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10. 仙介の剣術


 騎士団長ミリアの戦い方は、大剣と大盾という豪快で見た目からも力強さが伝わるスタイルであった。

 ミリアは、女性としては長身であるが体の線はそれでも細めで、その装備はより無骨さが際立っていた。

 

 対して、武器使用の制限が解除された俺はというと。


 手にするは、先ほどまで使っていた、ただの剣。両刃で、西洋騎士物語に出てくるような、ただの剣である。

 ただ、これだけではない。

 腰には、一振りの刀。それが(さや)に収まっている。


「二刀流か」

「こっちはお守りみたいなものです」

 

 そう言って俺は腰の刀をぽんとたたく。これから立ち会う相手に本当のことを言う義理もない。それはミリアも分かっているようで、にやりと笑うのみ。



「はじめっ」


 ミリアの代わりを任されたニーナの号令で立ち合いが始まる。



 動かない。

 騎士団長ミリアは一歩も動かず、こちらを(にら)むのみ。「かかってこい」、ということだ。

 

 彼女の武器と構えから見るに、戦闘スタイルは「静」の部類に入るだろう。

 ならば、俺がとるべき流派はどれか。いくつかの選択肢が頭に浮かぶ。その中から、頭の中でシミュレーションをし、ひとつの解答を再構成する。

 これが後出しじゃんけん。


「1から9を知るよりも、9から10を知る方が難しいし、才能の部分も大きくなる。だから、9まで磨いた剣を多くもつ方が効率的だ」


 とは、オリヴィア師匠の言葉。

 戦闘に関して彼女は極めて理性的であり合理的であった。

 100メートル走で14秒から11秒まで縮めるよりも、11秒から10秒台に縮める方が難しい。それは感覚的に分かる話だ。

 プロの一歩手前。

 そこまでの水準で、多くの流派を学び、鍛錬の足りない部分は相性で補う。これが師匠の教えだ。


 まともに剣を教えてくれた2か月の間に、俺は幹となる大きな12流派と、そのそれぞれ末端で3,4に枝分かれする変化を学んだ。そして師匠のもとを離れ半年間あまりで、その半数ほどを「9」まで身に着けることが出来た。

 まだまだ鍛錬の途中であるが、よくやっている方だと思う。さすがは俺。




 そんなわけで、ひとつの戦い方を俺は選択する。

 持続性、体力勝負は、守りの型である「静」の部類を極めた彼女には適わない。ならば、ヒット・アンド・アウェイで隙をうかがって、一撃で決めるスタイルがいいだろう。

 

 まずは様子見で、軽く踏み込み剣を振る。

 変則的なステップをもって、彼女に近寄る。しかし、やはりこの程度では届かない。

その攻撃は、ミリアのその大盾で剣ははじかれる。


 瞬間。

 大剣の突き。

 

 かろうじて、それを俺は剣ではじく。

 強烈なカウンター攻撃だ。

俺が様子見ではなく、深く彼女の間合いに飛び込んでいたなら。

 そう思うと、背筋が凍る。


「オリヴィア様の弟子だと言うから、本気でいかせてもらった。よもや、立ち合いなどで死なぬよな」

「買いかぶりすぎだ」


 それは過剰な評価だ。

 言っても、俺が剣を握っていたのは1年間である。埋められる力の差にも限界はある。


こんなところで死んでも仕方ないので、さっさと打てる手は打っておこう。


「魔素機関1番、2番。点火。3番は待機」


 俺の掛け声に反応して、魔素機関は起動する。

 1番、左目。

 2番、戦闘用タイツ。

 3番、右腕の腱。


「ほう。それが噂の」

「大したものでもない。お助けアイテムってくらいだ」


 情報伝達が高速化した視神経系は、負荷もかかるのか、鈍い頭痛がする。

 戦闘用タイツは熱をもち、全体が()す。

 しかし、集中力を絶やしてはいけない。


 今度は強く踏み込む。

 ミリアは盾で応戦せずに、今度は剣で俺の攻撃をいなす。

 と、同時に、俺の眼前に壁が迫る。正しくは大盾。


 面の攻撃は、俺の姿勢を崩すため。

 すぐに剣での本攻撃が飛んでくる。


 いやらしい連携攻撃だ。

 俺は後ろに大きく飛んで、再び彼女と距離をとる。

 魔素機関で底上げされた反射神経と身体能力をもってしてもぎりぎり。


 だが、間合いは何となく理解できてきた。

 あとは攻撃手段だ。どうやって刃を届かせるか。

 俺は一つ、ミリアにお願いをすることに。


「連理の魔法に防御力を高めるものはあるか」

「当然、そのたぐいのものもいくつかあるが、それがどうした」

「使ってくれ。場所は、首、四肢の関節だけでいい」


 攻撃のスピードを上げようと思えば、威力も自然と上昇してしまう。寸止めできるほど、俺の習練は足りない。

 こんな手合わせで、大けがをさせたくない。なにより寝覚めが悪い。

いくら自身が、師匠の戯れという名の死線を何度もくぐってきたとは言え、現代日本人の感性はそう簡単には消えない。


「気にするな、と言いたいところが。それで本気を出せるというなら(やぶさ)かではない」

「助かる」

「ただし、セルウィック王子との決闘の時には、そんなこと言ってられないぞ」

「心得ている」


 そうだ。

 本番は、最悪の事態も想定しなければならない。

 ただ、今は目の前の相手に集中。


「連理の魔法、防護服(ザ プロテクティブ)。安心して全力を出してくれるがいい。連理の魔法なしにこれを破った者はいない。少しでも私に傷を負わせたら、文句なしで合格だ」


 なら、こちらも。


「魔素機関3番、点火」


 右腕の人工(じんこう)(けん)がピクピクと反応を見せる。あとは、特定のモーションで自動的に効果を発揮してくれる状態だ。

 行くぞ。


「っ――」


 駆ける。

 ステップなんて無視した、最高速の直進。


 そして衝突するかどうか。

 その瞬間、俺は剣を投げつける。


 不意をつけるとは思っていない。

 そもそも彼女は防御行動をする必要はない。高速化した視覚情報から、彼女の反応が見て取れる。

 彼女は投げつけられた剣の対応は、連理の魔法、防護服(ザ プロテクティブ)に丸投げしている。そして、防御や回避行動の代わりに、俺への攻撃にうつる。彼女の剣がせまる。


 想定通り。

 彼女に魔法を使わせたのは、この理由もあった。俺の攻撃に対して無理が出来るように。


 俺が投げつけた剣の目標は頭。

 魔法によってその攻撃が防がれる瞬間、その剣は彼女の目の前で静止する。

 つまりは、目くらまし。


 すぐさま目的に気付いたミリアは盾でその剣を払う。

 しかし、そのコンマ何秒かが命取り。


 俺は軽く左に飛ぶと。

 右手で腰の刀の()を握る。


 最初から本命の武器はこちら。

 いくつもの剣術を使う俺であるが、本命の攻撃手段は一つだけ。

 それは。


 居合術(いあいじゅつ)


 抜刀(ばっとう)のモーションのまま、相手に斬りかかる剣術である。

 刀が鞘から抜かれるとき、疑似的なテコの原理が成立し、加速する。

 加えて魔素機関3番。俺の右腕は一時的にリミッターが外され、超人的な加速を可能とする。


 この相乗効果で、刀は最高速に達する。

 ミリアの反応を間に合わせない。剣先は首筋に迫る。


 そして、速さは威力にもつながる。


 キィィィン。

 金属どうしがぶつかったような甲高い衝突音が訓練場に響く。


 その後、数秒の静寂を待って、ミリアが一言。


「合格だ」


 彼女の首筋には、赤い線が細く伸びていた。

 かすり傷程度。しかし、連理の魔法を打ち破った証拠には違いはなかった。




 パチパチパチ。

 場違いな拍手が一人分、聞こえた。

 その音のもとには中年男性。


「お見事。ミリアが一本取られるところなんて久しぶりに見たよ」


 そう言って、男性は近寄ってくる。


「初めまして、センスケくん。僕はこの国の宰相で、ミリアの旦那のエドワード。気軽に、エドと呼んでくれ」


 握手を求められ、それに応じる。


「恥ずかしいところを見られたな、エド」


 そう苦笑いするのはミリア。


「センスケくんはどうだったかい」

「大した男だよ。完全に自分を理解し、出来ることをする。玄人みたいな戦い方だ。万が一にも負けないだろう。私の太鼓判つきだ、安心していいよ。宰相さん」

「それは吉報。でもあまり褒めすぎないでくれよ。僕も嫉妬しちゃう。特に、僕には武がないからね」


 即座に二人だけの空間が成立する。

 これが、この国で最強格のカップルの親愛度なのか。

 なかば、あっけにとられてそんな様子を見てると、エドワードがこちらを向く。


「そうだ、新しい王子様に用があってね。ミリア、少しセンスケくんを借りていいかい」

「ああ、試験は済んだ。私も王様に報告しに行くよ」


 その答えを聞くと、エドワードは笑顔で俺に詰め寄ってきた。

 そして耳元で誰にも聞かれないようにつぶやく。


「君たちの偽装結婚に、ヒントを言いに来たんだ」



次回は明後日の投稿予定です。

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