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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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一泊二日の戦い 12

「でも狐神君も冷えた体を温めるためにすぐにでもお風呂とかに入って欲しいのよね。永嶺さんはそうはいかないけれど。」

時間を確認してみるが今お風呂に入っているのは3組。俺ら7組が入るまであと一時間はある。お腹もそれなりに減ってきたから先にご飯を食べてお風呂に入れば丁度いい感じの時間になるかな。

「正直お腹もかなり減ったんでご飯作って食べたらお風呂に入ります。」

「そう、わかった。それならせめて暖かい格好をしてね。......それとね。」

扉に手を掛け、もう出ようとする俺の前に真弓先生が寄って来た。その顔は色々な感情が混ざったようなものだった。そして手当てされた手が優しく包まれる。

「あなたは友達のためにここまでできるとても優しい人よ。......でもそれと同じくらい、自分にも優しくしてあげて。」

「......それは、難しいです。」


部屋を出るとみんなが料理をしている調理場へと向かった。靴がびしょびしょなので、使ってなかったサンダルを借りる。

「おい、お前今までどこで油売って……どしたその傷?大丈夫か?」

吉永に鬼の形相で詰められたが、直ぐに体の傷に気づいて心配してくれた。思いの外こいつ良い奴なのか?

「あー、ちょっと永嶺を探しに行ってたらちょっと斜面転げ落ちちゃって......」

「ちょっといいかしら。」

俺たちの会話に入ってきたのは遠井先生だった。みんなは少し緊張していたが、内容は何となく分かっていたので俺はそこまで気張らなかった。

「今保健の真弓先生から連絡がありました。永嶺さんが見つかったそうで、今休ませています。けれど今日は勿論、恐らく明日も体調が優れないため休むと思われます。そのためグループワークなどもこの5人で進めるように。......それと、先程の最後のグループワークは永嶺さん除く5人は合格していた為、グループとしても合格とします。」

最後のセリフは俺を見ながら言っていた。遠井先生からしては俺の発言がまんま的中して不思議に思っているだろう。してやったり。

とりあえずその言葉にみんな喜びと安堵を浮かべていた。......一人を除いては。

「あんたさ、誰よりも早くゴール申請出したんだってね。」

いつものようなバカみたいな笑顔はそこになく、睨みつけるように俺を見る。俺もそんな態度に表情が険しくなる。

「さっちゃん探してて怪我したって言ってたけど、ホントはその辺で遊んでたとかじゃないの?」

「遊んでなんかいない。寧ろ俺が永嶺をここまで連れてきた。」

「は?そんな嘘であたし騙せると思ってんの?あたしよりバカなんじゃないの?それよかあたしがキレてる理由わかってんの?」

あまり広くない調理場では嫌でもこの会話がみんなの耳に届く。

馬鹿正直に言ったところで信じてもらえないとはわかっていた。実際周りが見ていたところで動機なんて見つかるわけもないしな。で、何だっけ?こいつが怒ってる理由?知ったことか。

「みんなと一緒に待たなかったこととか?」

「一人だけ早くに保身に走って仲間を見捨てたことよ。」

は?いや、結局お前だって最終的には申請出しただろ。ならタイミングこそ違うが同じ穴の狢だろ。これで最後まで申請出さなかったのならその愚直な友情を褒め称えるけれど。そんなもんどうせないんだろ。

「俺からすればみんなで何にもせずボケーっと馬鹿みたいに帰りを待つんじゃなくて、早めに申請出して探しに行ったほうがよっぽど友情を感じるけどな。まぁ所詮お前らの友情なんてそんなもんなんだろ。」

どうやら向こうは返す言葉はなく、ただ悔しそうにこっちを睨みつけるだけだった。その後「死ねっ!!」と一発俺の頬を叩くと他のグループの女子に囲まれながらどこかへ行った。周りの目は俺を非難するものがほとんどだった。

「随分とキツイ言い方をするんだね。」

「梶山も俺の事嫌いになったか?......いや、もともと嫌いか。」

自虐的にそんなことを言ってみる。梶山はすぐには答えなかった。

「......少なくても今日君と一緒に居て感じなかったものがないわわけじゃない。それにさっきの狐神君の意見は間違ってはいないと思う。僕たちのあの判断は正解ではなかった。鏡石さんもそれをわかっていたから押し黙っちゃったんだと思う。」

分かってる。世の中そんなに簡単だったならこんなにも苦労していない。

「狐神君は正しかったと思う。けどだからって間違った人に正論を叩きつけるのは『正しい、間違い』というより『善悪』や『いい、嫌だ』といった道徳的な問題になってくるんじゃないかな。」

その後4人で食べた夕飯はあまり美味しくなかった。味など分からないけれど不味く感じた。料理にはそれなりに自信があったつもりでいた、今更嫌われることにも慣れていたつもりだった。

行動班の活動は夕飯までだったので食器を片付け終わるとそこで解散となった。お風呂まで時間がもう少しあったので少し宿泊小屋ででも休もうと思った。

「......何しに来た。」

宿泊小屋からだいぶ離れた見通しの良い開けた場所に腰を降ろしていた。小屋には既に誰かがおり、ここなら誰も来ないと思っていたんだが。

「そんな怖い顔すんなよ狐神。少し話があるだけだ。」

そんな言葉に何も返さないと後ろから舌打ちが聞こえた。けれどそれも無視すると斑咬は勝手に話し始めた。

「今回の合宿、大鵠さんは俺らの事をテストしてるらしいぜ。」

そんなのだいぶ前に禦王殘に教えてもらったわ。

「そして結果次第では俺を副会長にしてくれるらしい。」

嘘に決まってんだろ。いつまで騙されれば気が付くんだよ。

「でだ。その結果ってやつが気になっててな。多分クラスで一番いい結果出せばいいって馬鹿なお前は考えてんだろ?でも俺は違う。新規生徒会役員のお前と永嶺より優位に立てばいいだけなんだよ!」

「はぁ。で?」

もし大鵠がいなかったら俺はこんな奴にも逆らえなかったのか。そこだけ言えば感謝だな。俺も大きな態度が取れるってもんだ。

「......そうやって余裕ぶってんのも今のうちだ。お前らよりいい結果出して大鵠さんに認めてもらって、お前を速攻で首にして妹の事晒してめちゃくちゃにしてやるよ。」

「......だからさ、できるものならやってみろっつってんだろ。」

睨みを効かせると少しビビったらしく若干後ろに後ずさりする。

「でも実際に永嶺は熱でろくに動けないだろ。だったら後は取るに足らないお前だけだろ。」

確かに俺はそんな大したやつじゃないけど、お前も大概だと思うがな。......つかちょっと待て。

「おい、何で永嶺が熱って知ってんだよ。遠井先生は体調が優れないとしか言ってないぞ。」


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