仲間への裏切り 10
「そう言えば前に言っていた『伝言』っていうのはどうなったんですか?失敗に終わったってことはそれを伝えないでいいんですか?」
そんな俺の発言に大鵠を除く全員が興味あるらしく、返答を待った。
「うん、伝えなくていいよ。内容も信憑性もイマイチないようなものものだからね。」
けれどそこに一藤が突っ掛かった。
「大鵠さん。僕達はその内容の興味があるんですよ。言われなくても分かりますよね?あなたがわざわざ隠すような事なら尚更興味が湧いてきます。何ですか?その『伝言』て?教えてくださいよ仲間でしょう?」
「……。まぁ確かにこれからよろしくやっていこうとしてるメンバーにあまり隠し事は良くないか。」
そう言ってわざと一呼吸おき、無駄に緊張感を煽る。
「生徒会に不明瞭な金の動きがある。正直ただの偶然とか書類ミスの可能性も大いにある。けどもしそれが誰かの手によるものなら笑えないくらいに上手く隠してる。そしてそれは今年の代から始まっている。」
それは……つまり……。
「俺は今の生徒会に裏切り者がいると考えている。」
大鵠は俺の目を見てそう言った。
その話はそこで終わり、今日のところは解散となった。「最初の日は想像以上に体は疲れてるからね。」とのこと。もっと詳しい事も聞きたかったがそれ以上は何も言ってくれなかった。
帰り道は何故だか永嶺と一緒だった。
「どうして永嶺は大鵠さんのグループに入ろうと思ったの?」
クラスで話せるような内容でもないし、正直かなり気になるところなので質問してみた。
「ん?いや〜、やっぱり一回コッキリの青春だからさ?楽しいことしたいな〜って。そんなふわふわした理由だよ。」
「それだけ?」
「あはは!信用ないな〜。まぁそれもしょうがないか。ひかりんやみおーちゃんの話聞いて私の中だと株は上がったけど、言った言葉は取り消せないもんね。でも謝る事はできるよね、ごめんなさい。」
そう言って頭を下げる永嶺。正直反応に困る。
「あー、別にいいよ。あんまり気にしてないし。」
そこで会話が途切れてしまい何となく気まずい空気が流れる。こういう時共通の話題なんか出せば盛り上がるのかもしれないが、なんだろ、やっぱり水仙の事とかかな?
「大鵠さんの指針、狐神君的にどう思った?」
向こうからそう質問された。馬鹿正直に「絶対やだ。」というのは論外だし、「感銘を受けました。」なんて言っても逆に怪しい気もするし。若干グレーな感じがいいのかな。
「基本的に賛成だよ。ただあまりにも下のクラスへの罰が苦しすぎると思うからもう少し緩めた方がいいかなとは個人的に思うくらい。永嶺は?」
うん、まぁこんな感じでええやろ。
永嶺をふと見ると、彼女はまるで俺を観察するように俺を見ていた。観察と言うよりかは試すと言った方が近いのか。
「そうなんだ〜。……あぁ、私は別に何か目立つ長所も短所もないから多分真ん中くらいになると思うんだよね〜。だから多分そこまで今と大して変わり映えはしないと思うな。でも、少なくても今よりは刺激的な毎日を送れると思うんだな。」
要は今の学園生活は退屈だから刺激が欲しいと。いいじゃないか、平穏。ウェルカム、安寧。何となく永嶺とは俺と似ているようなものがあったような気がしたんだけどな。革新派だったか。
「......あ、そうだ。俺この後ちょっと寄るところあるからこの辺で。」
すっかり今晩の食事を忘れていた。
「そっか、寂しいな~。おっ?あれはひかりんともみじん?あ、じゃあ今日はこの辺で、じゃね~」
そう言って永嶺は二人の女子の元へ駆けていった。一人はだいぶ前に関わった絹綿月明。そしてもう一人は今後関わりがあるであろう我がクラスカースト最上位のギャル系女子。鏡石椛。ウェイウェイやってるくせに化粧などは多分ほとんどやってなく顔面偏差値はかなり高い。黙ってれば清楚なお嬢様みたいな。喋れば野猿。一体あんなやつとどうやって話したものか。
「あれー、さっちゃんじゃん!どしたん一人身?」
「ん?んーん、さっきまでは狐神君と一緒だったんだけど、狐神君寄るところあるってさっき別れたんだ~。ほら、あそこに居るよ。......あれ?いなくなっちゃった。」
おい馬鹿ふざけんな。なんとなく嫌な予感して隠れといてよかった。
「ちょー!急にそんなダブルの意味のホラーやめてよ!狐神と一緒に帰るとかマジ怖すぎて死んだほうがマシだわ。」
あ?言ったなてめー、じゃあもし今後俺と帰るみたいな状況になったら死ねよ?なんなら俺が殺してやろうか?
「......今晩どうしよ。」
「生徒会を裏切るようだな。」
「いや……その……なんと言いますか……」
何となくこうなることは予想出来ていたが、心の準備というものは欲しいところ。どうやって謝罪に行こうか考えてたら瀬田さんから来るのだから随分と焦った。
「まぁ事情は鶴とノアから聞いてる。それに関して咎める気はない。けどな……相談くらいして欲しかったな。」
「それは、迷惑をかけたくなくて……」
……違うか。いや、違うと言うよりかはそれだけでない。上手く言葉に出来ないけど、自分で解決しなきゃいけないという気持ちや、何から何まで人の力を借りなきゃ何も出来ないような人にはなりたくない、なんて言葉だけは立派なことを言う小さな人間の言い訳だ。
すると瀬田会長は「ばーか」と俺の頭を軽く叩く。
「その程度迷惑でも何でもないしな、前にも似たような事言ったが、後輩なんだから迷惑かけてなんぼだろ。」