第三十九話・カルテをちゃんと読まない医師
自己主張の強さは時としてプラス、時としてマイナスにつながる。医療従事者は人のために役立ちたいという博愛精神がまず不可欠、次に協調性を保ちつつ「自己主張」 もしないといけません。なんでも決められた通りに動くことも必要ですが、そのままずーっと同じ勤務姿勢だと向上心がないとみなされます。
ある病棟にいたときに、医師と看護師が揉めたことがあります。薬剤がからんでいたので担当薬剤師の私もからみました。B医師とします。紙カルテ時代だったのですが、B医師は、看護師や薬剤師などコメディカルな立場の人が書いたものをまったく読まない人でした。たとえば、患者がCという薬を飲んでいなかったとすると、それを見落としてその薬が効いていないからもっと強いDを処方するというのは結構ありました。性格は真面目で悪い人ではありません。私たちに上から目線でモノをいう医師ではないので、そのB医師には重要なことはなるべく口頭で話すようにしました。でも病棟薬剤師だってずっといるわけではなく、他病棟や外来とかけもちですし、医師はもっと忙しい。
病棟にいる方がめずらしいので、カルテはちらっとでいいから見てほしいと思っていました。なにがあってもよほどのことがない限りは、慢性疾患の人はDo処方といって、前回と同じ処方です。
ちなみにそこの病院では、紙カルテ(患者一人につき基本は一冊)は、最初に患者の個人情報、手術前後は色が違う用紙で手術記録など詳細な記載があります。ない時はそのまま各種検査結果用紙をのりで貼りつけるところに続きます。
その次に医師の記載欄、その次が看護師記載欄、それから重要度の少ない他院からの紹介状など。そして一番最後が薬剤師の記載欄でした。だからたまに薬剤師が書いた項目のあとに、「見ました。処方変更します」 などコメントをくれたり、読んだ印にサインをくれる医師は貴重で大変ありがたかったです。
さてこのB医師で似たような処方見落としがあったときは、医師が書くカルテ欄のところになんと若い看護師さんがB医師に嫌でも読めるように大きく赤ペンで文字を書きました。
「先生、私たちの書いている欄もチェックしてください。特に●●日に書いた薬剤師さんの記録見てください。そのうえで指示ください」 とありました。次にB医師と顔を合わせたときは「ちゃんと書いてくれていたのにごめんね」 と私にも言ってきましたので、やはり性格の良い人なのです。しかし、それでちゃんと読んでくれるようになったかといえば、変わりませんでした。緊急時は書く時間なんてないので、まあ余裕のある状況でもある証拠ですが、ちょっとしたハラハラはあります。とりとめもない話ですが、昔はこうでしたよ、ということです。お粗末様でした。




