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(幕間)香月怜花の思い



「なんで、あのアホナルシストは勝手に……」


 自室で怜花はそう毒づく。

 怜花は混乱していた。

 なぜ、仙介があれほど身を張るのか。彼は元の世界へと戻りたがっているわけでもないというのに。

 

「私が彼に触れられなければ……」


 ――仙介は殺される。私(レイカ姫)をだました国賊として、私たち(王家)の手で。


 怜花も覚悟していないわけではなかった。

 この世界で生き残りそして元の世界に戻るには、どこかで命を賭け(ベットし)なければいけないということ。

 それでも今回、思いがけない小路から「死」が飛び込んできて。

 揺らいだ。

 

 そして、そんな状況でも平然としている仙介に負い目を感じていた。


 ――1年間、彼はこの世界でどんな生活を送ってきたのだろうか。

 

 思い返せば、彼の戦闘力は尋常ではない。

 もとの世界でなにか格闘技のプロフェッショナルとかであれば、まだ話は分かる。

 しかし、聞くところによると、私と同じただの高校生だったらしい。


 どんな1年を送れば、この世界の騎士と同等に戦えるようになるのだろうか。

 最初、彼に差し向けた二人は、騎士の中で目立つわけでもないが、けっして弱くはない。それぞれ戦争という死に近い場所で鍛錬を繰り返してきた騎士の1人だ。

 

 自分もこの世界に来て頑張ってきたつもりだ。

 仲のいい騎士の女の子、ランから、剣を習った。

 初めての映画撮影の時、人生でこれ以上頑張ることはないな、と思ったが、それ以上に頑張った。

 しかし、成果は思ったよりでなかった。ランは上達が早いと喜んでいたが、身についたのは最低限の護身術程度。連理の魔法を使われてしまえば到底かなわない。

 

 剣はそこで諦めたが、もとの世界に戻ることは諦めなかった。

 社交界に馴染み、人脈を広げ、国の人気者も演じた。

 自分の立場を上昇させ、行使できる影響力を出来るだけ大きくするために。


 仙介と出会ってから、こんな1年間の努力も大したことないように見えた。

 ――いや、自分も立派なはずだ。彼が特殊なだけ。

どうして、彼はあんなに身を切れるのか。


「サトリちゃん」


 怜花は小さくつぶやく。

 すると、机に置かれていた小箱がひとりでに開き、中から妖精が現れる。

 

 (さとり)の妖精。


 この1年間、ゲームのシナリオを有利に運ぶように、他のヒロインや強力な武器などの情報を探し回った。それこそお抱えの騎士たちも使って。

 しかし、すべてが空をつかむようで。ストーリーの主軸に近い存在であればあるほど、決してそれには干渉できない状態であった。最も力を入れて捜索していた主人公、つまり仙介が1年間見つからなかったのもそうだ。


 この妖精だけは違った。

 ゲームではヒロインの親愛度を測ることのできる、お助けアイテム的なキャラ。

 この世界にきてから、正直この子の存在を忘れていた。今から2か月前くらいであろうか、この子は自分の方から姿を見せたのだ。


「サトリちゃん。仙介の考えが分かる?」


 人の気持ちを読む妖精。

 妖精は自分の意志をもたない。自立化した魔法、という方が表現は近いだろう。効果範囲内にいない仙介の気持ちなど、この子が分かるはずもなかった。

 ただの()(なぐさ)めである。

 

 妖精は人の気持ちが読めても、気づかいなどはしない。


「怖いなあ。男の人が。仙介が。この世界が。怖いなあ」


 覚の妖精が口にしたのは、怜花の気持ち。

 それに怜花は苦笑をこぼす。この子を起こしたのは逆効果だったな、と。

やっぱり人の気持ちを覗いてしまうのは、よくないなあ。そう改めて思った。

 

「うるさい。帰りなさい」


 その命令に素直に応じる妖精。

 小箱に入ると、またひとりでにふたは閉じられた。


「怖いなあ……」


 今度は自分の口から弱音を吐く怜花。

 次に、息を長く吐く。

自分の身体から弱い気持ちを全部追い出すように。


 そして立ち上がると、女騎士ランを呼んだ。

 彼女は怜花の側近。ドア前にいつも待機している。すぐさま呼びかけに応じて入室する。


「ラン、ひとつ頼み事があるんだけど」


 そうして怜花は彼女に一つの指示を命じた。

 その表情は、香月怜花のものではなく、レイカ姫のものだった。


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