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3. ナルシストゆえの努力②


 対峙するは、「比翼の契り」を交わした男女2人。はたから見たら圧倒的に俺が不利な状況。それでも、俺は余裕そのもの。

 この一年間の努力の発表会である。


魔素(まそ)機関(きかん)2番、点火」

 

 俺の掛け声と同時に、戦闘用に四肢に着込んでいたタイツが熱を帯びる。

 それは、愛情をキーとする「比翼連理」の戦闘システムに対抗して、俺が開発した武器。


 この世界には、魔素と呼ばれる異世界特有のエネルギーがある。この魔素は人の愛情と強く反応し、その力を増幅させして魔法という形にしたのが「連理の魔法」である。

 俺は、他者を愛すなど考えられないから、したがって「連理の魔法」は使えない。しかし、そのもととなる魔素は、何の意味付けもない、ただのエネルギーである。


 魔素それ単体は微力なものである。その存在は知っていても、誰も目を向けなかった。

 俺は違う。

 人の愛情とは別路線で、機械的にこの魔素を増幅させる機関を考案した。

 それが、この魔素機関である。

 まだまだ開発段階で、連理の魔法に比べると出力も小さいが、それでも革新的で戦闘補助としては優秀な兵器である。


 2番とナンバリングされたそれは、使用者の運動能力を底上げさせる機能をもつ。「比翼の契り」にある身体能力向上効果を、疑似的に再現したものである。

 

 俺は、まず男の方に急接近する。

 不意をつかれた男は、慌てて剣を構えようとする。

 しかし。


「はやいっ――」


 その前に俺は、彼の(ふところ)に潜りこむ。

 近距離格闘戦である。

 これなら、男は剣を触れないし、女も誤射(フレンドリーファイア)を恐れて矢を放てない。

 

 しかし、そんな俺の想定は外れる。

 俺の掌底を食らいながらも、男はにやりと笑う。

 瞬間。


「連理の魔法、光の(ライトニングアロー)


 光の矢が容赦なく飛来する。


「ちっ」


 躱すのには、後ろに()ぶしかなかった。

 せっかく詰めた男との間合いが、再び開かれるということ。


「連理の魔法、光の(ライトニングソード)


 体制を整えた男も、連理の魔法を発動させる。


「その程度じゃ僕らはひるまないよ。彼女の腕を信用しているからね。最悪、彼女の矢ならこの身を貫かれてもいい」

「仲がいいことで」

「最高の誉め言葉だ」


 そう微笑むと、今度は男の方から俺に向かってくる。

 横の斬撃。

 剣から放たれる光が、(くう)に半円の軌道を描く。


 俺はそれをバックステップで躱す。

 しかし、それを見越して、すでにその地点には光の矢が到来していた。

 瞬時、身をひねって難を逃れる。魔素機関の補助がなければ、今のでやられていた。


「光の斬撃も光の矢も、君に傷を負わせない。痛みはそのままだけど、死にはしないから安心して食らってくれ」


 説明、ご丁寧なことで。

 しかし、だからといって食らってやる道理はない。

 仕方ない。アレを使うか。


「魔素機関1番も点火」


 1番。それは俺の左目。

 とある訓練の中で、俺はとちった。それで左目を失う羽目となった。だからこれは義眼である。

 そもそも魔素機関の開発に着手したのも、この義眼を造るためだった。せっかく造るなら、性能のいいやつを、という発想である。


 再び彼らに対峙する。

 見える景色が違う。目に入ってくる敵の動きが違う。

 1番の効果は、神経回路の高速化。

 その義眼は本物の目比べて、ほんの少しだけ早く脳へ視覚情報を伝える。その「ほんの少し」が戦況を変える。


 俺は再び彼に突進する。

 今度は斬撃と矢を、少しの余裕をもって躱すことが出来る。その余剰分で攻撃に手を回すことができる。


「ついでに、3番も点火っ」


 3番は右腕の(けん)。これも、訓練中に損傷した腱を強化した形である。戦闘用タイツである2番とちがって、直接的に運動能力を上昇させる分、効果は大きい。その代わりに負荷も大きく、あまり多用はしたくないのだが。

 体内に埋めこむ形式は1番の左の瞳とこの3番のみ。とはいえ改めて考えると、とんだサイボーグにこの一年間で変化してしまったものだ。

 

 とにかく。

 3番の効果で急加速した右ストレートは、男のみぞおちにクリーンヒットした。


 俺の勝ちだった。

 相手も俺の無力化が目的で、全力を尽くした戦いとは言えなかったが、それでも2人相手に大戦果であった。

 そして「比翼の契り」、「連理の魔法」の弱点。それはパートナーが倒れれば、一人では使うことが出来ないということ。もうすでに女の方に打つ手はなかった。


 しかし。

 俺は両手を上げバンザイする。

 勝ちを喜ぶためではない。


 降参の意味だ。


 俺と倒れた男を中心として、イグレット王家の騎士たちで円が作られていたのだ。戦闘の途中から彼らの存在に気づいてはいたが、さすがに多勢に無勢。どうしようもなかった。

 数は20強。きれいに男女比は1:1。みんなが「比翼の契り」を交わした魔法戦士みたいだ。

 いや、女性が一人多い。


 この人数の中でも、目を引く美しさ。感じる気品も人一倍の女性が混じっていた。

 その女性が一歩、前に出る。


「センスケ様。ご無礼をお許しください。私はイグレット王国第二王女、レイカです」


 そう言って、おしとやかに洗練された動作で彼女は礼をする。

 名乗る前に俺の名前を言ってのけるあたり、ある程度の調査は行われているということか。

 彼女は顔を上げると、一言追加する。


「名はティアではありませんので、お間違いなく」


 その言葉に、とりまきの騎士たちは不思議そうな顔をする。

 しかし、俺は別。

 嫌な予想が、確信に変わる。

 ゲーム上のキャラクター名であるティアという名を知っているということは。彼女は、俺と同じ転移者ということ。


「さっきの2人はあなたが話を聞かずに逃げるから追わせただけ、それにこうやって多くの騎士たちを連れてきたのも私の護衛のためです。あなたに敵意はありません」

「気にしていない」


 まあ、捕まってしまった今になってはその点はどうでもいい。殺意が向けられていないのは本当のことで、悪意も感じられない。

 それにもし、彼女が力にものを言わせて何かを俺に強制させようとするなら、俺にもまだ打つ手はある。


「それはよかったです。では、お話に付き合ってくださいますよね」


 そう品のある笑みで、問いかけてくるレイカ。しかし言外に異様な圧力があった。

 もう1年あれば、簡単にここを突破するだけの力をつけられたのにな。そう思いながら、俺は彼女の言葉に従うことにした。


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