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あの子の隣のやべー女子(やつ)【読み切り版】

作者: 白石あみの

〜回想・1年前の3月、小学校の卒業式が終わった時にて〜

「菜央人君… やっぱり寂しい…」

「大丈夫だって。早桜里ちゃんも同じ中学校行くんでしょ?… でも確かに… 寂しいけど…」

「うん…」

〜回想終わり〜


俺の名前は望月菜央人。富司(ふじ)第二中学校に通う中学2年生だ… と言っても2年生に上がってからは、まだ1週間も経っていない。


俺には仲の良かった下級生がいる。彼女の名前は「田中早桜里(さおり)」。小2の頃に縦割りの交流イベントで知り合ってからの仲だ。自慢じゃないけど、お互いを「早桜里ちゃん」「菜央人君」と呼ぶほどの仲だ。

家が小学校からお互い正反対の方向にあることや、当時早桜里ちゃんがケータイを持っていなかったのもあって小学校を卒業してからはなかなか会えなかったけど、入学式から2日が過ぎた今日、久しぶりにこうして会える。俺はそれを楽しみに、1年1組の下駄箱に近い昇降口の外で一人、早桜里ちゃんが来るのを待っていた。


(おっ!)

1年1組の下駄箱に1人来た。帰りの会が終わったのだろう。

(とすればもうじきだな)

と思う俺。そしてそれから5分、いや3分も経たない間に…


「あ!」

俺を見つけた女子が一人。それに気づいた俺は、その女子に向かって手を振る。

その女子こそ早桜里ちゃんだ。


「菜央人君久しぶり〜!」

早桜里ちゃんは本当に嬉しそうな表情をしていた。直接会って話すのは去年の夏祭りの時以来。俺も早桜里ちゃんとこうしてまた学校で会えると、本当に嬉しいし安心する。


こうして直接2人で会っておしゃべりできるのはおよそ1年ぶり。先生のこととか、いろんな話題が飛び出す。

「―明日から部活体験期間なわけだけど、早桜里ちゃん部活はどこに入るの?俺はクイズ研究部に入ったんだけどさ。」

「とりあえずeスポーツ部に入ろうかなって思ってる。友達に誘われたんだ。」

「友達って、ここで出会った?」

「うん。」

この中学校にはたくさんの部活動がある。しかも今はeスポーツ部とか兄貴が中学の頃には無かったものもある。早桜里ちゃんは中学校で新しくできた友達から誘われて、そのeスポーツ部に入ろうと思っているという。


こうして、早桜里ちゃんといろいろ話していると…


「ちょっと!?あなたどちら様ですか?何私の友達と話してるんですか!?」

1組の下駄箱の方から女子が一人俺たちのところに駆け寄ってきた。彼女は俺のことを非常に警戒している。まだ部活がはじまったわけでもないのに、自分の友達が見ず知らずの男子の先輩と話している。この構図は傍からみればナンパされているのかもしれないと思う人もいることだろう。無理もないかなと俺は思っていた。


「あ、郁央奈(いおな)。」

「早桜里大丈夫?この人、早桜里の知ってる人?」

「うん。」


「ごめんね。変な誤解させちゃったかな?俺は『望月菜央人』。田中さんとは小学校の頃から仲が良いんだ。」

「そうなんですか。私は『矢島郁央奈』です。」

「実は… さっき言ったeスポーツ部に誘ってくれた友達、郁央奈のことなんだ。」

矢島さんという名前であることが分かったもう一人の女子。一言で言うなら生意気なお嬢様っぽい感じの人だ。しかも彼女こそが、早桜里ちゃんをeスポーツ部に誘ってくれた友達だった。

俺はこれ以上怪しまれないようにするため呼び方を「早桜里ちゃん」から「田中さん」に一時的に変えつつも、矢島さんに自分と早桜里ちゃんが小学校の頃から仲が良いということを簡単に説明した。矢島さんはそれを理解はした様子だが、まだ俺のことを警戒しているようだ。


「矢島さん。もしかして今日、一緒に帰る予定だったとか…?」

「はい。」

「そうだったんだ… なんか…ごめん…」

早桜里ちゃんは今日矢島さんと一緒に帰る予定だったことが分かった。それを取ってしまう構図になってしまった俺は、矢島さんに申し訳ない気持ちになっていた。

その場に、やや重い空気が流れる。


でもその空気を打ち破ったのは早桜里ちゃんだった。

「せっかくだから、3人で一緒に帰ったらどうかな?郁央奈、途中まで一緒でしょ?」

「早桜里が言うなら… いいよ。」


矢島さんも途中まで一緒だから3人で一緒に帰るという提案。早桜里ちゃんの提案だからか、矢島さんも納得してくれた。


ひょんなことから、俺は後輩の女子2人と一緒に帰ることになった。片や小学校時代からの友達、片やもう一人は向こうからやってきてなおかつ俺のことを警戒している初対面の人。

俺は自分の身の置き場所が分からなかった。とりあえず、矢島さんと別れるまでは「早桜里ちゃん」ではなく「田中さん」と呼ぼうと、俺は思っていた。


帰り道で俺は、早桜里ちゃんと矢島さんのおしゃべりをただ聞くだけに徹していた。

その中で2人が怖そうな先生や優しそうな先生について話している最中、早桜里ちゃんが俺の方を向いた。

「どうしたの?」

「望月先輩、去年数学がその先生だったよね。」

「うん。そうだけど…」

早桜里ちゃんが、優しそうだと噂されている男の数学の先生のことについて聞いてきた。その先生は早桜里ちゃんが言った通り、去年のクラスの数学担当だったから自分も知っている。

でも俺はそのことよりも、早桜里ちゃんが俺のことを「望月先輩」と呼んだことの方が気になった。

(俺が矢島さんにさらに警戒されることのないように、俺のことをわざわざ『望月先輩』と呼んだのだろう。考えていることが俺と同じようで安心したけど、かえって気を使わせちゃったかな。)

と、俺は思っていた。


「実際その先生どうですか?」

「ああ。テストの採点は厳しいのを除けば優しい先生だよ。ノリもいいし。」

「ありがとうございます(笑顔)」

「ああ。その先生2年生は担当しないのが、こっちも残念だよ。」


次第に俺も口を開く機会が増えている。矢島さんも俺に対する警戒が薄れている感じがした。

(矢島さんも、本当はそんな性格キツい人じゃないのかな。)

なんてことを俺は思っていた。


「先輩、eスポーツ部について何か知ってることありますか?」

ということを聞いてきた矢島さん。

「うーん。多分2人も知っている可能性あるしれないけど、部員は女子ばっかりだね… 同じクラスの森ってやつがeスポーツ部だから、明日そいつに聞いてみればいいよ。」

「女子しかいないんですか。ちょっと安心しました。ありがとうございます。」

矢島さんは、ちょっと嬉しそうな表情をしていた。俺に食って掛かるような感じだったさっきとは大違いだ。

「おうよ。男子はみんなゲーム研究会の方に流れちゃってるみたい。」

早桜里「森先輩ですね。分かりました。」

「うん。」


そうこうしている間に、通り慣れた100円ショップが見えてきた。

「じゃあね早桜里。先輩もそっちなんですか?」

矢島さんは100円ショップそばの信号で早桜里ちゃんと別れるのだという。

「うん。俺と早桜里ちゃん、同じ方向なんだ…」

と言った俺。

しかしその直後、この場に微妙な空気が流れる。


俺がその事態に気づいたのは、少し経ってからだった。

「先輩今、何て言いました?」

と聞いてきた矢島さん。

俺はその時に気づいた。俺は矢島さんの前で早桜里ちゃんのことを「田中さん」ではなく「早桜里ちゃん」と呼んでしまったことを。


俺に対する警戒がすっかり解けた様子の俺は完全に油断していた。

「あ… ああ…」

早桜里ちゃんも何とも言えない状況に苦笑いしていた。

「小学校の頃からの仲だからさ… いつもそう呼んでるんだ…」

と、俺は矢島さんに説明した。


矢島さんは

「別にいいんですよ。仲良いなら。」

と、気にしていない様子だった。

その間俺は

(やっちまった…)

と俺は思っていた。


「さようなら。早桜里。先輩。」

「じゃあね郁央奈。」


矢島さんと別れた俺たち。その後、

「大丈夫?菜央人君…?」

早桜里ちゃんが、なんだか心配そうな様子で俺に話しかけてきた。

「ごめん… 変に気使わせちゃって…」

「いいって。矢島さん、分かってくれてたみたいだし…」


しかしその2日後の朝だった。

8時10分頃。いつものように下駄箱に行く俺。

「おはようございます。」


俺にあいさつをしてきた人。なんとそれは矢島さんだった。何か言いたげな顔をしている。


「どうしたの?」

「先輩。」

「?」

「…」

矢島さんが口を開いたのは、

「早桜里のこと、『早桜里ちゃん』って呼んでましたよね。」

「ああ… そうだけど…」

「もしかして、早桜里と…」


矢島さんは、それに続けるように両手の指で…


ハートマークを作ってきた。


俺はそれにビクッとしてしまった。


「こういうことですか?」

「い… いや別に… そういうわけじゃないんだけど…」

「そうですか〜?なんか今ビクッってしてましたけど!」


確かに俺は今ビクッとしていた。だがそれは実は早桜里ちゃんのことが好きだからというのがバレたからというわけではない。自分が想定していなかったことを言われてびっくりしたからだ。


「小学生の頃から仲良しでタメなのはいいとしますよ。でも中学に上がってからも『ちゃん』付けってwww 呼び捨てなら分かるけど『ちゃん』付けとか好きなんですか早桜里のこと〜!」


矢島さんは、俺のことを完全にからかっていた。

早桜里ちゃん、つまり下級生の女子と仲の良いことについて、小学校の頃にはよく同級生にからかわれたことはよくあった。

でも、昨日初めて会った女子の後輩にからかわれたのは、これが初めてだ。


「私いるからって変に気を使っちゃって~!先輩、あの時完全に油断してましたよね?」

昨日のあの感じが嘘のようだ。自分が明らかに追い込まれている感じがする。

「あ… ああ… あの時… 確かに油断はしてたよ…」

「やっぱり〜www」


「早桜里と本当ラブラブでいいですね~。」

声の大きさは明らかに、周りにいる人たちにも聞かせるようだった。

「やめてくれよ… 人いるんだよ…!」

「こんだけキョドっちゃってて〜!やっぱり早桜里のこと好きなんですよね先輩www!」


矢島さんは追い討ちをかけるように、さらに俺にこう続けた。

「昨日のeスポーツ部の部活体験の時、早桜里がトイレ行ってるタイミングでこのこと話したら、部活の先輩みんな口を揃えて『絶対田中さんのこと好きだ』って言ってましたwww」


eスポーツ部の人たちにも俺と早桜里ちゃんのことを喋った矢島さん。俺はその一言に軽く戦慄した。


「ああでも大丈夫ですよ。名前は出してないので。」

「そういう問題じゃないだろとも言いたいけどそれはよかった… でも…」


幸い名前は出していなかったことに俺は安心した。しかし、もう一つの不安要素はある。


それは、eスポーツ部には同じクラスの女子の森もいるということだ。

「そこに森いた?」

「森先輩ですよね。いましたよ。」

「嘘だろ…」


名前まではまだ知らないとはいえ、森、つまり同じクラスの奴にまでバレたという事実に、俺は絶望を覚えた。


「安心してください。さっきも言いましたが名前は出してないので。」

「そういう問題じゃねえよ矢島さん…」


矢島さんは満面の笑みだった。俺には悪意に満ちたものも感じていたが。


朝の昇降口。俺は矢島さんの前で一人俯いてしまっていた。


「先輩。先輩?」


もう答える気力もない。こんな経験、生まれて初めてだ。


「心配しないで下さい!先輩と早桜里の恋、応援しますから!」

「だから恋じゃないっての…」

「先輩って… 本当に面白い人ですね!」

矢島さんの声は、俺を完膚なきまでにからかい…いやむしろイジり尽くしている今この状況を、本当に楽しんでいるとしか思えない感じだった。


(矢島さん…マジでやべえやつだ…)

と思った俺は、

「最悪だ…」

と、俺は矢島さんに聞こえるか聞こえないか程度の声で一言呟いていた。


自分は今後矢島さんと早桜里ちゃんの板挟みになるんだ。また早桜里ちゃんと一緒になれるはずだったのに。それを一番楽しみにしていたのに。


自分の想定から大きく外れた中2生活の、始まりだった。


(菜央人のため息)

-登場人物-

望月菜央人

主人公。富司第二中学校に通う中学2年生。クラスは2年3組。部活はクイズ研究部所属。

早桜里とは小学2年生の4月中旬に、1年生と上級生との縦割り遊びイベントで出会ってからの仲。

性格:特に目立った点はないごく普通の性格だが、ノリは良い方。早桜里にしか見せない一面もそれなりにある。ただ考えていることが表情に出たりすることがあり、慌てたりしている時はそれが顕著。

身長:約155cm

誕生日:7月2日

趣味:電車・アニメ・漫画

特技:卓球

好きな食べ物:カレー・寿司・サルタナレーズン

苦手なもの:圧が強い人・理系全般

一人称:俺・僕

家族構成:父・母・姉・兄・弟。生まれた順番は姉→兄→菜央人→弟。

トピックス:母親は早桜里の母とも仲が良い。


田中早桜里

ヒロイン。富司第二中学校に入学した中学1年生。クラスは1年1組。

性格:穏和で明るい。その他は中1女子の至って平均的な性格。ノリはいい方。

身長:約148cm

誕生日:10月25日

趣味:ゲーム・少女漫画雑誌鑑賞・特撮ヒーロー

特技:タイピング・ダンス

好きな食べ物:スイートポテト

苦手なもの:難しい計算・虫(カブトムシのような大きさのものなら大丈夫)・お化け屋敷

一人称:私

家族構成:父・母・弟

トピックス:通っている塾ではファンクラブもあるという。


矢島郁央奈

もう一人のヒロイン。早桜里とともに富司第二中学校に入学した中学1年生。クラスは同じ。

早桜里とは入学式終わりの教室で、たまたま早桜里に話しかけたことがきっかけで意気投合した。

性格:積極的だが、やや圧があるお嬢様みたいな性格。でも根は優しい。ノリはいい方。正義感がある一面もある。

身長:約151cm

誕生日:4月7日

趣味:男性アイドル・ドラマ・面白いと感じた人をからかうこと(集団でからかったり身体的特徴を揶揄することはしないなど、いじめにはならないよう常に自制している)

特技:ダンス・皿洗い・人間観察

好きな食べ物:ハンバーガー・サンドイッチ・ドライフルーツ

苦手なもの:風船の破裂音

一人称:私・うち

家族構成:父・母・祖母

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