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第二十五話・錠剤分包、その二、錠剤分包機の話


 錠剤分包機は、一回分の薬を小さな袋にまとめてくれる機械です。患者さまに「間違えずに飲んでもらう」 為のものです。

 この機械ですが、昔はパイルパッカーといって、くぼみに薬を落とし込んで上から専用ビニールをかぶせて、圧着するものがよくつかわれていました。今でも販売されており、現役です。

 錠剤分包機よりも、散薬分包機の方が早くに出回っており、散薬は千九百七十一年(昭和四十六年)にすでに東京商会が発売しています。思っているよりも歴史がありますね。私が新人のころは、ユヤマや東京商会でロール式のものが出回り、パイルパッカーと併用していました。

 錠剤分包機はもっと後の話です。全自動タイプは千九百八十五年(昭和六十年)に発売とあります。それまでは、薬剤師が一回分ずつヒートからばらしてまとめていました。散薬分包機と同じ機械を使ってやりました。一回分ずつ落とし込むのは散薬も錠剤も理論は一緒なのです。こういった手巻きの分包機はすでに出回っていましたが、あれは一度に二十一回分のものしかできなかった。なぜ二十一回が、基本か……それはスペースの関係もありますが、一日三回処方で一週間分の処方せんがよく出るからです。二十一回を基本として二週間までが上限。それがすぐに慢性疾患では三十日分までの処方調剤OKとなりました。当時は六十才以上の人は全員どのような人でも医療費無料でした。医師のやる保険点数も湿布を貼るだけでもとんでもない保険点数が計上されていた時代の話です。

 徐々に機械の機能も向上し、それが二十一回分を包装している間に、次の二十一回分を準備できるようになった。スピードもあがり、途中でカプセル剤が袋に落ちなくて機械の中でひっかかったり、ビニールの接着部位がきちんと接合できず、錠剤がばらばらになったり、あげくのはてに、一回分の包みに五回分ぐらいぎゅうぎゅうづめになって出てきたり、というトラブルは、ほとんどなくなりました。

 医療機械の進歩は素晴らしい。現在は民間の調剤薬局でも全自動型を使用しています。

 一日四回、朝昼夕寝る前の九十一日分処方でも分包紙切れを起こさぬ限り、途切れなく四×九十一、合計三百六十四包出せています。薬剤師も一つずつヒートを開けて手でセットするのではなく、おろしさんから「バラ包装」 というのを購入してカセットという錠剤分包機の心臓部のそれぞれの所定の位置に入れていきます。だから私たちがするのは、きちんと一回分ずつ入っているかどうかの監査チェックですね。

 当たり前ですが、処方監査のあとに、お名前が間違ってないかは基本の基本です。常用漢字でなく、旧字体で正確に印字しないと怒る人もいましたので、新患さんの名前チェックは特に慎重にします。たとえば、惠子さんなのに、恵子さんにしてしまって「どこに行ってもみなさんは私の名前を間違えます」 と悲しそうに訴えられてあわててやり直しをしたこともあります。名前は大事ですものね……そのうえで中身はもっと大事。患者の身体の中に直接入るものですからね……調剤も機械化がすすみ、いずれAIロボットにとってかわられそうですが、気分よく服薬していただくために人間対人間同士の会話も欠かしたくないです。


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 追記:: もっと、それ以前の話


 錠剤分包機がなかったときは、どうしていたか……ヒートをばらばらにして、ヒートとヒートをつなぐために、ホチキスで閉じていました。どうでも一回分ずつ小分けにするのです。なぜそこまでするのかというと、入院患者は総じて薬はすべて「病棟管理」 が主流だったから。昔は患者の自己管理はなかった。それゆえ、病棟の手間をのぞくために、一回分ずつ分けておきます。多くの種類の薬を飲む人は、ホッチキスの針でけがをしたりもあったかと思います。今考えれば危なかった……散薬の場合でも病院名や病室番号、もしくは患者番号や名前、薬品名など全部印刷した包装紙なんてないので、必要に応じて黒マジックで大きく目立つように書きました。そういうアナログな時代もあったのです。

 薬の変更や退院、もしくは死去されたら薬は全て薬局に戻されます。病棟から返還されると、注射薬は未使用ならば再度利用、散薬の場合はオーダーメイドなのですべて廃棄処分、ヒートに入った錠剤は再利用されていました。ただし、ここで問題がありました。病棟返還薬は再度病棟調剤で再利用していたので、ホチキスの穴があいたままのも患者の手元に行く……。なのでクレームがついた。

「ヒートのはしっこに穴が開いている。これはホチキスの跡だ。つまりぼくが飲む前に誰かの薬だったろ、そうだろ(怒)おまえんちの薬局どうなってんだーっ」

 気の強い先輩がその患者の言葉に返答もできず、しゅんとしていました。そのクレームをきっかけに穴の開いているものは再利用不可となりました。私もヒートのはしっこにホチキスの穴があいているのを飲めといわれたら不快です。薬価処理などどうしていたかは不明ですので、今回の私は爆弾発言をしたのかもしれません……。こういうのも、全自動錠剤分包機がなかったころの思い出です。

 今でも訪問患者さんのために、湿気やすいためにヒートからばらして分包できない錠剤があれば、一錠ずつヒートのままで、セロテープで他の薬と一緒につけるという作業はやっています。新人のころからもうすでに何百人分、何千人分これをやってるかな……私はこういうちまちました仕事も好きですね。調剤補助や事務さんにまかせる薬剤師も多いですが、忙しくない限り私は自分でやっています。


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再度追記

① バラというのは、ヒートなどで固定されていない状態をいいます。バラバラなので「バラ包装」 といいます。大体五百錠もしくは千錠で一袋になっています。それを開けて錠剤分包機内のカセットという入れ物に一気に入れてセットします。わかりにくかったらすみません。


② またまたパイルパッカーの話。これを使用しての分包は、数少ないと思われますので、書き残しておきます。これはロール式ではなく、調剤者が古式ゆたかに手で調整します。

 ① ヒートから出した錠剤をそれぞれのくぼみに一回分ずつ入れる。

 ② その上にビニールをもう一枚引いて上から熱線が引かれた金属を上からぎゅーと押し付ける。

 昔のそれはくぼみは浅かったので、多くても三、四種類を入れるのが精いっぱい。カプセルなどかさばるものは、はみ出て熱線に押しつぶされたりします。薬を無駄にすると廃棄になりますので慎重にやります。こういうのも今となっては信じられないと思います。今ではぐっと性能がよくなっています。散薬がはみ出て熱線が閉じられず、あとでこぼれて病棟から怒られたりはもうないでしょう。


③ 年代は東京商会のHPの沿革を参考にさせていただいています。

https://www.tosho.cc/aboutus/history.html


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