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第二話 薬の商品名と成分名について


 私は昭和三十年代生まれの昔人間です。まだ薬科大学が「四年」 で卒業できた時代です。現在は外国で薬剤師免許を取得したなどの特殊な例を除いて「六年間」 薬学部の在籍は必要です。六年間薬学部にいないと、受験資格がないので大変です。法的には六年制薬学課程を修めて卒業した者となっています。

 一度免許を取得しますと現時点で生涯免許を更新する必要はありません。近年の国家試験内容を見ますと私の時より難しくなっており、今どきの薬剤師は賢いなあと思います。合格率は七割前後ですね。学校によって違います。私の出身大学は私学ですので合格率を下げたくなくて、成績の悪いものは留年させて卒業させないなどの厳しい措置をとっています。卒業しないと受験資格を得られないので。

 さて、前置きはここまでにします。


 薬剤師は卒業してから国家資格を得ます。それ以降が薬剤師としての本番です。もちろん学生時代から実習はありましたが就職先によってイチから勉強のやり直しがありました。就職先の医療機関などによって覚える薬品名が違ったりするのです。それはどういうことか。昭和時代に薬剤師になった人は全員答えがおわかりになるはずです。

 当時の大学は薬学的な理論や実験が主でしたが、医薬品の名前は「成分名」 で覚えていました。今回の話のキモです。そう。

 ↓ ↓ ↓

 成分名で覚えていますと、昭和時代と平成前半時代においてやりなおしです。就職先では「商品名」 で覚え直さないといけないのです。


 例えばとして、成分名の「ニフェジピン」 があったとします。わかりやすくナンバーをうっておきます。全部同じ成分ですが発売される会社によって名前が違うって話です。ついでなので規格の話も。込み入った話が面倒な人は数字を読み飛ばしてください。


① 「ニフェジピン」  が、この話題の成分名です。ニフェジピン、千九百六十六年にドイツで発見された血管拡張剤の一つです。

② 私の就職先ではこれを「アダラート」 と呼びました。「ニフェジピン」 なんて誰も呼びません。まず商品名を覚えて学生の時に覚えた成分名と知識を一致させる、パソコンでいえば同期させないといけません。

 アダラートという名称はバイエル薬品のものです。昭和六十年代の当時はアダラートはカプセル剤で、一カプセル当たり、五㎎と十㎎のしかありませんでした。じわじわと効力が出てくる徐放剤などはまだ発売されていません。このカプセルは綺麗なだいだい色をしており、中身は油が入っていました。降圧剤としての処方が大半でしたが、狭心症発作時にはかみ砕いて服用させることという指示がありました。なお、このアダラート五㎎と十㎎は二千十九年に販売中止になって今はもうありません。

③ 私の友人の就職先ではこの「ニフェジピン」 は「アダラート」 ではなく、「セパミットR」 として採用されていました。現在は発売元の万有製薬とシェリングプラウ社と合併してMSD株式会社となっています。(MSDは、Merck Sharp and Dohmeの略ですが私は単純にメルクさんと呼んでいます)

 そして現在、セパミットRは発売会社がまたまた変更になり現在は日本ジェネリック社が発売しています。令和二年現在の情報です。製薬会社は吸収合併を繰り返して大きく激動、変動しており、数年後はまた変わっていると思いますので念のために書き添えておきます。


④ アダラートを覚えたら規格も併せて覚えます。平成になって徐放剤の十㎎、二十㎎、L錠とCR錠との種類があり、それぞれ㎎も違います。L錠は溶出調整され、十二時間血中濃度が持続する。つまり一日二回投与が可能。一回だけ処方する例も多いです。CR錠はバイエルの特許製法によるもので、小さな錠剤が二層になっており、ニフェジピンが溶出する速度が違う外層部と内核錠を組み合わせて一日一回投与を可能にしたものです。なお、違うメーカーによって粉もあります。濃度や添加物が違ったりします。


⑤ 時代下り、ぼちぼちとジェネリック薬品の処方が国の主導で推奨されるようになりました。医療費を抑えるためです。「ヘルラート」 や、「ニフェランタン」 などと会社によっては違う商品名がつけられていました。現在のようにジェネリックは成分名の後ろに発売会社名を入れるなどの取り決めがなく、混乱していました。外部の医療機関から来られた患者様によっては薬品本体にメーカーの薬品コードやマークの刻印の記載がないのがあり、特定できずすごく困りました。紹介状を持たぬ患者も来ていた時代です。


 ↓ ↓ ↓


 つまり、私のような古い時代の薬剤師は、

 学生時代は① 成分名、

 卒業してから ② 採用薬品の商品名、

 次いで ③ ジェネリック会社がつけた商品名、

 もひとつ ④ 成分名の後ろに会社名を併記したジェネリック薬品


 ……というように四種類覚えないといけませんでした。


 令和の薬学部卒業の新人薬剤師はおそらく、これを知らぬだろうと思います。アダラートは長老に当たるカプセル自体はなくなったものの、LくんやCRちゃんは、まだ先発として元気でがんばっています。

 でもセパミットアールさんやヘルラートくんは知らないでしょう……ニフェジピンと言わぬと話が通じないし、ジェネリック会社がつけた独自の商品名は消えていっているので覚える必要もないでしょう。

 私のような古い世代の薬剤師はこれからの新人さんはいずれ「アダラート」 すら通じなくなるのではないかと言っております。成分名の「ニフェジピン」 と言わないと若い薬剤師には通じない。

 医学がどんどん先進化していますので、名称どころか評価もどんどん変わっていっています。これまたできるだけ長生きして見届けたいなあと思っています。終わります。



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