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蒼空  作者: 柏木ひな
1/4

出逢い

著者が中学の頃から思いついていた作品です

カリスマ美容師が流行っていてそれにインスパイアされた作品です

私と青年の歳の差を一回りにしたのは特に意味はありません(笑)

少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです


「じゃあ行ってくる」




空港で両親を見送った


飛行機はニューヨークまで飛ぶのだろうか、等と思いながら飛んで行く飛行機を見上げながら私は家路へと向かった

羽田からニューヨークまでは直行便がある

きっと無事に着くであろう




去年の冬に父の転勤が決まった

ニューヨーク支部に転勤になったのだ

母は父に着いていく事になった

私は高校二年生というのもあり今の環境を壊したくなくて日本に残る事に決めた

離れて暮らしてはいるが社会人の兄が日本にいる

それで両親は私が日本に残る事を承諾してくれた

今年の三月上旬に両親はニューヨークへ向かった


羽田からモノレール、電車を乗り継ぎ最寄り駅まで着いた

駅から少し歩くと小さな公園が見えてくる

その公園を抜けると歩道橋があり、家側に渡ると長く緩やかな坂道の並木道が見えてくる

そこを登り切ったら家につく


「ただいま」


誰も答えない家というのは何だか新鮮な気がしてむず痒かった

三年生は卒業式を終え二年生一年生は明後日に終業式を迎える

土曜日の今日は休みでこれといって用事もない

かといってコレといった趣味もない


『散歩にでも出掛けようかな』


今日は晴天

晴れた空が澄んでいて眩しい

並木道の木漏れ日が心地いい


並木道を過ぎて歩道橋を渡り公園についた

コレといってやる事もなくベンチに腰掛けた

公園では小さい子供達が遊び周り所謂ママ友であろう人達が話し込んでいた


『子供って元気だな』


子供達をぼーっと眺めながらふと空を見上げた

やはり眩しいくらいに澄んだ晴天だ


『私何してるんだろう』


子供達を見ていたせいか自分の過去を振り返ってみた


幼い頃からコレといった取り柄も無く平凡な毎日を繰り返してきた

どちらかというと内向的な性格ではある

幼稚園では外で皆と遊ぶより室内で絵本を読んだり折り紙を折ったりする方が好きだった


小学校に上がってからも【普通】の子供だった

本が好きでよく図書室に通っていたがそれ以外に特徴はない

学校の成績も平均3.5と本当に【普通】だった

ただ図画工作と家庭科だけは成績はよかった

でも基本の五科目は平均レベル

テストの点数もごくごく【普通】であった


友達は少ないが三人ほどいた

ただ親友と呼べるかというとわからなかった

本を読んでいない休み時間にはお喋りをしたり、授業でグループになる時は四人で集まった

遠足、林間学校、修学旅行等も四人のグループだった

帰り道はバラバラなので途中までは一緒に帰り分かれ道で別れるそんな距離感のグループだった

私はそんな距離感が良かった


中学に上がってからもそれは変わらなかった

私は【普通】でごく平均的な存在だった

基本の五科目も普通で平均点より少し上くらいの成績だった

ただ家庭科の授業だけはよかった

手先が器用なのだろうか

料理も裁縫も人より少し上手かった

いや、裁縫だけは上手い方かもしれない

ただそれだけだった


友達も相変わらずで傍から見たら仲良し四人組

実際に仲はいいのだが突っ込んだ話はあまりしなかった

たぶん四人ともこの距離感を壊したくなかったのだろう

お互い一番プライベートな話はしなかった

小学校からなので家族構成くらいは知っているが、話題は昨日見たテレビの話だっり、芸能人で誰が好きだとかそんな話ばかりだった

あとは学校行事の話くらいだろうか

文化祭や体育祭や水泳大会等の催し物、修学旅行の話題なんかだった

四人とも偶然にも三年間同じクラスだったので文化祭も修学旅行も同じ班で行動した

体育祭は私は少し運動が苦手なので皆と一緒に一番無難な応援に回っていた

水泳大会も応援に回っていた

体育祭や水泳大会は運動神経がいい人が目立つ

ヒーローやヒロインになる

そんなヒーローやヒロインは学年や学校の人気者でもある

私はそんなヒーローやヒロインを眺めながら友達と「凄いね」等と話していたものである

運動神経のいいヒーローやヒロインは文化祭のミスターコンテストやミスコンテストに選ばれやすいものである

私は特に贔屓にしている男子や女子がいなかったので、友達と誰に入れようか悩み無難なヒーローやヒロインに一票を入れたものであった


中学も三年になると進学の話題で持ち切りである

私は私が無難に入れるような学校を選んだ

私達四人の中で一人は成績の良い子がいたのでその子は家族とも相談して進学校に決めていた

四人の中であまり成績が良くない子はその子が入れるギリギリのラインの高校を選んでいた

私ともう一人は同じような成績だったので同じ学校に入れるといいねと話し合っていたものだが、通学や家族との相談で別々の高校になってしまった


高校受験が終わり、皆それぞれの志望校に無事入学出来、別々になる悲しみを吹き飛ばすようにカラオケやボーリングに行った

中学生の卒業旅行なんてそんなものである

旅行とも言えないレジャーを楽しみ、四人はそれぞれの道を進んだ


成績で選んだといっても三人はそれぞれ将来の夢に近付ける道を選んだ

私は将来なりたいものもなく自分が無難に入れる高校を選んだだけだった

そんな中で高校生活は始まった


高校に入学してから四月たまたま隣の席の女子が教科書を忘れて一緒に見せてと言ってきた

それが縁でよく話しをする仲になった

小学校はどこだとか、中学校はどこだとか最初はそんな話題だった

そのうち移動教室も一緒に行く仲になった

その子はその子の同じ中学からの友達が何人かいた

その子を通して何となく友達になった

そして部活の話しになった


「部活何部に入るか決めた?」


運動は得意ではない。しかしこれといった趣味もない


「私は水泳部に入る」


「私はテニス部かな?」


「私はバレー部」


三人は次々と決めていく。私は悩んだ


「私は・・・とりあえず帰宅部」


私は部活をしないという選択肢をとった


「ちょっとバイトとか興味あって帰宅部でいいかな?って」


愛想笑いをしながら三人とまた軽い談笑をした

何故だか少しだけ寂しさを感じた

そんな学校生活を二年間過ごした


終業式も終わりそれぞれの部活へ向かって行った

私は皆を見送った後一人家路に向かった

何気なく帰路途中の公園に寄る

公園のベンチに腰掛ける

ぼんやりと公園の子供達を眺める

ふと切なさがこみ上げてきた


『本当に私、何してるんだろう・・・』


何の取り柄も無い、やりたい事も見つからない、そんな自分が情けなくて悔しくて泣きそうになるのを堪えて私は立ち上がり公園を去った


俯きながら帰路につく

歩道橋に差し掛かって不意に景色を見渡した

何も無いモノクロの世界


私は何者何だろう・・・



「捨てちゃうの?」




声のする方に振り向くと爽やかな青年が立っている

気が付くと手には冷たい歩道橋の手摺りの感覚がある


「その命捨てちゃうの?」


「えっと・・・」


「捨てちゃうなら僕に頂戴♪」


「えっと・・・捨てるつもりは無いんですけど・・・」


「そうなの?飛び降りそうだったから捨てちゃうのかと思ったよ」


「飛び降りるつもりはなかったです。ただ体が勝手に動いちゃったみたいで・・・」

「助けてくれてありがとうございます」


「いえいえ、どういたしまして♪僕は如月聖(きさらぎひじり)。君は?」


睦月優希(むつきゆうき)です」


「優希ちゃんか。優希ちゃん良かったら僕について来ない?」


「え?ナンパですか?」


「うん、ナンパ。優希ちゃん可愛いからナンパしちゃいます」


「仮にいいと言ったら何するんですか?」


「いいとこに連れて行ってあげるよ」


「いいとこ?」


「うん、いいとこ♪」


「・・・分かりました。連れて行って下さい」


この時は少しやけになっていた

知らない人について行って刺激が欲しかった

いざとなったら逃げればいいや

それくらいに考えてた


聖と名乗った青年は私のペースに合わせてくれながらいつもの公園の反対側の方に向かって行く

並木道を抜けるとオシャレな街に出た

街を聖さんの誘導で歩いて行く

オシャレな街並みは少し新鮮な空気をくれた


「少し休もうか」


聖さんが街並みに似合うオシャレなカフェに案内してくれた

ウッドベースで温もりを感じる綺麗なカフェだ

店員さんの案内で席に着きメニューを見せて貰った

珍しく紅茶が充実しているカフェだ

紅茶が充実しているがコーヒーも充実している

メニューを見るのが楽しい


「優希ちゃん何飲む?」


「えっと・・・じゃあベルガモットで」


「OK!すみません、ベルガモットとアッサムを下さい」


「飲み方は如何なさいますか?」


「優希ちゃんどんな飲み方がいい?」


「えっと・・・ストレートで」


「OK!ベルガモットはストレートでアッサムはミルクティーで」


「優希ちゃん、ストレートなら何か甘い物も頼む?」


「え?いいんですか?でも私持ち合わせないし・・・」


「何言ってるの!僕が誘ったんだし僕は男だし社会人だよ。僕の奢りに決まってるじゃない」


「いいんですか?」


「もちろん!」


「じゃあミルフィーユを」


「OK!すみませんミルフィーユとフルーツタルトも下さい」


「かしこまりました。少々お待ち下さい」


店員さんが去った後、聖さんは改まって私を見た


「改めまして、如月聖です」


そう言って名刺を渡された


【Propreオーナー 如月聖 住所 電話番号】


シンプルだけど洗練された文字が印刷された名刺だ


「オーナーなんですか?」


「そうだよ♪」


ニコっと笑って聖さんは答えた

やっぱり爽やかだ


「若そうに見えるけどオーナーって凄いですね」


「そう?僕幾つに見える?」


「25歳とか・・・」


「残念(笑)29歳だよ」


「それでも若いですよね、オーナーって」


「そうかな?ありがとう、若いって行ってくれて」


そんなやり取りをしてる間に注文した紅茶とケーキがきた


「ありがとう」


店員さんにスマートにお礼を言う

大人だなぁと思った


「ここね、紅茶の種類豊富でしょ?中々ないよね紅茶が豊富なカフェって」


「そうですね」


「ほらカフェってコーヒーばっかでしょ?だからこういうお店って貴重って言うか僕は贔屓にしてるんだよね」


「オシャレですもんね。聖さんの雰囲気にも合ってると思います」


「本当に?ありがとう」

「紅茶好き?」


「あ、はい、紅茶好きです。でも高くて茶葉は買えないのでティーパックですけど・・・」


「そうなんだ?じゃあたまにここに連れてきてあげるよ」


「え?」


「あ、嫌だった?」


「いえ、嬉しいです。ありがとうございます」


「よかった♪またデート出来るね」


また笑った

爽やかな人だな

それにデートへの誘い方がスマートだ

慣れてるんだろうな

大人だなぁ

そんな事を考えながらケーキを食べた

柔らかいミルフィーユの口どけが優しかった

ケーキを食べ終わる頃に聖さんが改まって私を見た


「優希ちゃん、カットモデルとかって興味ある?」


「カットモデルですか?」


「そう。タダでカットする代わりに練習に付き合って貰う感じ」


「オーナーなのに練習が必要なんですか?」


「僕の練習ではないんだ。ただ僕が頼みたいのは練習のカットモデルじゃなくてSHOWのカットモデルを探してるんだ」


「SHOW・・・ですか?」


「そう、SHOW。美容師のコンテストみたいなのがあってね、そこでカットの腕を競うんだ。そのモデルを探していたんだ」


「私無理です。全然オシャレじゃないし髪の毛ボサボサだし」


「そんなの関係ない。ビックリするくらいに美人にしてあげるよ」


「・・・」


「とりあえずさ、着いて来て貰ってもいいかな?」


「・・・はい」


紅茶を飲んでカフェを出る

本当に全部奢ってくれた

カフェを出るとオシャレな裏道へと進んだ


「ここが僕の店だよ」


案内された店はモノトーンのシンプルなカッコいいオシャレな美容室だった

所々に飾られてる観葉植物がオシャレな雰囲気を一層引き立てている


「今日は定休日なんだ。だから誰もいないしお客様も入ってこないよ」

「ここに座って」


そう言うと聖さんは一つの席に案内した

案内された椅子に座るとケープを掛けてくれた


「髪触るね」


そう言って聖さんは丁寧にブローをしてくれた

いつも剛毛で言う事を聞かない髪の毛が丁寧にブローされてサラサラで艶のある髪になっていく


「魔法みたい・・・」


思わず呟いてしまった


「魔法みたいでしょ。女の子は皆魔法が使えるんだよ。魔法を使って綺麗になるの。それって素敵だよね」


聖さんは私の髪の毛をブローし終わると満足気に話してる

【魔法が使える】

大袈裟に聞こえるけど今の私はその言葉を信じてしまった

だって鏡にはいつも剛毛で艶のない髪の毛がサラサラでツヤツヤしているのだ


「少しだけ切ってもいい?」


私が頷くと聖さんは前髪と後ろを少し切った

いつも前髪で隠してた顔が見える

自分の顔があまり好きじゃない私は少し恥ずかしかった


「顔あまり好きじゃない?」


まるで心を見透かされているように私の思った事を当てた


「大丈夫。自信を持って。隠すと勿体ないよ」


聖さんが私の肩に手を置き鏡越しに話し掛ける

聖さんに言われると不思議と嫌な気持ちはしない

嫌いだった自分の顔も嫌いではないのかもしれないと思い始めた


「お姫様、どうぞ」


細かい毛を取りケープを外すと聖さんは手を差し伸べた

恥ずかしいセリフを自然に言う

それが鼻につかない

寧ろ凄く似合っている

まるでおとぎ話の王子様みたいな人だと思った


「ありがとうございます」


気恥しくて照れながら手を置くと聖さんがエスコートしてくれた

どこまでも爽やかで紳士的な人だ


「じゃあ今日のデートは終わろっか」

「もう六時だし暗くなると危ないから今日は終わろう」

「その代わりまたデートしてね」


「はい・・・」


「暗いと危ないから途中まででも送って行くよ」


「そんな、悪いですよ」


「女の子を一人で帰らせるわけにはいかないよ」


「あの歩道橋の近くかな?」


「はい、そこから少し登り坂の並木道を抜けたところです」


「じゃあそこまで送るよ」


「ちょっとここで待ってね」



そう言うと聖さんは私を受付の横にあるソファーへ案内し片付けを始めた

店を出て戸締りをしたら帰路についた

並木道を抜けたところで聖さんにお礼を言ってわかれた

ふと空を見上げると夕焼けが赤く染まりその向こうから紫、黒と夜がやって来た


「ただいま」


誰もいない家に私の声だけが響いた

優希は昔の自分を少しだけ反映してます

ナチュラルに自殺しそうなところとか何も無い空っぽなところとか

聖は著者の初恋の人をモデルにしていますが、初恋の人はカメラマンで美容師全く関係ないです(笑)

優希と聖は不思議な距離感を保ちつつ、いい関係になればと思いながら書きました

最後までお読み下さりありがとうございました

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