第二十一話・病棟で経験した不思議な話
私は理屈にあわない経験もしています。今回は病棟薬剤師の時に経験した話。
まだ電子カルテがない時代は、業務記録や服薬指導内容は手書きでした。紙カルテでは同じことを看護師さんもしたいので双方で譲り合います。ルーズリーフでとりはずしができる場合はそれをしますが、新規入院で全部最初からの記録を見たいときはどちらがより必要かを見るとやはり薬剤師は看護師に譲るべきですね。
日勤と準夜勤の人が重なり合う時間帯はナースセンターは混雑しています。日中業務の終わりの締めくくりに医師や薬剤師もいて、ぎゅうぎゅうです。電子カルテが入る前はどこの病棟でも紙カルテを入れる本棚みたいなのが場所をとっていました。記録を書くスペースも必要ですが常時その場にいない薬剤師は書きやすい場所もまた看護師に譲って遠慮するところがあります。私は主任の許可を得て無人の機器置き場で記録を書くことにしました。
「あそこでも平気ですか」 と念を押されるので「いいですよ、まるまるさんの記録を持って行きますね」 と行きました。壊れた電動ベッドや転倒防止柵が奥にごちゃっと置かれ、使わないぶ厚い医学書がベッドの上にいっぱい積まれています。手前はよく使われるバイタルサイン(生命の状態を読み取る、呼吸、体温、血圧、脈拍のこと)を読み取る計測器が多い。ドアを開けると、取り出しやすいようにスペースがあります。
私はこういうところも結構好きなので、時計を見て三十分ぐらいはゆっくり書けそうと喜んでいました。階下の薬局に戻ると仕事が山積みなので、座れる場所で仕事と休憩を兼ねていました。
デスクなんてなかったですが、折り畳みイスがあったのでそこに座って書きました。すぐとなりはベッドサイドモニターといって医療ドラマには患者役が横たわっているときに必ず設置されている機械がありました。これで心電図など患者の状態を離れた場所で管理できる優れものです。
書いていたらピッ、ピッ、と電子音が鳴るのでびっくりしました。急に心電図のモニターがうごいて規則正しく点滅しています。一体その心電図は誰のものか……と、急に止まって静かになりました。耳鳴りにしてはおかしいです……が、すぐに止まった。私は深く考えずに記録を書きました。するとまたピッ、ピッ、となる。次にピーとだんだんと小さくなる。誰もいないはずなのに、急に空気が重く感じました。あの奇妙な感覚は今でも忘れられないです。私は声もあげられずにじっとしていました。後ろをぱっと振り返っても物言わぬ医学書の山とベッドがあるだけです。モニターの下についているはずの電気コードを見ると下の台にぐるぐる巻きにされています。この機器は、電気も通ってないのに稼働しているわけです。
私がじっと見ていると、モニターがまたピッピッという。私は静電気体質があるのでそれかと思いましたが、それだけではなさそう……でも、私の持つ霊感はしょぼいし、悪意のようなものは全然感じない。ここにいてもいなくてもいいけど、いるならこっち見て……の感覚かな。心電図モニターがそんなこと言うかよ、ウソつくなと怒られそうな話ですが、あれは幻覚や幻聴でもない。ただ、これ以上集中して記録書けないです。なので席を立ちました。
「あっ、帰ってきた」
私が記録紙を抱えてナースセンターに戻るとその場にいる看護師が全員こっちを見ました。
「どうも~」 と適当に言ってそそくさと薬局に戻り、日勤終了後に残業してもう一度病棟にあがって人が少なくなったナースセンターで残りを書きました。実はそこの病棟は夜中の見回りにちょっと◎◎なことがあってそれで仕事をやめた看護師さんがいました。私の経験とは違いますが、多分同じようなことがあったのでしょう。そういったことが起こり得るポイントは
① その場で一人だけ
② 無人の部屋、もしくは患者全員が就寝中
③ 通常の理屈にあわない、
……ということ。医師も含めて病棟勤務者や患者全員がいる目の前で壊れたはずの心電図モニターを作動させたり、◎◎な怖いことをしてくれたらいいのにそれは無理なようです。だから怖がりの看護師はぎゃーとわめいて、夜勤がない開業医のところに転職しちゃう。それで本当にあった怖い話に掲載されて広まったりする。私は人知を超えた存在がそういうのをおもしろがってるとは思えない。職務を邪魔してなんの益があろう。存在を知ってほしいなら、それなりなことをすべきでしょう。と、説教したい。
全然解決にならないけど、それでこの話は終わりです。




