一泊二日の戦い 15
前方の2人が歩き始めたので俺らも後に続く。そしてすぐその絶景ポイントとやらに着いた。そこから見える景色は確かにとても綺麗で、まるで宝石を散りばめたような星空だった。そしてそれを映す湖の水面と相まってまるで宇宙のなかにいるような錯覚さえ覚えた。
「綺麗だな......」
「そうね。素直に綺麗な景色だわ。」
「確かにこんなところで告白でもされたらかなりロマンチックだよな。」
「なんなら今ここで私に告白してみれば?案外雰囲気にのまれてOKするかもしれないわよ?」
「冗談、お前の中にそんな乙女チックなものがまだあるなんて思っちゃいない。」
「……まだ?」
「?お前だって幼い頃は可愛げのある純粋な子供だった時期くらいあったろ。」
「......そうかもね。でも小さい頃のことなんかもう覚えてないわ。」
「まぁそれもそっか。」
前方の2人と十分な距離を離れたと感じた頃にまた俺達は歩き始めた。けれど後半に差し掛かったところあたりで4人まとまって行動しているとまずいので2人ずつに分かれることになった。白花に「あたしと鏡石、どっちにする?」と言われたが、正直どっちもかなり嫌だったが渋々、苦渋の選択の後、鏡石を選んだ。もし戻った際に白花と一緒だとまたみんなになんて言われるかわかったもんじゃない。それに少しだけ話もしたかった。
「雑談ながら話すが、なんで鏡石は白花の下についてんだ?」
「......っさいわよ。」
相当ご立腹だな。白花がいた頃はまだ会話はできてたぞ。でも実際気になるところなんだよな。一緒に居た感じ梶山的な感じでは全然なさそうだし、というかほとんど会話してなかったし。
「……きっと、白花はいつかダメになるだろうな。」
「……?」
「あいつが前に言ってたんだ。『自分はみんなに囲まれるひとりぼっち』ってな。孤独になることさえを許されない。だからいつの日か、本当のあいつを受け入れて、傍で支えられる人と出会えないと、きっと……」
きっと、本当に壊れてしまうだろう。なんの前触れも見せないで。傷だらけの背中のまま、仰向けで空を眺めるように。
「俺はお前のことを全くと言っていいほど知らないが、現状、素顔のあいつを知ってるお前が数少ない支えになりうる人物なんだ。……それだけだ。」
そんな独り言を言いながら、いつの間にか止まっていた鏡石を追い抜かす。
「……残念だけど、あたしじゃ白花さんの力になれない。寧ろ、足枷よ。」
鏡石の方を振り返ると自虐的な笑みを浮かべ空を見ていた。そして1枚の写真を見せてきた。それは女性向け雑誌の表紙。小さく写った鏡石がそこにいた。
「あたしね、モデルになるのが夢だったの。洒落た服着て可愛いメイクして常に時代の最先端ー、みたいな。容姿も悪くないから行けるっしょって思ってて、当日凸ってお願いしたの。白花さんに『一度でいいから斡旋してもらえないか』って。正直チャンスさえあれば後はよゆーだと思ってた。」
なるほど、そのチャンスと引き換えに白花への従属を誓ったってわけか。確かにこいつの容姿と白花の斡旋さえあれば雑誌を作る人も文句は言えないだろう。
「でも完全になめてた。あそこがあんなにも狂気に満ちた世界だなんて思わなかった。常に他人を蹴落とすことと、審査員からの評価しか考えてない世界の頂点で、白花さんが笑っていることが心の底から怖かった。私に向いてないことくらい、見る人が見れば直ぐに分かったっぽいけどね。」
あいつは今やとどまるところを知らないからな。アイドル、モデル、タレント、女優。それを完璧なレベルでこなすのだから知れば知るほど怖くなる。いつからか、憧れは恐れへと変わったのだろう。
「あんたがあたしをどう思おうが知らないけど、あたしはその程度の人間よ。」
俺の返事など聞く気はないらしく、それだけ言うと今度は鏡石が止まった俺を追い抜いていった。
その後は特に何か話すわけでもなく、ゴールへと着いた。帰ってきた鏡石の暗い顔を見て何人かが心配そうに駆け寄っていってた。そして何故か俺がそいつらに睨まれた。
間もなくして白花と梶山も戻ってきた。そこにはさっきとは全く違う笑顔を浮かべた白花がいた。そして何故か梶山は木の葉や砂まみれになっていた。
そうして本当に長かった一日がやっと終わり、寝るための小屋に辿り着く。布団を戸棚から出し、広げて潜る。おやすみなさい。
「あ、狐神、俺のも布団用意しといて。」
小淵が携帯をいじくりながら俺に指示する。これは普通にイラついたのでつい口調を強めてしまった。
「そんくらいの事自分でやれよ。」
「……は?え、何怒ってんの?キモ。つかそのくらいの事って言うならやってくれたっていいだろ。つっかえな。」
何こいつシンプルにうざい。ライフル射撃しか才能ないカス野郎かよ。なんでこいつこんなに偉そうなの?くたばれよ。
これ以上会話をすればきっとケンカになることは容易に想像がつくのでもう寝ることにした。今日は疲れているので早めに眠れそうだ。
「あー!つっかれたー!!え、何で狐神寝てんの?むしろこっからが楽しい時間だろ!!枕投げしようぜ!!そっからトランプとかウノとか!!かー!!テンション上がって来たーー!!」
もう疲れてるって言ってんだろ。というか誰だよ……村上だよな絶対。つーか1人だけ盛り上がりすぎてんの察しろよ。
「いーねー!やろうぜ!!……あ?いやあいつなんか寝かせとけよ。なんか機嫌わりーみたいだし。まぁいても空気悪くなるだけだかんな。おい梶山も吉永も付き合えよ。吉永なんてお前何勉強なんかしてんだよ。」
もう好きにしろ……。
俺らのグループは課題の達成数も多く、上位圏内に入っていると思う。昼御飯の際もそれぞれ手際よく動いていたしそこまでならトップも狙えただろう。けれどその後の俺と鏡石の喧嘩は間違いなく悪い評価に繋がっただろう。採点基準が全く分からないため俺らのグループがどの辺にいるかはもう分からない。それでもやはり上位を狙うチームからすれば邪魔者は極力いないほうがいい。そして個人的に俺に恨みを持つ生徒は少なくない。いい加減慣れても来る。
ピロン。
録画終了のその音に男がびくつく。前にこころにストーキングされたから、最近新しい携帯に変えといて良かった。おかげで暗い部屋でライトをつけなくても映像が撮れる。
「人のカバンに誰とも知らない下着入れるのとかやめてくれない?不潔。……ん?外?わかったよ、そう睨むな。」
外に出ると当然みんな寝静まりとても静かだった。ここで話し合いをすれば先生にもバレてしまうかもしれないので更に場所を移す。
「こんなとこで何してるの?」
超速フラグ回収。その声に2人とも声にならない声が出る。恐らく見回りの教師だろう。「トイレです。」と言い訳が出来ない訳ではないだろうが、こんな真夜中に2人でトイレは怪しまれる。さらにもう1人は女性の下着を持っている。これでは俺まで被害確定だ。
ゆっくりと近づく足音に怯えているとやがて影が現れる。そしてその姿も見えてきた。
「ノ……ア?こんな所で何してんだ。こんな時間に。……あ、ごめん。デリカシーなかった。」
けれどなんで森の中から?この時間なのに満席ということはあるまい。
「別にあなたの考えてることじゃないから平気よ。それよりあなた達こそ何してるの?友達という訳でも、トイレという訳でも無さそうだけれど。」
じゃあノアは本当に何をしていたんだろう。