一泊二日の戦い 13
俺の言葉に斑咬は何故だが気持ち悪い笑みを浮かべる。
「昨日大鵠さんからある程度の事は聞いてるんだよ。これは新生徒会のテストみたいなものだって。だから早めに動いた。お前には無理だが、ろくに警戒されてない永嶺になら薬の入った飲み物出すくらい造作もなかったよ。一応適量の3、4倍入れてはみたがなかなか効果が表れなくて不安だった。けどどうやらあいつの痩せ我慢も大したことなかったな。」
我慢できなかった。立ち上がると斑咬の胸倉を掴み近くの木に押し付ける。そして拳に思い切り力を込めるとそれを振るった。
「……なんでお前は、こうも人の努力を踏みにじる事ことでしか戦えないんだよ!!そんなんで得られた勝利がお前の力なわけないだろ!!」
拳は勢いよく木にぶつかり、そこからは血が滴る。
もしここで俺がこいつを殴りまくれば気は晴れる。けれどそれだとグループにどんな迷惑がいくか分からない。もしかしたらそれが永嶺の努力を踏みにじる事にも繋がりかねない。
ぶっ飛ばしてぇ気持ちを必死に抑える。
「け、結局そうやって直ぐに暴力に走るんだ。やだやだ、これだから知能の低い野猿は。」
それだけ言い残すと斑咬はそそくさと消えていった。
きっと大鵠はここまで含めて俺と永嶺を試したんだ。敢えて斑咬にある程度の情報流して、絶対邪魔することを予期して、それを俺や永嶺がどう解決して行くか。端から斑咬を副会長どころか新規生徒会に入れるつもりもない。けれど利用できるから利用する。
「……やっぱりあんたの下で働きたいとは思えないな。」
やがて落ち着いた頃にはお風呂の時間をだいぶ過ぎていた。急いで小屋に戻り着替えやタオルを持っていくと風呂場へ向かった。
「やっぱりたまの銭湯みたいなのはいいな。」
俺が入る頃に丁度入れ替わりで大部分が出ていき、中はかなり空いていた。入れる時間はそんなに多くはないが、その代わりに贅沢に湯船を使える。足を伸ばしても怒られない。傷は痛むが心が洗われる。
「……んで何?さっきから。」
さすがに無言でじっと見られては声をかけざるを得ない。しかもそれが一人だけでなく、4人もいれば恐怖を感じるほどだ。まぁ大方、「早く出てけ」みたいな感じなんでしょ。
「狐神は女の裸に興味はあるか?」
「のぼせたなら早く出た方がいいぞ。」
「まぁないわけないよな。白花さん強姦しようとして水仙に痴漢したんだから。」
「だからそれは全部冤罪だっての。……んで?もしかして女子風呂でも覗こうとでもしてんのか?まぁ、いんじゃない?知らんけど。でも俺は面倒事は遠慮させてもらう。」
内輪もめは遠くから見てる分には全然楽しいからな。好きにやってくれ。
そういって風呂から出る。そしてそのまま着替えようと思っていたが、そう上手くは行かなかった。
同じクラスの仲良しトリオ、車谷、旗元、天羽のうち、リーダーの天羽が一度ニヤけた後、大きな声を上げる。
「バカっ!!狐神声がでけぇよ!!女子に聞かれるだろ!!」
……は?……え?何どういうこと?俺の声そんなでかかった?いや絶対お前の方がデカいだろ。普通に女子の方まで届いてるし。……あー、なるほど。してやられた。
俺の理解が間に合ったところで女子の方からも怒りの声が届く。こっちと向こうは壁こそあるが、大きな声なら向こうにも届くらしい。
「おい狐神!!お前もし覗きにでもきたらぶっ潰すからな!!」
多分今のは相川だろうな。ここで「お前らの裸体なんて興味無い」と言うのは簡単だが、さっきのこいつらと同じような返答をもらうだろう。それならどうするか、今すぐ出ていくか、ギリギリまで残るか。……今すぐ出ていくとまるで図星って言ってるようだし、女子が風呂出た後に俺も出れば疑いも晴れるか。
仕方がないのでまた湯船に肩までつける。そこに先程の3人と遠くから見ていた吉永が集まってくる。
「あのさ、先に言っておくが俺は覗く気なんてさらさらないぞ。向こうの連中が出るまで待つだけだ。」
「まぁとりあえず聞けよ。それから考えるのも悪かねぇだろ?まず誰か一人がこの後女子の更衣室に入る。そうすれば当然女子は怒り全員でそいつを追いかけ回す。つまりその間更衣室には誰もいないことになる。」
「あのさ、誰かって誰?てかなんでとりあえずで女子の更衣室入るの?そもそも「うるせぇ!人の話は最後まで聞け!!」」
顔面に水を掛けられ無理矢理黙らせられる。
「そして誰もいなくなった更衣室で……後はわかるよな?」
「さっぱりですわ。」
何故だが俺の言葉に車谷がキレ、壁ドンをされた。
「これは遊びじゃないんだぞ!しくったら停学に反省文、最悪退学だってあるんだぞ。……そんな生半可な気持ちの奴がここにいるんじゃねぇよ!」
ちょっと唾。
「そんなに女の裸見たいならインターネットとかにあるんじゃないのか?AV? だっけ?そっちの方がより扇情的になれるだろ。プロの人なんでしょ?」
「それだと論点がズレる。確かにああいうのもめちゃくちゃ大好物だが、台本のない素人のものだからこそ、新たな知見を見いだせると思っている。」.
「なんかめんどくさいからもう出るわ。」
「何逃げてんだよ腰抜けぇ!!お前の覚悟はその程度だったのかよ!?」
あのさぁ……。
一応彼らの作戦をまとめると覆面をした誰かが女子更衣室に侵入。女子がそれを見て追いかけ回す。そして誰もいなくなった更衣室に他3人が侵入。女子が着ていた体操服を全てこちらが準備していた新品のものとすり替える。その後撤退。体操服の分配はは合宿後に決めるとする。
「時間の無駄でしかない。なんであいつらの汗だの香水くさい服をわざわざ取らなきゃいけないんだよ。それにお前らさ、その『覆面をした誰か』って絶対俺になるってわかって誘ってんだろ。」
「……バレてしまっては仕方ない。……だがいいのか?」
何かクソ下らないことを言いそうだったが一応聞いておくか。
「……何が?」
「つまり更衣室に行けば、もしかしたら白花さんの裸体が見れるかもしれないんだぞ!!」
「見たことあるからいいわ。」