第四十二話・家族の善意があだになる
患者Aさんの話です。
去年から抗がん剤服薬中のAさん。告知済み。残念ながら転移が判明した。それでより効果をあげるために治療薬を変更することになった。担当医はAさんに新しい薬を出すからそれを飲むように指示する。Aさんもわかりましたという。
Aさんは院外薬局に処方せんを持参し、薬を受け取る。薬剤師も処方変更を理解しているか再確認する。それと家に変更前の薬は残ってないかも念のために確認する。Aさんは即答だ。
「前の薬は、家にないですよ」
「わかりました。新しい薬も食欲不振や下痢が起こる可能性があります。ひどくなれば受診してください。お大事に」
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さてAさんが帰宅後、同居の妻に抗がん剤が変更になったという。Bさんとします。
◎◎◎ Aさんは薬をホイとBさんに渡す。
→→ チェックポイント① Aさんは妻のBさんに服薬管理をすべてまかせていた。
◎◎◎ Bさんは薬と一緒に渡された薬の説明書を読み、パソコンでも検索して「強い薬になった」 とがっかりする。Aさんに「薬を出しておいてもちゃんと飲まないから」 と怒る。
→→ チェックポイント② Aさんは目の前に薬を出されてもうっかり飲み忘れる人。薬に強いも弱いもないですが、Bさんはどちらかに分けたがる人。もちろんAさんに早くよくなってほしいと心から願っている。
◎◎◎ Bさんは台所の引き出しから前の薬を出す。Aさんに「これも一緒に飲みましょう」 と言った。Aさんはこれだけ残っていたのかと驚きつつも「そうだな」 と。
→→ チェックポイント③ Aさんは薬剤師に薬の残りがないと断言したことを完全に忘れている。
◎◎◎ AさんはBさんのすすめに従い、新しい薬と前の薬を一緒に飲むことにした。
→→ チェックポイント④ AさんはBさんのいうことを素直に聞く。Aさんは前の薬と一緒に飲んでいいものかどうかを医師か薬剤師に確認しなかった。さて、Aさんに何が起こったか。
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◎◎◎ 結果、その一 ◎◎◎
二日後に蕁麻疹が出ました。Bさんから「皮膚科に行っておいで」 と言われてAさんは近医に受診。皮膚科医から蕁麻疹の心当たりはありませんかと聞かれ「ありません」 という。かゆみ止めの塗り薬をもらったが、そこは院外処方せんを出さず、医院内で事務員が調剤して渡すところ。薬剤師はいない。医院からの併用薬についての確認はなかった。(医師なら今飲んでいる薬はあるかを必ず聞くはずで、不思議ですがAさんの言い分)
→→ チェックポイント⑤ 薬手帳の持参なし。Aさんには蕁麻疹の心当たりがまったくなかった。その皮膚科医院の通院歴は十年以上も前にハチにさされて腕が膨れ上がったときぐらい。
◎◎◎ 結果、その二 ◎◎◎
さらにその三日後。皮膚科医の指示通りに塗っても蕁麻疹は全身に広がり、口内炎まで出てきた。食事もろくに取れず水を飲むのも苦労する。Aさんは、抗がん剤をもらっているいつもの総合病院の皮膚科に行った。同じ病院なら薬手帳を見せなくても処方内容が閲覧できる。そこの皮膚科医は抗がん剤の副作用だと診断し腫瘍内科にまわした。ここでやっとAさんは顔なじみの主治医から血液検査を受けた。結果がめちゃくちゃで、特に血小板値が急激に落ちている。不審に思った主治医がAさんに聞く。
A「私は指示された薬をちゃんと飲んでました。これは新しい薬の副作用ですね」
主治医「その可能性はあるが、これはちょっと不思議だなあ」
A「前の薬と一緒にちゃんと飲んでたのに」
主治医「えっ」
◎◎◎ 結果、その三 ◎◎◎
Aさんは即時入院。血小板値がほぼゼロに近づき、血小板輸血をした。一カ月ほどで回復して蕁麻疹も口内炎も治って無事退院。ちなみにがんそのものはまだ治っていません。抗がん剤の副作用が落ち着いただけ。
Aさんの飲んでいた二種の抗がん剤は一緒に飲んではいけない薬でした。併用禁忌とされる組み合わせです。同じ病気を治す医薬品でも、一緒にするといけないのは結構あります。実は数十年前の発売当時は、併用しても可能とされていましたが、それがために患者は口内炎が出ても我慢して飲まれていました。こういった副作用データの積み重ねで併用禁忌になったものです。
薬剤師としての反省は、もし家に残薬があったとしても「一緒に飲まないように」 と念を入れるべきだった。でも本人が残薬はないと断言している以上、そのまま突っ込まずスルーしてしまうのもありがちです。ともあれ、Aさんの命が助かってよかったです。
同業者様へ
休薬期間は飛ばして書いています。




