仲間への裏切り 9
生徒会のみんなに声を掛けようと生徒会室に向かったが、その途中大鵠が待ち構えていた。
「その顔を見ると、どうやら答えは決まったらしいね。」
「……そうですね。あなたのサポートを全力でやらせてもらいます。」
「うん、よろしくね。」と握手をすると、大鵠は俺を早速新しいメンバーに会わせるため歩いていった。俺が生徒会に声を掛ける時間はなかった。
どうやら俺がこっちにつくことは分かっていたようだ。
俺は大鵠の背を追う前に、遠くに見える生徒会室に頭を下げた。
不本意とはいえ恩人と仲間に真っ向から対立するんだ。
「すみません、これが終わったらどんな罰だって受けます。だから、少しだけ……さようなら。」
頭を上げると大鵠の方へ駆け出した。
「もう狐神君以外のメンバーは揃ってるんだ。メンバーは多分知ってるよね。俺に、夏川、壬生、一藤、そして永嶺だ。」
「えっと、斑咬がいないのと、永嶺って多分うちのクラスのですよね?あいつがメンバーなのは意外でした。理由とか教えてもらってもいいですか?」
何となく斑咬がいないのは分からなくもない。見るからに足引っ張りそうだし、目を見張るような才能があるとも思えない。永嶺は確かに前に生徒会に入りたいと言っていたのは覚えてる。けれどそれだけでこの人があいつを採用するとは思えない。
「斑咬は単純にもう用がないからなんだよね。君をこっちに引き込むきっかけが欲しかっただけだし。あ、安心して。妹さんについては決して話さないように約束させたから。困るよね、人の秘密をいつまでも握って脅してくる奴。」
何となく斑咬を黙らせたというのは本当な気がする。けれどそれで安心しろっていうのはさすがに無理だ。より不安なこの人に知られたのだから。
「永嶺さんは単純に立候補してきたからだよ。勿論方針についても知らせてある。その上で了承してもらったよ。」
いや、それで納得はできないわ。
「あの、気分悪くしたら申し訳ないんですこど、もう少し何か採用した理由とかあったのでは?」
そう訊くと珍しく言葉を探すように「んー……」と言い淀んだ。いや、珍しくっていうほど関わりはないが。
「なんて言うのかな、俺の方針を聞かせると大体の人は明らかに嫌な顔するか、すごく共感持ってもらえるかなんだけど、彼女は「いいですね〜」くらいだったんだよね。結構人を見る目には自信あるつもり何だけど、彼女、言葉の割には別の強い意志持ってそうなんだよね。まぁ志望理由は本人に訊いて。」
「はぁ、まぁ言葉にできないものってありますもんね。ありがとうございます。」
……あれ?でもそういや大鵠の存在って一年生は知らないはずじゃ?俺や鶴たちは別にしても永嶺さんはなんで知ってるんだ?大鵠から永嶺にアプローチかけたならわかるが。
そんな話が終わると空き教室に着いた。ここに先程言われたメンバーが揃っているのだろう。ほとんどが知ってはいるが面識は全くない。正直緊張する。
今度は式之宮先生に無理やり、ではなく自分の手でその扉を開ける。
「はいみんな集合。はい、彼が狐神君だよ。みんな仲良くお願いね。」
「……えとー、一年七組の狐神彼方と言います。よろしくお願いします。」
「こっちから壬生、夏川、一藤、永嶺。」
「よろしくな!」とうるさい声の壬生。「どうも…」と静かな感じの夏川。「同じ一年の一藤です。これから長い付き合いになるかと思いますがどうぞよろしくです。あ、もしかして僕の事もう知ってますか?禦王殘君と知り合いですもんね。」とすごい話しかけてくる一藤。「最近狐神君の好感度が上がってきてる永嶺さんだよ〜。」といつもどおりの永嶺。なかなかここも個性の強い人達が集まっているな、というのが感想だった。
とりあえず紹介はそのくらいらしく、促された席に座ると早速話し合いが始められた。
「みんなも知っての通り、いよいよ生徒会長の交代の時期が冬休み前とわかった。そしてその時に俺たちは理想のため、生徒会を乗っ取る事を企てた。掲げる理想は『完全実力主義』全てがその人の能力のみで順位付けされる体制。ここまでのあらすじはいいかな、狐神君?」
「はい。」と頷き話が進む。
「そのためには春風さん、瀬田さんを除く三人を何とか追い出さなくてはならない。けれどここには大きな問題がある。そうだよね?夏川?」
「そうね。少なくても単純スペックなら私たちに勝ち目なんてない。彼らはこの学校の中でも群を抜いている。そしてそれに驕ることもしない。2年の票は集められても、1年の票はまず向こうに行くでしょう。今の1年生はそもそもほとんど大鵠の事を知らないのだから。」
2年の票は集められる、という自信は恐らく、瀬田会長が前に言っていたあの脅迫紛いのメッセージからだろう。きっともう2年のほとんどが大鵠の言うことに従わざるおえない状況なのだろう。詳しくは知らないが。
「一つ質問なんですけど〜、3年生は投票に参加するんですか?もし参加するなら絶対向こうに入れるじゃないですか。」
「そこはまだ分からない。けれど多分参加するだろうね。そしてそうなれば3年と2年の票数は互角、ともなれば一年の半数以上の票がどうしたって必要になる。さてそれをどうしようかと考えた結果、向こうを陥れようと思ったがこれは失敗に終わった。」
 




