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保安隊海へ行く 29

「じゃあこれを図書館に運びましょう!」 

 昼食を終えたアイシャが一同に声をかけてつれてきたのは駐車場の中型トラックの荷台だった。

「図書館?」 

 誠は嫌な予感がしてそのまま振り返った。

「逃げちゃ駄目じゃないの、誠ちゃん!あの部屋、この寮の欲望の詰まった神聖な隠し部屋よ!」 

「あそこですか……」 

 あきらめた誠が頭を掻く。西はそわそわしながらレベッカを見つめた。

「クラウゼ少佐。図書館や欲望って言われてもぴんとこないんだけどな」 

 ロナルドが手を上げてそう言った。隣で岡部とフェデロが頷く。

「それはね!これよ!」 

 そう言ってダンボールの中から一冊のサッシを取り出してロナルドに渡すアイシャ。ロナルドはそれを気も無く取り上げた次の瞬間、呆れたような表情でアイシャを見つめた。

「わかったんですが……こんなの堂々と見せるのは女性としては品格を欠くような気がするような……」 

「そういう事言う?まるでアタシが変態みたいじゃないの」 

「いや、みたいなんじゃなくて変態そのものなんだがな」 

 後ろから茶々を入れる要。アイシャは腕を組んでその態度の大きなサイボーグをにらみつける。

「酷いこと言うわね、要ちゃん。あなたに私が分けてあげた雑誌の一覧、誠ちゃんに見せてあげても良いんだけどなあ」 

「いえ!少佐殿はすばらしいです!さあ!みんな仕事にかかろうじゃないか!」 

 要のわざとらしい豹変に白い目を向けるサラとパーラ。とりあえずと言うことで、岡部、誠、フェデロ、西。彼等がダンボールを抱えて寮に向かった。

「そう言えば棚とかまだ置いてないですよ」 

 一際重いダンボールを持たされた誠。中身が雑誌の類だろうということはその重さから想像がついた。

「ああ、それね。今度もまたキムとエダに頼んどいたのよ」 

「あいつ等も良い様に使われてるなあ」 

 誠の横を歩く要はがしゃがしゃと音がする箱を抱えている。そしてその反対側には対抗するようにカウラがこれも軽そうなダンボールをもって誠に寄り添って歩いている。

「これは私から寮に暮らす人々の生活を豊かにしようと言う提言を含めた寄付だから。要ちゃんもカウラちゃんも見てもかまわないわよ」 

「私は遠慮する」 

 即答したのはカウラだった。それをみてざまあみろと言うように舌を出す要。

「オメエの趣味だからなあ。どうせ変態御用達の展開なんだろ?」 

「暑いわねえ、後ちょっとで秋になると言うのに」 

「ごまかすんじゃねえ!」 

 要が話を濁そうとしたアイシャに突っ込みを入れる。そんな二人を見て噴出した西に要が蹴りを入れた。

「階段よ!気をつけてね」 

 すっかり仕切りだしたアイシャに愚痴りながら誠達は寮に入った。

「はい!そこでいったん荷物を置いて……」 

「子供じゃないんですから」 

 手早く靴を脱ぐ岡部。赤い顔をしたレベッカが、西の置いたダンボールを見つめている。

「二階まで持って行ったあとどうするんですか?まだ棚が届かないでしょ?」 

「仕方ないわね。まあそのまま読書会に突入と言うのも……」 

「こう言うものは一人で読むものじゃねえのか?」 

 そう言った要にアイシャが生暖かい視線を送る。その瞬間アイシャの顔に歓喜の表情が浮かぶ。自分の言葉に気づいてうろたえる要。

「その、あれだ。恥ずかしいだろ?」 

「何が?別に何も私は言ってないんだけど」 

 アイシャは明らかに勝ったと宣言したいようないい笑顔を浮かべる。

「いい、お前に聞いたアタシが間抜けだった」 

 そう言うと誠の持っていたダンボールを持ち上げて、小走りで階段へと急ぐ要。

「レベッカちゃん。もし好きなのが見つかったら借りて行ってもいいのよ」 

 アイシャのその言葉に首を振るレベッカ。

「しかし、気前が良いな。何のつもりだ?」 

 カウラが不思議そうにアイシャを見つめる。 

「これが布教活動と言うものよ!」 

 胸を張るアイシャに頭を抱えるサラとパーラ。嫌な予感がして誠はとりあえず要を追って二階に上がる。二階の空き部屋の前には要が座っていた。

「西園寺さん」 

 声をかけると後ろに何かを隠す要がいた。

「脅かすんじゃねえよ」 

 引きつった笑みを浮かべる要。誠はとりあえず察してそのまま廊下を走り階段を降りた。

「西園寺は何をしている?」 

「さあ何でしょうねえ」 

 先頭を切って上がってくるカウラにわざとらしい大声で答える誠。再び二階の空き部屋の前には要が暇そうに立っていた。

「要ちゃん早いわね」 

 アイシャの視線はまだ生暖かい。それが気になるようで、要は壁を蹴飛ばした。

「そんなことしたら壊れちゃうわよ」 

 サラがすばやく要の蹴った壁を確かめる。不機嫌な要を見てご満悦なアイシャ。

「じゃあとりあえずこの部屋に置きましょう」 

 そう言うと図書館の手前の空き部屋の鍵を開けるアイシャ。

「いつの間に島田から借り出したんだ?」 

「いえね、以前サラが正人君にスペアーもらったのをコピーしたのよ」 

 そう言うと扉を開く。誠は不機嫌そうな要からダンボールを取り上げると、そのまま部屋に運び込んだ。次々とダンボールが積み上げられ、あっという間に部屋の半分が埋め尽くされていく。

「ずいぶんな量だな」 

「スミス大尉。これでもかなり減らした方なんですよ」 

 ロナルドにパーラが耳打ちする。

「今日はこれでおしまいなわけね」 

 アイシャはそう言うと寮の住人のコレクションに手を伸ばす。

「好きだねえ、オメエは」 

 手にした漫画の表紙の過激な格好を見て呆れたように要が呟いた。 

「何?いけないの?」

「オメエの趣味だ、あれこれ言うつもりはねえよ」 

 開き直るアイシャにそう言うと要はタバコを取り出して部屋を出て行く。一つだけ、先ほどまで要が抱えていたダンボールから縄で縛られた少女の絵が覗いている。

「やっぱりこう言う趣味なのね」 

 そう言うとアイシャはその漫画を取り上げた。

「なんですか?それは」 

 岡部の声が裏返る。

「百合&調教もの。まさに要にぴったりじゃないの」 

 ぱらぱらとページをめくるアイシャ。

「だが、それを買ったのは貴様だろ?」 

 カウラはそう言うと、そのページを覗き込んでいる誠とフェデロを一瞥した後、部屋から出て行った。

「すまんが西、これでコーヒーでも買ってきてくれ」 

 食堂についたカウラが西に一万円札を渡す。

「ああ、俺も出しますよ」 

 そう言ってロナルドがポケットに手を伸ばすのをカウラは視線で制した。

「アイシャが出すのが良いんだけど、あの娘、漫画とか読み始めると止まらなくなっちゃうから」 

 パーラがロナルド達に微笑みかける。

「しかし、本当に変わった人が多いですよねえ」 

 ロナルドの言葉に顔を見合わせるサラとパーラ。西は敬礼してそのまま近くのコンビニへと走る。

「でも良い人が多くて良かったです」

「そいつはどうかねえ」

 レベッカはそう言うと恥ずかしそうに視線を落とした。要はそんな彼女を見て笑顔を浮かべながら意味ありげに笑う。ぞろぞろとアイシャのトークショーから逃げ出した要達は食堂に向かう。薄ら笑いを浮かべる要が食堂に入りどっかりと中央のテーブルの真ん中の椅子に座る。誠もいつも通り意識せずにその隣の席を取る。反対側に座ったカウラがいつものように冷たい視線を送るが、まるで気にする様子は無い。

「しかし、神前君は良い上司に恵まれてるな」 

 ロナルドは気を利かせたレベッカからぬるい番茶の入った湯飲みを受け取るとそれを口に含んだ。

「そうかねえ、俺にはそうは思えないけどな」 

 フェデロの一言で、要とカウラの視線が彼に向かう。助けを求めるようにレベッカを見るフェデロだが、レベッカはもじもじしながら下を向いてしまった。

「余計なことは言わない方が良いな。お前も岡部もアサルト・モジュールでの本格的な実戦を経験したことは無いんだ。それに対し神前君は撃墜スコアー7機。立派なエースだ」 

「なんだよ、海軍の精鋭と聞いていたわりにはただのひよっこじゃねえか」 

 挑発的な視線を送る要だが、岡部もフェデロもそれに食いつく様子は見せない。さすがに要のわかりやすい性格が読めてきたのだろうと思って誠は苦笑いを浮かべた。ロナルドは言葉を続ける。

「我々と西園寺大尉では保安隊に所属する意味はまるっきり違う。そう遠くない時期にベルルカン大陸に保安隊の旗を持って派遣される可能性もあるだろうからな」 

 ロナルドのその言葉に場の空気は固まった。

「そうか、あそこは遼州のアキレス腱だからな。小隊一つ送るにしても、微妙なパワーバランスや政治的配慮やらでお偉いさんも及び腰になっているのが実情だ。まああそこに利権を持つロシアやフランス辺りの面子を潰さずにアメちゃんの兵隊を送り込む方法としては、そう言う発想はありなんじゃないかな」 

 一人その空気を読めていた要の言葉、ロナルドは静かに頷いた。

「例えば先月誕生したスラベニア文民政権の正当性をめぐって遼州同盟は苛立っている。占拠と言うがベルルカン大陸らしい妨害や選挙データの改ざんが噂されている。さらに後ろにあからさまに地球の大国の影がちらついているからな。再来月の出直し選挙がどういう形で行われるかであの大陸の運命が決まるかも知れない」 

 ロナルドはそう言いながら一同を見回した。

「まあ、第一小隊は同盟加盟国の法術武装組織の教導任務で手が離せない。アタシ等は目立ちすぎて動けない。そうなるとどこかからそれなりの腕前の奴を引っ張ってくるしかない。そこに遼州での存在をアピールしたかったアメリカ海軍が目をつけたって事だな」 

 要のその言葉を否定も肯定もせず、ロナルドはただ笑みを浮かべるだけだった。

「まあ、そう言うことにしておきましょう」 

 不敵な笑みを浮かべるロナルド。まあ良いとでも言うように要は自分の頭を軽く叩いた。

「買ってきましたよ!」 

 勢い良くコンビニ袋を抱えた西が駆け込んできた。 

「カウラはメロンソーダだろ?」 

 そう言うと要はすばやく西から袋を奪って、その中の緑の缶を手にするとカウラに手渡した。

「なんかイメージ通りですね」 

 岡部がコーヒーを探し当てながらカウラを見つめている。

「ああ、コイツの髪の色はメロンソーダの合成色素から来ているからな」 

「西園寺、あからさまな嘘はつくな」 

 プルタブを開けながら緑の髪をかきあげるカウラ。

「神前曹長。君はコーラで良いか」 

 手にしたコーラを誠に押し付ける岡部。苦笑いを浮かべる誠を見ながら自分の飲みたいものを探すフェデロ。

「ああ、ごめんね。マルケス中尉。アイシャはこういう時はココアなのよ」 

 ココアに手を伸ばしたフェデロを制止するサラ。

「あの、私が持っていきましょうか?」 

 そう言ったのはジンジャエールを手にしたレベッカだった。

「おう、頼めるか?」 

 要の言葉に西と目を合わせているレベッカ。

「じゃあ僕も行きます」 

 そう言うと西とレベッカが食堂を出て行った。二人は昨日と同じく楽しげな笑みを浮かべながら食堂を出て行った。

「あれだな、西の奴。そのうち誰かにシメられるぜ」 

「まあ、菰田君達は手を出さないでしょうけど」 

 パーラはサイダーを飲みながらカウラを見つめる。心外だというようにメロンソーダを飲んでいるカウラの視線が厳しさを増す。

「菰田はツルペッタンマニアだが、嫉妬深さも一流だぜ」 

 面白いネタを見つけた要は満足そうに紅茶を飲んでいた。

 誠がコーラを飲みながら食堂の窓をなんとなく見つめた。晩夏の日差しが次第に色を朱に変えつつあった。

「それじゃあ俺達は失礼するかな」 

 ロナルドが立ち上がるのにあわせて、岡部とフェデロが缶を置く。

「そば、ありがとね」 

 パーラの声に軽く手を上げて答えるフェデロ。

「ああ、上の眼鏡っ娘も連れて帰れよ」 

「ああ、そう言えばいたんだな。岡部、とりあえず呼んできてくれ」 

 ロナルドの言葉に、岡部は小走りに食堂を出て行く。

「まあいろいろ思うところはあるかもしれないが、よろしく頼む」 

「そう言うこと」 

 ロナルドはそのまま去り、フェデロが手を振る。サラは愛想笑いを浮かべながら答えた。

「ああ、疲れたねえ。でも飯まで時間が有るよな」 

「あのー今日は僕が食事当番なんですけど」 

「それがどうした?」 

 要が誠の顔をまじまじと見つめる。

「島田先輩から西園寺さん達に手伝ってもらえって言われたんですけど」 

 要が露骨に嫌そうな顔を向けてくる。

「なら仕方ないな。西園寺、アイシャを連れて来い」 

「食事当番ねえ」 

 そう言いながら要が食堂を出て行った。

「私達も手伝おうか?」 

 パーラの申し出に首を振るカウラ。

「とりあえず夜はカレーだそうです。それに整備班は今日は徹夜だそうですから、人数は20人前くらいで良いらしいですよ」 

「20人前か。大丈夫なのか?」 

 不安そうに誠の顔を覗き込むカウラ。

「やっぱり私達手伝うわね。誠君、材料は買ってあるの?」 

 要とカウラは料理を期待するのは無理。そしてアイシャについては自分がよく知っている。そのせいだろうか諦めて立ち上がるパーラ。

「一番奥の冷蔵庫にそろっているはずですよ」 

 誠はそう言うとそのままカウラとパーラ、それにサラをつれて厨房に入った。誠が食堂の方を振り返るとあからさまに嫌な顔をしているアイシャがいた。

「何よ、食事当番ならもっと適当な奴がいるじゃないの」 

 その場の全員が、自称食通ことヨハンを思い出していた。

「アイシャ……その適当な人間が今夜は徹夜なんだ。早くこっちに来てジャガイモの皮を剥け」 

 カウラの言葉にあきらめた調子でそのまま厨房に入ってくるアイシャ。

「要、鍋をかき混ぜるぐらいならできるだろ?」 

「わかったよ、その段取りになったら呼んでくれ」 

 そのままタバコを取り出し喫煙所に向かう要。パーラが取り出した食材をまな板の横で眺めているカウラ。

「ジャガイモ、牛肉、にんじん、たまねぎ」 

「ちゃんと揃えてあるのね」

 感心したようにパーラは誠を見た。 

「本来は買出しなんかも担当するんですが、今日は島田先輩が用意してくれましたから」 

 そう言うと誠はにんじんに手を伸ばした。

「カレーのルーはブロックの奴なのね」 

「ああ、この前まではシン大尉が持ってきてくれた特製ルーが有ったんですが切れちゃいましてね。まあ代用はこれが一番だろうってお勧めのルーを使っているんですよ」 

「ああ、あの人カレーにはこだわるもんね」 

 渋々厨房に入ってきたアイシャはそう言うと皮むき気でジャガイモを剥き始める。パーラは鍋を火にかけ油を敷いた。

「にんにく有る?」 

「にんにく入れるのか?」 

 要は露骨に嫌そうな顔をしていた。

「ああ、そちらの奥の棚にありますよ」 

「サラ、とりあえず二かけくらい剥いてよ」 

 サラは棚からにんにくを取り出すと剥き始める。

「臭くなっちゃうじゃない」 

 ぽつりと呟くサラの隣のカウラが冷静にサラのにんにくを剥く手に目をやった。

「当たり前のことを言うな」 

 再び誠から受け取った慣れない包丁でにんじんを輪切りにするカウラ。その視線が食堂に注がれる。

「要ちゃん!手伝ってよ」 

 喫煙所から帰ってきた要が手持ち無沙汰にしているのを見つけたアイシャ。その言葉を聴いて躊躇する要だったが、誠と目が合うとあきらめたように厨房に入ってきた。

「何すればいいんだ?」 

「ジャガイモ剥いていくから適当な大きさに切ってよ」 

 アイシャに渡されたジャガイモをしばらく眺める要。

「所詮コイツはお姫様だ。下々のすることなど関係が無いんだろ?」 

 挑発的な言葉を発したカウラに一瞥かました後、むきになったように要はジャガイモとの格闘を始めた。

「あまり無茶はしないでね」 

 そう言うとパーラは油を引いた大鍋ににんにくのかけらを放り込んだ。

「誠君、肉とって」 

 手際よく作業を進めるパーラの声にあわせて細切れ肉を手渡す誠。

「良いねえ、アタシはこの時の音と匂いが好きなんだよ」 

 ジャガイモを手で転がしている要。

「要ちゃん、手が止まってるわよ」 

「うるせえ!」 

 アイシャに注意されたのが気に入らないのかそう言うと要はぞんざいにジャガイモを切り始めた。

「西園寺、貴様と言う奴は……」 

「カウラ。それ言ったらおしまいよ」 

 不恰好なジャガイモのかけら。カウラはつい注意する。そしてアイシャが余計なことを言って要ににらみつけられた。

「誠っち!ご飯は?」 

 サラがそう言って巨大な炊飯器の釜に入れた白米を持ってくる。

「ああ、それ僕が研ぎますから」 

 そう言うと誠はサラから釜を受け取って流しにそれを置く。 

「ずいぶんと慣れてるわね」 

「まあ週に一回は回ってきますから。どうって事は無いですよ」 

 そう言いながら器用にコメを研ぐ誠を感心したように見ている要、カウラ、アイシャ。

「じゃあここで水を」 

 パーラはサラに汲ませた水を鍋に注ぎ、コンソメの塊を放り込んだ。

「ジャガイモ、準備終わったぞ」 

「じゃあ今度はにんじんとたまねぎを頼む」 

「おい、カウラ。そのくらいテメエでやれ!」 

「切るのはお前の十八番だろ?」 

「わかったわよ!要ちゃん私がやるから包丁頂戴」 

 仕事の押し付け合いをするカウラと要に呆れたように、要から包丁を奪ったアイシャがまな板の上でにんじんとたまねぎを刻む。

「意外とうまいんですね」 

 確かにアイシャの包丁さばきはカウラや要よりもはるかに手馴れていた。

「そう?時々追い込みの時に夜食とか作るからね」 

「同人誌作りも役に立つ技量が得られるんだな」 

「そうよ、要ちゃん。冬コミの手伝い来てくれる?」 

「誰が!どうせ売り子はアタシ等に押し付けて買いだしツアーに行くくせに」 

 そう言いながら要はアイシャが切り終えた食材をざるに移した。

「いい匂いだな」 

 食堂に来たのは菰田だった。厨房の中を覗き込んで、そこにカウラがいるのを見つけるとすぐさま厨房に入ってくる。

「菰田。テメエ邪魔」 

 近づく彼に鋭く要が言い放った。

「そんな、西園寺さん。別に邪魔はしませんから」 

「ああ、あなたは存在自体が邪魔」 

 そう言うとアイシャは手で菰田を追い払うように動かす。思わず笑いを漏らした誠を、鬼の形相でにらみつける菰田。しかし、相手は要とアイシャである。仕方なく彼はそのまま出て行った。

「あの馬鹿と毎日面を合わせるわけか。こりゃあ誤算だったぜ!」 

 要がカウラを見やる。まな板を洗っていたカウラはいまいちピンと来てない様な顔をした。

「なるほど、もうそんな時間なわけね。誠君、ご飯は」 

「もうセットしましたよ」 

「後は煮えるのを待つだけだね」 

 サラがそう言うと食堂に入ってきた西の姿を捉えた。

「西園寺大尉!」 

 西は慌てていた。呼ばれた要は手を洗い終わると、そのまま厨房をでる。

「慌てんなよ。なんだ?」 

「代引きで荷物が届いてますけど」 

「そうか、ありがとな」 

 そう言って食堂から消える要。

「要ちゃんが代引き?私はよく使うけど」 

「どうせ酒じゃないのか?」 

 カウラはそう言って手にした固形のカレールーを割っている。

「さすがの要さんでもそんな……」 

 言葉を継ぐことを忘れた誠の前に、ウォッカのケースを抱えて入ってくる要の姿があった。

「おい!これがアタシの引っ越し祝いだ」 

 あまりに予想にたがわない要の行動に、カウラと誠は頭を抱えた。

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