狼煙の種火 4
式之宮先生に連れられもう何度目かわからない会議室に入る。そこにはうちの担任の遠井先生とうちのクラスの、確か名前を牟田と絹綿と言ったか。どちらも話したことも無い女子だ。
「式之宮先生、狐神を連れてきて頂きありがとうございます。あとは自分のクラスの問題なので。」
と俺に肩を持つであろう邪魔な式之宮先生を排除しようとする。
「いや、だがそれだと……」
「式之宮先生、大丈夫ですよ。俺だって子どもじゃないので。」
これ以上突っ込めばきっと式之宮先生にあらぬ疑いがかけられてしまうかもしれない。これ以上迷惑はかけられない、とは言えないが、迷惑をかけるなら本当にどうしようもなくなった時かけさせてもらう。
俺の表情を見て察してくれたのか、「何かあればいつでも呼んでくれ」とだけ残して行った。
「じゃあ話し合いを始めますか。」
「俺には話し合うような事は何も無いんですけどね。そこの2人はそんな関わり持ったことないですし。えっと、俺がカンニングをしたんでしたっけ?」
そう言って絹綿を見た。確か牟田は頭がよかったとクラスで言われていた気がしたから、そうなると牟田が被害者でさしずめ絹綿がその目撃者みたいな感じかな。席も確か前の方から牟田、俺、絹綿なってるしな。
「そうです。私はこの男が牟田ちゃんの答案を遠くから見ているのを見ました。」
随分と強気だがシルク&コットン、出席番号で並んでるから俺と牟田の席は横にあまりにも離れすぎてるぞ。その間にも何人もいるし、そもそもなんで俺が牟田のを見たと言いきれるのか。
俺と絹綿の口論の間に入るように遠井先生が口を挟む。実際間ではなく限りなく向こうの味方だけどな。
「狐神君に訊きます。まず、あなたがもし本当にカンニングをしたと今認めるのなら、その潔の良さに情状酌量の余地はあります。でもここで認めず、そしてカンニングしたと分かればあなたは退学になるでしょう。どうします?」
……どうしますって。本気で言ってんのか。やったかやってないかじゃないじゃんそんなの。今やったと嘘を吐くか、後でやった事にされるかじゃん。冤罪ってこうやって生まれるんだな。ほんとに学校はいい勉強の場だよ。ついニヤけそうになる。
「どうします?ってそりゃ徹底的に戦いますよ。こっちは勝った所で何も得なんかしませんけど。」
最近まで俺はずっとやられっぱなしだったから、こいつらも『もしかしたら直ぐに認めるかも』と思ってたのか。随分とあほ面してる。
「でも遠井先生、どうやってカンニングをしたかしてないかを判断するんです?監視カメラがある訳でもないですし。」
「訴えられてそれを否定した以上、あなたが反論の材料を集め自分が無実だと証明すればいいじゃない。そんな難しく考える必要がある?」
……は?そんなのこっちが不利すぎるだろ。だったらそっちも絹綿の証言だけじゃなく他の証拠も持ってこいよ。難しく考える必要がある?だと?悪魔の証明なんて考えるまでもなくほぼ不可能なんだよ。
「とはいってもここでその証拠を見せろなんて無茶は流石に言わないわ。そうね、1週間後の終業式にもう一度話し合いましょう。ではこれで。」
その言葉で遠井先生はこの話し合いを締め、そうそうに部屋から出ていった。そして絹綿、特に会議中ずっと黙ってた牟田の方は俺にビビってかビクビクしながら扉へ向かう。
「ちょっと待てよ。」
俺の言葉がそんなに怖かったのか思い切り肩をビクンと震わせる。そして絹綿の方が「何よ」とあくまで強気で俺を睨む。
「誰に指図された。」
「「!!」」
俺の質問に応えず、2人は駆け足で出ていった。
「とまぁそんな感じですね。」
生徒会室に戻った後、式之宮先生に何があったか説明すると、そこにいたみんなも黙って聞き耳を立てていた。ついでに今日から俺はノアさんの手伝いだ。
「カンニングをしてない証明ね。いっそ向こうさんがテスト終わったらすぐ言ってくれたらよかったのにな。そしたら2人の答案を確認すればいいだけなのに。」
確かにそれも考えたが答案がこちらに帰ってきてしまってる以上、牟田と違う答案を見せても「そんなの返ってきてから変えた」と言われてしまえばそれまで。というかそもそもテスト終わって数日経ってるのに今更そんなのを持ってくるのはずるい。時間が経てば証拠だってなくなっていく。
「まぁ死に物狂いでどうにかしますよ。みなさんには迷惑かけないようにするんで気にしないでください。」
実際どうにかなるかは分からないが、何もしないうちから人に頼るのは何となく嫌だった。
して、今日からは副会長のノアさんにお世話になる。
「よろしくお願いします。」
「ええ、こちらこそ。よろしくね。」
鶴もとても人目を引くような姿だが、この人も同じくらいすごいな。外人だろうか。見事なまでの金髪。そして目も日本人離れしてる。というか……。
「?ああ、この目ね、左右で少し違うのよ。左がダークブルーで右がブルーって少し気持ち悪いわよね。うちの家庭代々品種改良してるからたまにこういう風になっちゃうの。」
「なるほど、あ、いや、普通に綺麗ですよ。」
あれ?これってセクハラ?
「ありがとう。じゃ、早速手伝ってもらおうかしら。」
特に嫌な顔はされなかった。