナという長い名前のお嬢様がのった馬車でした。


ミルクとポチにさえぎられ、急停止した馬車の窓から、マリアが、顔をのぞかせます。


「どうしたの?どうして、私の馬車をとめたりするの?」

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