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青春敗者は戦うことを選ぶ  作者: わたぬき たぬき
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一泊二日の戦い 5

どれくらい時間が経っただろうか。次に目を覚ました時は変わらず海だった。岩にでも打ち付けられたのか、顔に痛みを感じる。けれどその割には血なども出てないようだし、遠くから誰かの声も聞こえた。

「起きろ!!」

お腹に痛みが走る。そして口から海水を反射的に吐き出しそこでようやく意識が覚醒した。

「……あれ?……太陽?」

「泳げるか!?つーか泳げなくても泳げ!」

俺は言われるがまま、陸地を目指して泳いだ。もうこうなってしまえば太陽は俺を見殺しには絶対にしないだろう。仮に俺が死のうとすれば太陽まで道連れになってしまう。それは嫌だ。それにきっと斑咬は飛び込んだところ辺りで帰っただろう。

そうして何とか死ぬ気で陸地まで泳ぎきった。

「お前の両親から連絡があってな、こんな天気の日に行方不明なんて嫌な予感しかしなかった。なんでこんな真似をした。」

さすがにここでいい言い訳なんて思いつかず、場所を変え、斑咬の事を話した。太陽はその間何も言わなかったが、その顔は今までにないほどに怒った様子だった。そして一言「明日の昼、教室へ来い」とだけ言うと家に帰るまで一切口を聞いてくれなかった。


そして翌日の昼、俺と太陽、そして斑咬が集まった。流石にみんながいる教室で話すことでもないので、これまた適当な空き教室に話の場を移す。

「......てのが俺が彼方から聞いた話なんだが、なんか齟齬があるか。」

太陽はかなり怒ってるようだが、まだ話が通じる程冷静さは欠いてないらしい。

「あぁ、ないぜ。でもこれだとどうすっかなー。そいつが自殺しようとしたのは本当だったし、でもお前が助けちゃったせいで「選択肢はまだ残ってるだろ。」……あ?」

その言葉に反応して太陽を見る、がそこには既に太陽はいなかった。

「お前をぶっつぶしゃあいいだけの問題だろ!!」

全体重乗っかった太陽の拳は勢いよく斑咬の体を吹き飛ばし扉に当たるもその扉も壊れ廊下に飛び出す。さらに追い討ちをかけるように斑咬の上に跨ると何発も殴った。

「てめぇみたいに……人の弱み握らなきゃ戦う事も出来ねぇ雑魚が……真っ当に生きてる人間の邪魔すんじゃねぇよ!!」

そう言ってまた一発凄まじいのが入る。もう斑咬の顔は涙や血や鼻水でめちゃくちゃだ。しかしこれ以上は流石に殺しかねないような気がしたので止めに入った。

「太陽、気持ちはありがたいが流石にこれ以上は……」

「分かってる。……だから斑咬、意識あるうちにこれだけは約束しろ。二度とこんな真似すんな。今度は拳を止められる自信が無い。……聞いてんのかぁ!?あぁ!?」

「じまず!!やぐぞぐ、じまずがら!!これ以上は死んじゃう!!」

「......あぁ、てめぇが彼方にやらせたことだろ。」

その後先生が駆けつけ事態は収束へ至った。事情を話せと言われたが、たしか適当なことを言って誤魔化した気がする。所詮中学生の喧嘩か、と先生の中では勝手に完結したらしく表面上の謝罪だけすればそれ以上は何もなかった。


「俺はお前にも怒ってるからな。」

「えっなんで?」

いつもの調子にはまだ戻っておらず、軽く凄まれるだけでもちょっとビクついてしまう。

「無自覚とかマジかよ……。自分の命を真っ先に捨てようとするその自己犠牲精神だよ。お前変なとこで優しすぎんだよな。それに第一、おまえが死んだ後だってあいつが妹の事を話さないって確証はないだろ。」

ん?……あっそうだな。というかあいつなら嬉嬉として言いふらしそう。ほんと人間焦るとまともに頭働かなくなるもんだな。

……でも正直意外ではあった。確かに太陽とは仲はよかったが、あそこまで俺のために怒ってくれるとは思わなかった。俺と違って、太陽にとって俺は友人の中の一人なのに。

そしてそれを本人に訊いてみた。

「斑咬のやったことが許せなかったってのは確かにある。けどそれよりも、お前は優しすぎるから自分の事で人に本気で怒ることが出来ないと思ったから、その代わりに俺がブチ切れた。それだけだ。」

「……ありがとな。俺の分まで。」


それからは前より増して仲が親密になっていった。そしてこれからもそんな関係でいたいと思う。


「……ょっと。……ちょっと、起きなさいよ。……起きて。」

「……む?」

「話の途中で寝ないでよ。それに寝るだけならまだしも肩にもたれかかるのはやめて。不快。」

「マジか、それはほんとにごめん。」

どうやら途中で寝てしまったらしい。確かに昨日はあまり寝られなかったし、朝も早かったからな。というか周りも大体寝てるし。

「てなわけで連絡先、とっとと寄越しなさい。」

最初っから問答無用で貰う気だったくせに。でも多分太陽に嫌なことはしないだろうからいいか。


「あともう一つ、白花さんの事なんだけど。」

その名前が出た瞬間に俺は牟田に静かにするよう指を立てる。今多くの生徒が寝て静かになってるバスの中、もし白花に聞こえていたらたまらなく面倒なことになる。

「すまん、白花に聞こえたらまずいから小声で話すけどな。前にさりげなく聞いたんだが多分違うと思う。まぁ正直俺の主観だから信じられないかもしれないが。」

白花がみんなの人気のアイドルでなくては俺も困る。そのために白花に疑いを持ってるとこいつは正直邪魔だ。前の忠告で一応怪しげな不審な行動は取らせないようしているが、その分こちらに飛び火が来るのは嫌だ。

「そ、まぁもしかしたら私の考えすぎだったかもしれないしね。」


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