第七話・眠剤について
通常なら薬が減ると、それは体調がよくなった、もしくは検査結果がよくなったということです。だから良かったねとなります。でも違う場合もあります。医師が治療方針上の判断で薬を減らす時があります。
今回は眠剤に特化した話です。一般的な睡眠薬の事だと思ってください。私は睡眠薬のことを飲めばそれで不眠症が治ると思ってほしくない。なので、睡眠薬といわず、眠剤と書きます。寝る前に飲むという意味ですが、私個人の意見ですのでご了承ください。
人間の生きていくための基本設定欲望といえば、性欲、食欲、そして睡眠欲です。
深く何も考えずに眠りたい、でも眠れない。病的に眠剤にこだわりを持たれている患者に、眠剤が減りましたね、もしくは変更ですねと確認しただけで、「困ります」 と怒られることがあります。
「私には前の薬でないと眠れない。それなのに変えられた。すごく困ります」
医師は意地悪で薬を減らしたりはしないです。薬剤師は密室で行われる診察の様子がわからないなりに、したり顔で眠剤が減ったので病気が良くなったのね、というので、患者の機嫌を悪くさせるのは当たり前です。
怒るのは本人からでなく家族のことも多い。
「眠剤が減らされてしまった。本人は日中は昼寝ばかりして真夜中に起きて、外出します。寝てもらわぬと困ります。こちらとしては本人の寿命が縮んでもいいので、眠ってもらいたい。そうでないと、家族が壊れます。あの先生はそういうことをわかってくれない」
……家族が管理している場合、こういった事情を「わかってくれる医師」 もいるのですが、若い医師で融通がきかない先生もいます。また患者家族も遠慮して言えないので伝わらない。私が気を利かせてこちらから疑義照会をかけてご事情を伝えましょうかというと、今後医師との関係が悪くなるのは困るのでいいです、という。いわゆるボタンの掛け違えが起きているわけです。
誰が悪いのでもない。病気が悪い。介護される側が本人に振り回されてばかりだと、いずれ介護鬱になります。困ったことです。しかし、単純に眠剤を増やせば解決というものでもない。
睡眠、誰でも眠るもの。たいていは夜に眠るもの。
病院や施設によっては、眠剤は夕食後と一律決めているところも多いです。薬を使ってでも寝ていただかないとシフトも人員もうまく回らぬところです。
本来ならば家族と一緒に寝起きしてご飯を食べる。老いや病気でその当たり前がうまくいかない。家族と言えども一緒にいられるのはごくわずかです。皆耐えられなくなります。私は医師側も介護側の気持ちもわかる。私が医師なら、多少体に負担がかかっても寝ていただいたほうがいいなら寝てもらいましょうというタイプです。ですので、薬を増やしてあげてくださいといいたいです。しかし処方決定権を持つのは担当医のみですのでこちらから強くは言えぬ。血液検査の結果を薬局に回さぬ人もいますので、減量指示がでますと従わざるをえません。代謝に影響が出ての減量の可能性もあるのに迂闊なことは言えません。
次に本人が単なる不眠症だと思って受診している場合の話です。
薬、特に眠剤の疑義照会に関して減量よりも増量の相談は難しいです。よくある不眠症で薬の過量服薬歴のある人が薬局で単純に眠剤を増やしてくれといわれることはあります。が、こういう時は私は増やしてあげてと医師に照会しません。どうしてもと頑張られた場合は医師に電話をしてもう一度診察場に戻っていただきます。でもこれで増量になったことは一度もありません。
不眠症の人にとって眠剤は必要な薬です。なにが悪いかというと過量になることと、遊びで使う人が多い。ですのでその人のためを思い慎重な処方が多くなるのは当然です。
周囲の家族や施設の事情で増量になるのは仕方がないです。しかし、自己管理がうまくいかない人は眠剤が減量になる。その分頓服を増やすなど処方設計に工夫をこらす医師もいます。
患者に納得いくよう説明をきちんとできるのはやはりベテランです。眠剤の処方トラブルを薬局で起こすのは患者自身の思い込みを除き、異動してきたばかりの医師が多い印象です。診察室内でうまく話し合えてない感じかな。
不眠症を治すといっても、寝つきをよくする薬ならばたくさんある。しかし、通常の診察では「眠れない」 とくれば、睡眠パターン、寝つきが悪いのか、夜中に起きてしまうタイプか、熟睡感がないタイプかなど聞いたうえで薬を出す。しかし、不眠の原因がどこから来るのかというところまで医師は深く詮索しません。
不眠症は太古からある。寝たいのに眠れないのは、さぞ苦しいだろうと思います。なにかの世間話できっかけを聞きますがいろいろです。薬に頼るしかない状態の人もいます。安易に増量もしくは減量もできない。ではどうすればいいかというと、正解はない。答えもない。ないない尽くしです。
なにかに挑戦して昼間の運動量を増やすなどで治る人はラッキーだなと思うぐらい、不眠症は単純だが難しい症状だと感じています。