一泊二日の戦い 7
「何とご褒美は『学食二週間分!』いやー、うちの学食めっちゃおいしいんだけど高いのがねー。単純計算一食千円くらいだから14日分で一万四千円くらいだね。あ、土日はちゃんと省かれてるから平日14日分っていった方がいいか。食費を親に出してもらってる生徒なら一万四千円を好きに使えるね。」
その褒美に一年生がざわめく。今までやる気のなかった生徒も見違えるほどだ。高校生にその額はなかなか大きい。大鵠は一気に一年生の心をつかみ取った。
「けど逆に成績の良くなかったところには悪いけど補習を受けてもらうよ。でもそれで自分が少しでも賢くなるならね。で、みんなどうかな?今までの何の報酬もない勉強会と、俺の提案した切磋琢磨し合う合宿、どっちがいい?」
そんなものわざわざ訊くまでもない。ほとんどの一年生は大鵠の提案したものに賛成した。先生たちだって何も言わないからきっと大鵠の意見がいいことくらいわかってるんだ。
そしてこれはきっと次の選挙に向けた大鵠の印象付けだろう。大鵠の掲げる『完全実力制度』。今回のはそれのごく簡易的なものだろう。ペナルティだって重くはない。そうして選挙の時、一年生からは『合宿の時みたいなものだろう』と思わせ票を集める。
「永嶺はどう思った?」
一応仲間となっている永嶺に伺ってみた。本人は大鵠の登場にびっくりしているのか、少し返答が遅かった。
「......ん?ああ、話すのが本当にうまいよね~。大部分の生徒は褒美の方ばっか気にして細かいことは全く聞いてないよ。」
「永嶺は大鵠さんが来ること知ってたの?」
「学校にいるのが見えたからね~。でもここまで大きく出てくるとは思わなかった。これは生徒会長に向けて大きく一歩前進かな~」
「......そうだな。」
本人の登場ではなく、提案の方にびっくりした?のか?
大鵠はその後先生たちと何か話し合いをした後大人しく帰ったが、残していったものは大きかった。最初のテストからみなのやる気はMAXで、テストが終わった後にすぐ答え合わせをしている生徒が多く見られた。きっと大鵠が来ていなかったら今頃みんな遊び呆けているだろう。ここまで見れば大鵠のやった事はいいことばかりで一年生にはさぞ好感的に映っているだろう。裏で何を考えているかは知らずに。
「ちょっと、焦げてない?」
「え……あ、焦げてますね。」
「何考え事してるかはわからないけどしっかりしてよ。普通に料理は上手いんだから。」
「どうも。」
主に料理ができる俺と牟田が料理番に立ち、永嶺と梶山がそのサポート、他2人が皿洗いや食卓の準備を行った。なんだかんだ他の班より連携がとれており、早めに料理にありつけた。遠井先生もそれに感心しているのか、時々視線を感じた。
「うちらは頭よくないから罰を受けないのが必死かなー。牟田ちゃんと梶山君にはごめんなさいしとくわ。」
「右に同じ、すまねぇ。」
みんなでテストの結果を報告した。案の定鏡石と吉永が足を引っ張る結果となり、褒美をもらうのは少し難しそうだ。けれど梶山と牟田はトップクラスに成績がよく、俺と永嶺も平均より上。頑張り次第では可能性は全然ある。別に褒美を欲しいとは思わないがあって困るものではない。
とりあえずこの後の昼休みは鏡石のお願いによりみんなで集まって勉強会をすることになった。俺はみんなより少し早めに食べ終わったので一人そこらへんをぶらぶらしていた。
「狐神。」
後ろからそう呼ばれ、振り返ってみるとそこには珍しく少し難しそうな顔をした禦王殘がいた。
「どうしたの?そんな不安そうな顔して。」
「あー、少し心配だったからな。」
どういう意味だろう。もしかしてクラスで友達がいない俺を心配してくれてそういってくれてるのかな。その優しさ、痛み入ります。
「今回の合宿、お前のことを試す大鵠の試験なんじゃねぇかって思ってな。」
???
「???」
「まず大前提に、新たな生徒会を立てる上で役に立たねぇ雑魚はいらねぇよな。でも実際今のお前の役回りはただ今の生徒会の情報を渡すだけ。こう言っちゃ悪いが誰にでもできる。」
「だからこの合宿で俺自身の成果を出せってこと?」
「俺の勘でしかないけどな」と珍しく弱い口調になっていた。だが少なくても成果を出せば大鵠の俺への評価が上がるのは間違いないだろう。それなら出すことに越したことはない。もしこれで大鵠に見捨てられたとあったら斑咬が何をするか分からないし、俺が考えてもないようなことを大鵠にされるかも分からない。
「まぁ幸いうちは頭がいいメンツの方が多いから良かった。」
しかし禦王殘はその言葉を強く否定した。
「それはちげぇだろうな。大鵠は一言も『勉強で一番いい結果出したら褒美をやる』なんて言ってない。あいつは評価の方法とかを一言も言ってねぇんだよ。事実教師に評価方法を聞いたがそれは教えられないと。」
「つまりこの合宿では何が成績に反映されるか分からないってことか?」
「あいつの掲げる『完全実力制度』それには勉強以外の多くの要素が含まれている。今回もきっと勉強だけじゃない。少なくてもさっきの昼めし作りは評価の対象だろうな。」
なるほどな、遠井先生の視線の正体はそれだったのか。