狼煙の種火 2
「おほっ。少しはまともな顔になったじゃねぇか。」
「最初からジャガイモが腐った顔まではしてませんよ。それで要件というのは何ですか?この後教頭の様子見を見ようかと思っていあるんですが。絶対あの人ブチ切れてると思うので。」
「それについては心配するな。」と窓際に立つ式之宮先生が言った。俺はイマイチ意味が分からず眉を顰める。
「今狐神を生徒会の見習いとして枠を置いている。勿論「あいつをなんかを生徒会におくべきではない。」と言われているがそれを止める権利はない。狐神だってここの生徒なんだから。」
なるほど。だから最近大人しくしているわけだ。とは言っても生徒会の見習いとは一体何だろうか。
すると今度はそれを察してくれたのか「生徒会の見習い」と書かれたパンフレットを差し出された。どうもと言いざっとその内容に目を通す。
「要するにパシリってわけですね。それでいて使えなかったら解雇。これじゃ巷で問題になってる派遣社員よりひどくないですか?物好きならいざ知らずこれは劣悪。」
「......ん?まるで自分に選択肢があるような言い方をするんだな。あると思ってんのか?それに一応言っとくと使えなかったらやめさせるんじゃない。俺が気に入らなかったらやめてもらうんだ。精々俺に媚を売るんだな。」
言い方は問題あるとは思うが、確かに言う通りではあるんだよな。選択肢なんて俺にはないようなものだし、どれだけ仕事ができても嫌な奴と一緒に居たくはない。媚を売るのは正直無理な気もするが、ここで答えを引き延ばしても何も変わらないか。
「それに今現在この学校で最も嫌われているお前が、もし生徒全員を見下ろすこの席に座れたら、おもしろそうだな、と俺は思う。」
その言葉についにやけてしまう。
「……そうですね。俺もそう思います。」
1度心を落ち着かせるため、目を瞑る。色々な不安が押し寄せて来るが迷ってる暇などない。
再度会長と向き合い、そして俺に出来る誠心誠意で頭を下げる。
「俺を、生徒会にいれてください。」
「......ま、精々捨てられないように頑張りたまえ。」
うす。
もし俺が生徒会に入れるとしたら今空いている庶務の役目になる。なぜここだけ空いているのかと訊くと「適任者がいなかった」とのこと。庶務は決まった仕事がないので所謂雑務のそれだと思ってもらえれば。その為まずは『鶴』と呼ばれているこの人の仕事の手伝いをしろと。あとこの人は俺と同じ1年生らしい。
「……私は書記だから会議とかの内容を書いてる。今日は運動部の予算の会議。」
そう言って会議室と書かれた扉を開ける。中には既にたくさんの恐らく運動部長が座っており、俺を見るなりヒソヒソと話し始めた。「気にしないで。」と言われたが元々あまり気にしてない。そしてやがて定刻になり会長のだるそうな声で会議が始まる。因みにその原因は眠いのと本来これは会計の仕事じゃないか?とのこと。会議は各部長の意見に会長が答えるといった形で進んでいくが、その内容のほとんどはやはり予算を上げろというものばかり。勿論そんな簡単に上げられるわけもなく平行線がいつまでも続いた。一応大切かもしれない言葉はノートに書いたが、イマイチこの仕事は俺に合わなそう。少し気になり隣で書いていた本物の書記のノートを見る。
『会議は踊る。されど進まず。』
この上なくわかりやすいがそれでいいのか。
「というかさ、俺会計の人と副会長の2人とほとんど面識ないんだけど、俺避けられてる?」
理由なんか思いつかないわけないしとても納得できるものだが、そうなると俺が生徒会に入るなんて到底無理じゃないか?
「……ん、そんなことないと思うけど。会長はああだから、きちんと仕事さえしてくれれば別に生徒会室に来なくてもいいって言ってた。」
自由だと思うがそっちの方が気が楽という人もいるか。無理に毎日来いとか絶対やだしな。
「一鶴さんもあんまり行ってないの?」
この人は愛称で『鶴』と呼ばれているが本名を蓬莱殿一鶴というなんかすごい名前をしてる。
「……鶴でいいよ。私は一応ほぼ毎日行ってる。用事があれば行かないけど。瀬田さんは眠くなかったら来る。会計の春風さんは付き合ってる女の人がいる時は全然来ない。副会長の禦王殘君は週二で週末は休み。もう1人の副会長のNOAちゃんは私と同じで基本毎日来るかな。」
ちょっと男子、働けよ。多分ノアって人が女性で禦王殘て人が男かな。そして呼び捨てってことは俺と同じで1年生か。1年で副会長ってすごい気もするけど、普通にある事なのだろうか。俺は4人しか見たことないけど残りの1人は誰だろうか。でも焦らずとも近いうちにどうせわかるか。
「で、どこに向かってるの。」
「……き、気の向くままに。」
迷ったんですね。確かに2ヶ月でこのバカでかい学校の前把握は難しいもんな。
そんな折、後ろから「あれ?」とため息を吐きたくなるような声がした。その声の主は迷わずこちらへ来てやがて俺の前へ立つ。
「やっぱり!狐神君だ。生徒会に入ったって聞いてはいたけどほんとにそうだったんだ。……あ!別に嫌な意味とかで言ったんじゃなくて!すごいなって!生徒会なんて私には到底入れないから。」
よく1人でこんなベラベラと話せるものだ。赤毛の女の子でもあるまいし。でも多分それがこいつの強みでもあるのだろうな。隣の鶴も少し困った顔をしている。
「あ、挨拶遅れてごめんなさい。書記の蓬莱殿さんだよね?私白花小石って言うの。1回蓬莱殿さんはと話してみたかったんだ。あ、私も狐神君と同じで鶴ちゃんでいい?いや、でも近くで見るとほんとに綺麗だね。うん!本当に綺麗で……」
「嫉妬しちゃうなぁ。」
何となく鶴も勘づいたか。これ以上はまずいな。やや強引にでもこいつを連れ出すか。
「おい白は「おいてめぇ!!」」
どこからともなく聞こえた怒声とともに、俺の頬に拳がめり込む。そしてそのまま壁まで吹き飛ばされる。睨むように見上げると、ブチ切れた相川がいた。またも勘違いで俺はこいつを怒らせたのか。この脳筋野郎が。
「美桜と小石にあんな事して、今もまた小石に手出そうとしてたよな。……いい加減にしろよ。なんでてめぇなんかがまだこの学校にいるんだよ。……失せろ!!」
何かを言おうとする2人を制し、相川の目の前に立つ。今にでも殴られそうだがこれだけは言っておこう。どうせ信じて貰えないだろうが。
「俺は何もしてない。さっきも確かに手は掴もうとしたが悪気は一切ない。」
こうやって堂々と否定したことはあっただろうか。少しだけ相川が一瞬怯んだ気がした。けれどほんとにそれは一瞬だった。
「っせーよ!!」と怒号と共に股間を思い切り蹴りあげられた。その痛みにまたもダウンすると、相川は白花を連れてどこかへ行った。白花をどこかへ連れていってくれたのはよかった。
「……大丈夫?」
鶴は心配そうな顔を浮かべ俺に駆け寄ってくれた。背中を摩ってくれたが多分それ意味ないかな。何を吐けと。
「ありがとな、手を出さないでくれて。」
「……決意みたいなのが見えたから。かっこよかったよ。」
どうも。