愛と恋と蛙 4
「それじゃ最初はこちらの縁日から見ていきましょう!」
つい一年ほど前は俺らも中3だったが、なぜだがとても子供じみて見えるな。やっぱり高校生と中学生だとそこらへんから明確に変わってくる。子供から大人への変遷期みたいな。
小さい頃はよく田舎の祭りに行っていたが、次第に行かなくなったな。この前は太陽の手伝いで2回くらい行ったが、どちらも商売目的だし。
「何やりましょっか?.....あ!射的とかどうです!?私得意ですよ!」
「へー、なんならどっちが先に一等取れるか勝負でもしてみるか?」
「いいですよ。でも負けてもちゃんと使ってくださいね?」
「使う?」受け取った銃に弾を込めつつ、一等が何か確認する。なかなか大きなクマのぬいぐるみだった。あまりの大きさゆえ、全弾使っても落とせるか微妙なところ。なるほど、あの大きなぬいぐるみを抱いて寝ろってか。この年の男がそれは恥ずかしいな。
「ま、でもその程度ならいっか。」
しかしそこでこころが係員に目配せをしたのを見逃さなかった。「今丁度新しいものが入ったんですよ」と係員が言うと、急遽、そのクマが二等に降格した。そういえば根回しはしてあると言ってたな。まぁそうはいっても子供の考えだ。おもちゃの指輪だのおそろいの首飾りとかだろう。はいはい、可愛いですね。
そして新たな一等の玉座に君臨したのは......。
「近藤さんはアウトだろ!!」
俺がツッコむより先にこころは銃を乱射していた。
「彼方先輩も早く打ってください!先生に見つかったら一体なんて言われるか.....。三者面談なんか死んでも嫌ですよ。完全に頭おかしい子じゃないですか!?もう一途な可愛い女の子じゃ誤魔化せませんよ。」
「いや全くその通りだよ。つか何でそこまで必死になるんだよ!!こんなことしないでも言ってくれれば.....はっ!?」
俺を見るこころの目はガチだった。気付けば周りに多くの生徒が集まっていた。俺の途中までの発言の続きをニヤニヤしながら待ちわびている。
そして紅潮した顔で恥ずかしそうに「言ってくれれば?」とこころが呟く。
「その......言ってくれれば......いくらでも付き合ってやるよ......。」
「「「キャー!!!キャー!!!」」」
周りはすさまじい黄色の声が弾け、こころはなんか天に召された。耳がはち切れんばかりの声の中、こころにだけ届くような小さな声で呟いた。近藤さんを撃ちながら。
「......しゃ......射的くらい。」
「まぁそんなオチだろうとは思ってました。いいですよ、ゆっくりで。でも先程の言葉は取り消せませんからね、ちゃんと使ってください。」
縁日と言うか、射的しかやらないで出てきてしまった。流石にあそこに居続けるのは嫌だ。賞品として近藤さんをもらったが正直使う予定が全くと言っていいほどない。
「......そういやこれって何なの?水風船?たのしそー、今度遊ぼうぜ。準備から片付けまでやるから。」
「それは大変嬉しいですけど、勿論それを水風船にするのはなしですからね。割れなくて単純に痛そうですし。次はあそこです!!」
まぁですよね。......どうしたものか。
そういってこころが指差した先にあったのはお化け屋敷。それなりに凝っていて少なくても外装だけ見ればちょっと本格っぽく見える。
けどなー。所詮女子中学生のお化け屋敷なんてなー。うちの高校のだって女子は半分コスプレ感覚のようなものだし。まぁきっと『怖いー』ゆうて腕ギュッとして俺を落とす魂胆なのかな。なめられたものだな。
「はーい、九条さんと狐神さんですね。では今からこのお化け屋敷のルールを説明させてもらいます。このお化け屋敷は決まったルートを進んでゴールを目指してもらうものです。」
そんなルールなんて大げさな。
「では次にこちらをつけてください。」
なにこれ?時計?でも針もないし、数字も『62』とかよくわかんないし。
「この腕輪は心拍が100を超えると音が鳴るシステムです。そしてその音に気付いたお化け役、別名徘徊者が全力であなた方を捉えに来ます。正直ほぼ100%助かりません。」
おっと......ちょっとこれは予想外ですね。
「そして徘徊者に捉えられたら狭いロッカーに閉じ込められます。一定時間の経過のみで開きますが、その間ずっとバイノーラル音響という特殊な音を流させてもらいます。まぁ軽いヒーリングミュージックとでも考えてもらえれば。」
要するにリスポーン地点みたいなものかな?よくわからないけど。
「ちなみにルートの進行中に徘徊者に見つかっても同じです。つまり徘徊者に見つからないようにしつつゴールを目指すといったものです。」
お化け屋敷と呼ぶには少し違うと思うけれどなかなか面白そうな感じだな。
「最後に。リタイアは決してできません。これにより精神に障害をきたした場合でも責任は負いかねます。たまに説明のできない事態が生じますが、こちらでは対処しかねます。そしてここでは過去に亡くなられた生徒がいます。......まぁどれも大したものではないですが、一応ここに署名をお願いします。」
「嫌です。」