狼煙の種火 3
そしてまた別日。鶴のところでの武者修行は終わり、今度は春風さんのところで働く。会計だから恐らく予算の調整とかお金の管理だろう。なんだかとても細そうな事を求められそう。
「あんまり教える気出ないなぁ。うん、まぁ生徒会には入りたければ入れば?女子は鶴ちゃんとノアちゃんいれば満足だし。」
「でも春風さん今彼女に無様に振られて暇なんですよね?瀬田さんが言ってました。ちなみに『鶴とノアが生徒会入った初日に告って玉砕して草生えたw』とも言ってました。」
「あいつ……わかった。じゃあ少しだけ狐神君に手伝ってもらうとするよ。」
瀬田さんの言われた通りにやったらいけたな。この人はプライドが高いから、少し馬鹿にしたような事を言うとそれに対抗してこっちの提案にも乗ってくれると。よくわかってるなぁ。これを絆というか掌握というかは知らないが。
そして頼まれたのが前年度のそれぞれの行事に使う予算の確認。とても細かい所まで書かれておりそれを電卓で地道に計算し、去年のものと比較。誤差を1項目事に書きトータルを出す。開始15分位で春風さんは寝てしまい、その後3時間起きることはなかった。
「もう帰宅時間ですよ。」
ずっと寝てしまっていた春風を揺さぶりながら起こす。鶴も途中までいたが用事があるからと帰った。他の人は来ていなかった。
「なんで裏切ったんだよ……」
そんな寝言を言う。未だにその彼女に未練があったのだろうか。夢に見るほどとは。あんまり追及するのも何だか悪い気がしたので春風さんの荷物も持って何とか帰路に着いた。
翌日、昨日纏めた書類を持って式之宮先生の所へ行き、その報告をした。先生は終始真剣に聞いてくれて少しだけやりがいを感じることができた。その後少しの質問とアドバイスをもらいその日の業務は終わった。
「やや強引にいれてしまったが君が楽しそうでよかった。」
「そんなわけないでしょう。こんな雑務やらされてだいぶ疲れてるんですけど。」
「少なくても戻ってきたてよりかはずっとマシな顔になったよ。やっぱり居場所を与えられると人は変わるものだな。」
何だかこういうのは苦手なので軽くお辞儀をして部屋を出た。元々春風さんはあまり教える気はなかったので、とりあえず会計の仕事はこれで終わりとのこと。次は副会長の補佐だがどちらから行った方がいいだろうか。
「……多分行くとしたらノアちゃんの方がいいと思うけど、その前にテストがあるよ?」
確かに言われればもうすぐ期末テストだな。生徒会も部活と同じく一週間前から休みになるのか。つまり1週間休みか。
「……だいたい一週間前から活動は休止。でもなんか生徒会たるもの生徒の模倣とならなければいけない、とかで全科目75点以上は取らないといけないらしいよ。」
その日から俺の目に光は消えた。
それから1週間、死ぬほど勉強をした。語るべきことなどない。この学校は前に言ったがかなり大きい高校で色んな生徒がいる。けれど立地が良かったり、部活の多様性や強さなどからかなり人気。故に入学してくる人はだいたい頭がいいのだ。しかもまだ入学してあまり経っていないのだから、みんなまだ入試の時とあまり変わらないくらい頭の状態がいい。だからほんとに頑張った。どのくらいかと言うとテストが終わった日の放課後、過労でぶっ倒れ保健室に運ばれたくらい。
「情けない。」
「とりあえず原因は勉強のし過ぎからの過労で間違いないわね。しばらく寝てなさい。にしても生徒会役員は大変ね、そんなノルマあるなんて。」
高校になると授業を受けたくない生徒がよく保健室に蔓延ると聞くが、今はテスト明けの放課後。保健室の先生、真弓先生以外は俺しかいない。
「先生は俺の事無下に扱わないんですか。わざわざ話し相手にならなくても大人しく寝てますよ。」
「医療に携わるものとして、相手が誰であろうと死力を尽くして救う。もし仮に狐神君が犯罪者だとしても。私は噂なんかより自分の目で見て確かめたいわ。」
リンゴを手際よく剥いていきトン、トンと音を響かせ、やがて1皿分のリンゴとみかんをもらった。過労に効くかどうかは分からないがとりあえず美味しかった。
「俺は何の才能もないから、愚直に努力することしかできないんです。」
「絶え間ない努力ができることも立派な才能よ。食べ終わったのならもう寝てなさい。」
そういい周りのカーテンを閉める。
それでは先生の言葉に従って寝るとするか。
先生達の仕事はすごいもので1800人近い生徒のテストを分配してるとはいえ、次の授業までには採点が終わっている。人気の高い学校としての体裁があるので教師陣もそれなりのものを求められる。あとついでに高得点者ベスト30が各学年で発表される。
そして俺のテストも帰ってきた。その結果。
「ふはー。」
一番不安だった物理が76点と危なかったが、どれも何とかボーダーを超えていた。というかこれ結構高いしもしかしたらベスト30に乗っているのではないか?
少し心踊らせながら遠くからその貼り紙を眺めた。うちの学校の1、2年生は11科目のテストが実施され計1100点満点で示される。俺は合計891点。丁度平均81点となかなか高いと思うが。
『30位 955点』
「帰ろ。」
帰るというのは嘘だが、今日から生徒会がまた動き始める。とりあえずまだ生徒会にいれるということでほんの少し落ちた気持ちを切り替え足を向ける。
「狐神。ちょっといいか。」
足を向けた先に深刻そうな顔をした式之宮先生が立っていた。その顔に切り替えた気持ちに不安が広がる。そして先生の次の言葉を待つ。
「狐神に今、カンニングの疑惑をかけられる。」