第二十九話・甚大な薬害発生
ニュースにもなったのでご存知だと思いますが、抗真菌剤といって水虫などに使う飲み薬に本来含まれるべきではないものが混入していました。しかも、その混入物というものがベンゾジアゼピン系の睡眠剤です。
ニュースがお茶の間に流れる三日前ほどから、そこの製造販売会社の名前で至急のお願いと称した告知分が勤務先にも回されていました。製品は三種類あります。一錠あたり五十㎎入りのもの、百㎎入りのもの、そして二百㎎入りのもの。
それぞれに睡眠薬が混入……よりによって睡眠薬……。しかも通常の使用量の十倍から二十倍です。
水虫のお薬と思って飲んでいた患者の中にはすでに、急激な睡眠に襲われ交通事故などを起こされたり、意識を失って原因不明での入院をされたりしていました。
会社から薬局並びに薬剤師へのお願いとして、睡眠薬が混入されている抗真菌剤のロットはわかっているので、
① 当該ロットにあるものは即時回収の協力
② すでに調剤されてしまった患者の服用中止を言い渡すこと
③ すでに飲んだとしても、何らかの健康被害はなかったかの聞き取り
④ それぞれの患者に会社側からも聞き取りをするので、患者の許可を得たうえで個人情報の提供の協力を仰いでほしい。
⑤ ロット外の抗真菌剤についでもすべての残薬を回収もしてほしい
⑥ 他薬局や医療機関に提供した場合も、譲渡先への連絡もしてほしい。
幸い私の勤務先にはこのロットはなかったです。というより別のジェネリック会社のを使っているので被害ゼロ、良かったです。
この会社では、本年九月から延々と十二月初旬まで出荷していたが、そもそもの原因がわからなかった。製造工場によると、本来はあり得ない行程中に、そこに眠剤が混入されたというもの。製造責任は問われるだろうし実際に今現在工場にて立ち入り検査をされています。
会社の方も、健康被害が出た患者に対しては補償はすると書かれているので、それは大丈夫でしょうが、本来あってはならぬ事故のうち、これはひどいと思いました。だって新薬の発売後の事故でもなんでもない。すでに繁用されている薬についての薬害だからです。防ぐことはいくらでもできたはず。
現在の薬剤師は、すでにできあがった状態の薬を出しています。薬はバラ錠といって裸錠のままで納品されるのを除いては、ヒートに入れられた状態、つまり湿気などに強い状態で提供されます。
私たちはヒートをみただけで「抗真菌剤なのに睡眠薬が入ってる」 なんてわかりません。ちゃんと決められた㎎数が入っているかも検査しません。メーカーが提供したものを信用してそのまま調剤して患者に渡します。
どうしてこうなったのかはこれから調査の段階ですが、製造側のチェック機能が甘かったと言われても過言ではない。眠剤が混入したせいで患者が起こした交通事故は十件近くありましたが、死人がでなかっただけマシです。こういうのがあると、末端の薬剤師はどうしようもないです。
私は過去、ヒート内にある錠剤の一部が割れていたと患者から申し出があり、メーカーに調査してもらった経験があります。散薬や注射薬に異物混入などもありました。この時は病棟からの申出でした。製造ラインに問題があったと報告を受けたこともあります。複数の成分がはいった胃薬で一種類だけ欠けて出荷したというものまでありました。
でも、今回は相当にひどいです。睡眠薬を知らずして飲んだので、昏倒や転倒は当然あったでしょうし、これからの調査で被害もほぼ確実に拡大します。
つまり「あの時のあれはそうだったのか」 となるでしょう。処方された患者には幼児もいましたし、何事もないようにと心から願っています。
避けようもない事態は薬剤師も避けようがない。調剤した側にとっては今回の事件は責任は問われないでしょうが、製造会社はこれからが調査や補償などで大変です。二度とあってはならぬことは当然ですが、今後の会社の姿勢も注目されるでしょうし身体を壊されぬようにと願っています。ともあれ数千人、数万人の規模でなくて不幸中の幸いと思うしかないです。




