おひなさま水上パレード
書いてみました。
それは前日のことだった。
お客様をのせて川下りをしている途中にメールが入った。
いつものように、川下りの終盤でスマホのメールチェック(お客様を降ろした後の指示などを確認する)すると、「明日、水上パレード担当です。よろしくお願いします」というメールが下船後の指示とともに入っていた。
(はあ?)
心の中で思わず憤りの言葉を吐いてしまう。
(いかん、いけない、川下りに全集中だ)
無事、川下りを終わり、乗船場に戻り担当に聞く。
「えっ、俺、水上パレードするの?」
「はい。急遽、変更になりました。お願いします」
「はあ」
一抹の不安と、断れないこの身と、ちょっぴりだけ楽しみな自分がいた。
夕方。
家に帰ると、奥さんと今日は妹さんと姪っ子が泊まりに来ていた。
私はさりげなく、
「明日、水上パレードに参加することになったんだけど、みんなで来る?」
と聞いてみる。
「へ~、でも明日は科学館に行くことを決めていたから・・・結、ひなまつりパレード行く?」
奥さんが姪っ子に聞く。
「行かないっ!科学館にいく」
「ほら科学館はいつでも行けるでしょ」
お母さんがさりげなくフォローする。
「行くっていったもん!」
娘は断固拒否。
「ああ、ごめん。そうやった」
私は苦笑いをし、それからその話題を封印した。
寝る前。
「楽しみにしていたんだね」
「まあね。明日ごめんね」
「いや、仕方ない。そっちの方が大事だよ」
私と奥さんは苦笑いを浮かべる。
その後、もうなるようになるさと開き直り、軽くYouTube動画でパレードの様子を観た私は爆睡してしまった。
当日。
(ああ、朝だ)
朝食をとり手短に用意をして会社へ向かう。
昨日は雨、朝はその雨も残っており、まだしとしと降っている。
おまけに今日は全国的に荒れ模様の天気だ。
こんな日にやるのか・・・中止にならないかな(笑)。
朝の舟準備そして、朝礼の後は、パレードが行われる沖の端へ。
観光協会の二階で、会社の若い同僚と2人、白のTシャツに白の股引姿となり、白衣(神主さんが着るような着物、全部真っ白)と烏帽子を係の方に着せて頂き、パレードの衣装に身を包む。
それからテンションのあがった三人は写メをしまくる。
白足袋雪駄を吐き、外へ出る。
普段は足袋で舟を操船するので、雪駄ではどんな風になるのか皆目見当がつかない。
いそいで、各自の舟へ乗り込み準備をする。
舟の清掃、赤絨毯を敷き、椅子を並べ火鉢を用意する。
船会社の持ち回りで、今年うち会社は1~3番舟を担当する。
沖の端舞台横に打ち合わせどおり舟をつける。
ほどなくして、1番舟の巫女さんと着物を着た子どもたち、2番舟の雅楽隊のおじさん達、3番舟の子どもたち、新婚の平安衣装に身を包んだ若夫婦そして、ずらりと並ぶ後続舟。
舞台では太鼓が打ち鳴らされる。
息つく暇もなく、ひなまつり水上パレードはじまりの挨拶があり、舟は出発となる。
雨はおさまり、曇り空ながら、まあ御の字という感じ。
風は少し強く肌寒い。
私は竿を持ち、足を踏ん張り1番舟に続き舟を進める。
意外にも雪駄は足の踏ん張りは効く。
(これならやれそうだ)
きらびやかな衣装に身を包んだ子どもたちと大人。
沖の端には多くの親御さん見物のお客さんであふれかえっている。
沖の端橋の手前のさげもんが飾られている場所で花火があがる。
2番舟から雅楽の演奏そして音色が聞えだす。
私は気合を入れ、前の舟との距離をはかりながら、ゆっくりと舟を漕ぐ。
衣装の袖が引っ掛かり、うまく竿がさせない。
なんとか誤魔化し操船するもざっとはいかない。
だが、雅楽隊の荘厳なる音が私をみんなを癒し励ましてくれる。
周りのみなさんが手を振ってくれる。
舟に乗っている子どもたちは緊張しながらも笑顔だ。
舟は雅に沖の端を抜け、御花邸をめぐり豊後橋を抜ける。
多くのみなさんがパレードを見てくださっている。
緊張と気持ちの高まりが心地よい。
さぁ、いこう。
川沿いの桜は六分咲きだ。
一番低い城西橋へさしかかる。
私はみんなへ声かけをする。
「ここ一番、低い橋です気をつけてください」
舟内のみなさんは背を屈める。
次第に風が強くなる。
私は足を踏ん張り、操船に集中する。
普段に比べ、ガイドがない分より操船に意識はいく。
内堀へ入り、石橋、城堀水門と抜けると、大きく開けた二つ川だ。
あと少し、右の白衣の袖はびちょびちょだ。
竿を力強く持ち、歯を食いしばる。
柳川橋ではたくさんの人が手を振ってくれる。
思わず笑顔がこぼれる。
そして舟はゆっくりと終点へ到着した。
「お疲れ様でした。ありがとうございます」
私は下船されるみなさんに笑顔で挨拶をする。
2人の船頭もやりきった表情で笑顔だった。
こうして初参加のひなまつりのパレードは終了した。
参加出来、無事に終了して本当に良かった。
「ひなまつりのパレードどうだった?」
家に帰ると奥さんが聞いてきた。
「うん、良かったよ。無事、終わりました」
「そっか、良かった」
奥さんはにっこりと笑う。
「来年は?」
「いいよ(若手で)」
私も微笑み返した。
久しぶり柳川の春の風物詩。