第二十六話・薬が効かないと言われた時
患者に対して、何かご質問はありますかと聞いたとき、「この薬が効きません」 と患者が言うとします。効き目が悪い、効果がない、ダメだわコレ、いろいろな言い方がありますが、まず処方をした医師に直接言えない人が多いです。薬剤師にも言えぬ場合は黙って病院を変えるだけ。でも薬をもらいに来たということは飲む意志はまだあるはず。だとしたら薬局はやはり最後の砦です。また保険の関係で通院先を変えられぬ人は「薬局から何とかして」 と頼まれることもあります。
アホ薬剤師はそういう仕事は面倒なので、「次の診察の時に直接先生に言ってね~」 というらしいです……が、普通の薬剤師はその患者の過去の処方内容を間違いないか把握したうえで、以下の二つのどちらかの行動をとります。
① もうしばらくは続けて飲んでもらうべく、説得する。
② 処方を変えてもらうべく、医師に疑義照会をかける
まず、①ですがこれは漢方薬もしくは一部の精神科薬の飲み始めて二、三回目が多いです。私たちは患者の言い分をまず聞き取ります。そして処方した医師の判断を尊重します。一般的にすぐに効果が出るものでない場合は、文字通り最後の砦になりますので、添付文書や患者向け説明書、ファイルを見せてあとワンクールだけでも様子をみてくださいと伝えます。
② 効いていないどころか、副作用だと思ったら、さらに詳細に聞き取りをします。特に薬疹は要注意、過去ひどい湿疹を起こしたのに、医師に伝えず黙って皮膚科の診察を受けて塗り薬をもらっていた人がいました。薬の副作用による湿疹を薬疹といいますが、これは飲むのをやめない限り治りません。皮膚の表面ですまない場合もありますので必ず病院と相談しないといけません。
抗がん剤の一部は副作用はあって当たり前です。がん細胞だけでピンポイントで作用してくれたらいいけれど、正常な細胞までも攻撃するので副作用が出てしまう。しかし副作用があっても、承知のうえでなお飲んでもらいたいものがあります。患者の気持ちを尊重しつつも説得します。
それ以外の場合、降圧剤を飲んでいたが効きすぎて血圧が下がり、ふらつきが出た場合。血圧はいくらぐらいでしたか? と聞くと「外来で計ってもらっていません。こっちの顔も見ないで変わりないですかって、パソコン見て終わりでした」 という。
私がかかわったときは、局内で再計測すると下がりすぎて降圧剤いらないぐらいだった。ふらつくというので、座って待っていただく。あきらかな副作用だと判断できる場合は疑義照会をかけます。
その時は、降圧剤の効果が出過ぎているように思うがと聞きました。処方した医院の医師は直接電話に出てこられました。不機嫌そうに「じゃ、ソレ削除しといて」 と一言いって電話ガチャ切りでした。こりゃ、患者だって言いにくいよね……。
疑義照会をかけようにも「先生に嫌われたくないから問い合わせはやめてください」 と言われるときもあります。嫌われたくないからって、患者も遠慮が過ぎる。でも診察室内の様子は誰にもわからないので、「先生はこういうことで怒る人ではないと思いますので、ちょっとだけ質問してもいいですか」 と説得します。こういう時の為に薬剤師は存在するのだ。しかし腎臓内科で透析をしている患者から「あの先生から嫌われると私は死んでしまいます」 と怯える人もいて「いやいや、それは……」 と思ったり。医師が患者に怖がられてどうするのか。
大部分は薬局からの疑義照会には医師自身もしくは看護師を介して真摯に返答いただいています。
医師に言いづらい、薬剤師も忙しそうで言いづらい、そういう患者が大半だと心得たうえで、よくぞ話してくれましたというニュアンスを持たせたうえで行動しています。どちらにせよ、疑義照会は医師が処置中では返答が遅れるものですし、患者には待ち時間がなお増えるという負担が生じます。
医療は患者が主役でなるべく心地良い状態を作り出してあげるのも仕事の一つです。それを思えば疑義照会は薬剤師には必要不可欠な重要な業務であると思っています。




