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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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愛と恋と蛙 7

そうして舞台は後半へ。

こころはスキャンティの人から出されたご飯を頂いた。

「うっ!?」

「ふっ、不味いだろう?こんなご飯とも呼べないようなものをこの国では一日3回口にできればいい方だ。吐き出さなかっただけ誉めてやろう。では次になぜこのようなものを食べているのか教えてやろう。」

『スキャンティの国はかつて自然豊かな地でした。両国がまだ分かれる前までは農業のスキャンティ、工業のアフルエンスと言われてました。しかし工業で大きく進んだアフルエンスはより高度の技術を求め、廃油や廃材をスキャンティに繋がる川やその付近の土壌に捨てるようになりました。やがてスキャンティのほとんどの土地は死に絶えました。アフルエンスは他国と武器の交換などにより食料には困りませんでした。そうすればもう国が分かれるのは必然です。』

「......これを貴様が知れば変な考えを起こすやもしれない。だから王宮の外には決して出さなかったのだろう。にしても本当に何も知らなかったのだな。穢れを知らない白い姫君とはよく言ったものだ。俺から言わせれば、ただ王の器としてはめこまれた無知な少女よ。」

『それから2人はスキャンティの様々な箇所を巡りました。市街地や農場、遠目でしたがその戦争の最前線まで。自分で見て、感じたことは今まで教え込まれてきたものとは全く異なりました。スキャンティの住民はみんな狂気的だったり戦闘狂と言われてきましたが、そこで接した人は敵国の元王と言っても事情を話せばみなわかってくれました。そしてそれはアルスが隣に居てくれたことも大きかったです。もしこれで祖国に戻れることになってもきっと喜べないでしょう。』

「私はどうすべきなのですかね。もし祖国に戻っても居場所があるとは思えません。かと言ってこちらの国に寝返るというのも......」

「......」

次に続くセリフは台本通りであるなら「お前はもう俺のものだ。勝手にどこかに行くことなんて許さん。」というセリフが続く。けれど俺はどうしてもこころに考えて欲しいことがあった。それはこころも何となく気付いているはず。けれどそれを見ないように必死になっているだけ。今回この劇はそれを伝えるために最適だった。最悪の形になるかもしれないが。

「......お前はもう籠の中の鳥じゃない。好きなところで好きに生きればいい。だがな、お前はまだこの世界の事を全然知らない。その時初めて抱いた感情を全てだと思うな。......気まぐれに救って、それが俺だっただけだ。たとえそれが俺じゃなくてもきっとお前が抱くものは一緒だと思うぞ。」

舞台袖の人たちが必死に教えようとしてくれているのを無視するのは心苦しいが、このような場でないとこころに上手くはぐらかされ、逃げられてしまうと思う。

正直、このセリフは自分でもクソ野郎だと思う。相手からの好意を「たまたまそれが俺だっただけだよ」と言って拒否するのはクズだと思う。.......だけどそれ以上にこころには幸せになってほしい。もしこころが本当によく考えた上で、それでも俺を好きと言ってくれるのならそれはどんなに嬉しい事か。でも、もし少しでも『私の最愛のペットを命がけで救ってくれたこの人を私は好きなんだ』と言う考えがあるのならばそれは俺である必要は全くない。夢見る少女の理想の王子様なら俺なんかよりずっといい人がたくさんいる。

こころには言葉の意味が通じたらしく、一瞬ショックそうな顔をした後、ずっと俯いてしまっている。観客はきっと「スルーズリーが密かに抱いていた恋心を指摘され、それを否定されショックを受けている」と受け取られているだろう。......まぁ意味としては似たようなものだけれど。


そうして舞台は最終局面へ。クラスの人からは「強引に手中に収めるのも悪くなかったですが、スルーズリーの葛藤を表現できたのでまぁ良かったです」とのこと。勿論みんなに謝罪は入れたが、こころは舞台袖に行った瞬間に「少し集中したい」と控室に行ってしまった。

「やっちまった......。てか少し考えればこうなるって想像つくだろ。ほんっと自分に嫌気さす。なんでこうもっといい方法思いつかないかな。ほんっと「狐神さん、出番お願いしますわ」あっはい。」

『アルフレンスの新たな国王についたスルーズリーの兄は迷いなくスキャンティを潰しにかかりました。全戦力をもって一気に攻め込むと、被害はお互いに出ましたが、僅か一日で町は全壊しました。そして残すはこの王宮のみ。なんとか逃げ延びた市民たちもとても戦えるものではありませんでした。』

「......みな、集まっているな。」

「アルス様......きっと私たちはもう死ぬのですね。」

「......あぁ、すまない。殴りたいものは遠慮なく殴れ、罵りたいものはいくらでも罵れ。こうなってしまったのは全て俺の責任だ。好きにしてくれて構わない。」

『その言葉を受けても、誰もアルスを責めるものなんていませんでした。もしアルスが居なければこの国はもっとずっと早く滅ぼされていました。それにアルスが王としていた時は束の間ではありましたが、みんなその心に生きる希望を見出していたのです。それが未来に繋がることはなくても、決して意味のないものではないはずです。』

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